姫様従者と王子様

花夜

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Ⅰ:始まりは姫の旅

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 朝方に城を抜け出した後、ユリフィアは街で一頭の馬を手に入れ、隣国であるプルメリア王国との国境を目指して街を横切り一直線に進んだ。

 国境くにざかいまでは追っ手もなく順調だった。

(けれど、さすがにここはすんなり通れないよね)

 国境警備は厳しい。

 かと言って他の手段で隣国へ入るとすれば険しい山道を越えなければならない。

 さすがにこんな軽装で山越えは出来ないとユリフィアはその考えを振り払う。

(ここは…強行手段といきますか)

 国境門には下でそこを通る者の検問を行う衛兵が4人、門の上の見張り台に2人。

 さらにすぐ近くには屯所があり、問題があれば駆けつける衛兵がざっと10人強というところだろう。

 ならば、1番安全な道はーー上の見張りを眠らせ、その異変に気がつかせないように細工することだ。

 ユリフィアは頭の中で素早く計算する。

 そしてここまで乗せてくれた黒馬にお礼を言って放した。

「風よ来たれ、我が身を包み運び給え!風の翼ヴァンウィング

 誰にも見られていない事を確認し、風魔法の呪文を唱えた。

 ふわりと優しい風が身体を包み、一気に上の見張り台まで飛んだ。

 事件など起こるはずないと高を括っていた衛兵2人は、突然現れた少女に驚き、さらにその者が姫だと認識できると驚きは5倍に増したのだった。

「ひ、姫様っ!?」

「どうしてここにっ…!!」

 口々に問い詰める彼らの無防備な腹に一撃ずつパンチと蹴りをお見舞いする。

 それだけで簡単に伸びてしまった。

(私が言うのもなんだけど…警備衛兵がこんなに弱くて大丈夫かな)

 割と本気で心配しつつも、ごめんなさいと手を合わせた。

「霧よ、人々を惑わせ その姿を見せ給え!幻影花イリュージョンフルール

 水魔法に属する霧を操り、周りからは見張りが機能しているように見せる。

 当の衛兵たちにはさらに眠り魔法をかけ、その場に横たえさせた。

「本当にごめんなさい」

 そう囁いて、プルメリア王国側の壁を飛び降りたのだったーー。







 国境を越えてしばらく歩くと小さな町に着いた。

 そこからプルメリアの王都、セレッソに向かう乗り合い馬車を利用する予定だ。

 セレッソまでは馬車で3日ほどの距離にある。

(歩いて行くには大変だし、魔法も無限じゃないし…ちょっとくらい贅沢してもいいよね)

 うん、と自分を納得させてさっそく馬車の交渉に向かうと、乗り合い場で出発は1時間後だと伝えられた。

 それまでは辺りを散歩でもしようかな。

 空は快晴。

 風も心地よく、本当に外に出たのだと実感した。

 周りの景色全てが新鮮で無性に走り回りたい気分だ。

 けれど…。

 どうしても1つ気がかりがあった。

 それはレティーシアのこと。

(シアちゃん。怒っているかな…)

 レティーシアは私の従者であり、かけがえのない唯一の友だ。

 今日までの監禁同様の生活に耐えてこられたのもレティーシアがいてこそだった。

 孤独だった私に与えられた一筋の光。

 大袈裟かもしれないが、それくらいレティーシアはユリフィアにとって大切な者である。

(でも…これを機に解放してあげなきゃ)

 彼女もまた、ユリフィアと同じように滅多に外に出れず、また有給を消化するために街へ行くのにも大変な手続きが必要だった。

 私のせいで今まで不自由な生活をいてきた。

 だからね、シアちゃん。

 貴女もどうか自由に歩んで欲しい。

 騙す形で黙って旅に出てごめんね…。

 時間になり、馬車に乗り込む。

 風に揺られながら、もう見えないフリージアの情景を浮かべ、レティーシアの顔を浮かべ、そしてこれから進む先を見つめた。

 きっと、お城にいては出会えない素敵な事が待っている。

 未知の世界への期待を胸に、家出姫は王都を目指すのだった。

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