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33 好奇心

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 まずケントが向かったのは、ラスティーン軍と対峙する帝国軍の陣内だった。

 帝国軍の指揮官であるフローリアに話を通すためだ。

 帝国側の国境の街ガイアは厳戒態勢であり、当然ケントも怪しまれたのだが、報せを聞いたセイラに身元を保証してもらい、何とかフローリアの前までたどり着くことができた。

「ケント殿、貴殿の言いたいことはわかっているが、今度ばかりは駄目だ。今回は向こうから攻めこんで来るのだからな」

 固い表情。他人行儀な口調。フローリアには一歩も退く気はないようだった。

「わかってる。頼みたいのは帝国から先制攻撃をしないで欲しいということだけだ」

「はじめからそのつもりだ」

「ありがとう。それで十分だ」

 言質だけ取ると、ケントは性急に立ち上がった。

「ケント殿、どうする気だ?」

「ラスティーン軍を止める」

「…止められるのか?」

「多分」

 断言はしなかったが、ケントには勝算がありそうだった。

「これはあんまりやりたくなかったけど、そうも言ってられなくなってきたからな。こんなくだらねえことで人の命がなくなっていいわけがねえ」

「どういうこと?」

「その話はまた今度な。急ぐからもう行くわ。さっきの約束だけは頼むぜ」

「あ、ちょっとーー」

 言うだけ言って、ケントはさっさと行ってしまった。

「…気になるわね」

 フローリアは眉を寄せた。

 ケントの態度から見て、原因を把握しているのは間違いなさそうだ。そして、十中八九それがアルミナに起因しているのだとは思う。

 だが、なぜわざわざ帝国にケンカを売ってくるのかは理解できなかったし、ケントがラスティーン軍をどう止めるのかにも興味があった。

「ーー追いかけます?」

 唐突にセイラが訊いた。

「え?   でもーー」

 即座に否定しないあたりにフローリアの本心が透ける。

「しっかり事態を把握しておかないと、手ぶらで帰ることになった時、各方面から突き上げられると思いますよ」

「うーん……」

 それは確かにそうなるだろう。本当にケントが戦争を止めてしまえば、フローリアたちがここまで来たことが、単なる徒労になってしまう。

 もちろん戦争などしないにこしたことはない。だが、建前や綺麗事だけでやっていけるほど、国家経営は甘いものではないのだ。

「そうね。事情は掴んでおいた方がいいわね」

 ひとつ頷いた時、フローリアはセイラの表情に気づいた。

「…セイラ、楽しんでない?」

 そう、セイラは実に嬉しそうな顔をしていたのだ。特に目が邪な好奇心に輝いていた。

「だって気になりません?」

「気にはなるけど……」

「それなら確かめに行きましょう」

「え!?」

 さすがにフローリアは驚いた声をあげた。

「い、行くの?」

「行かないんですか?」

 何あたりまえのことを、と言わんばかりの口調に、フローリアは自分が間違ってるのかと首を傾げた。

「いいんですか?   復縁があるとは思いませんけど、実際に二人が会ったら、何が起こるかわかりませんよ」

「それはイヤ」

 元々気になっていたところにだめ押しをされて、フローリアの気持ちはあっさり傾いた。

「行こう」

 それでいいのか、とツッコミたくなる軽さで二人のお忍び行が決まる。よくあることなので兵士たちも何も言わない。

 こうして、ケントの知らないところで監視の目が光ることになったのであった。

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