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72 ある名言
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一通り魔物の侵攻を鎮圧した後、ケントたちは帝都を訪れた。報告と今後の対応を検討するためである。
「今回は助かった。礼を言う」
「今回は」を強調しすぎの感はあったが、皇帝は素直に頭を下げた。
「いえ、当然のことをしただけです」
苦笑を面に出さないよう、神妙な表情を作ってケントは言った。
まだ何か言いたそうにしていた皇帝だったが、時と場所をわきまえ、それ以上余計なことは言わなかった。
代わりに口にしたのは今回の異常事態についてであった。
「過去の記録を調べてみたら、今回によく似た事例が見つかった」
「そうなんですか?」
そのあたりは流石歴史ある帝国といったところだろうか。グリーンヒルではこうはいかない。
ケントは話の続きを期待したのだが、皇帝は難しい表情で腕組みしたまま沈黙している。
「お父様……?」
皇帝の態度を訝しく思ったフローリアが声をかける。
「……」
「どうしたんですか?」
皇帝の様子には不安をあおられる。
「…あの魔物たちは、より強い魔物に住み処を追われた可能性が高い」
「え? どういうこと?」
「残っている記録によれば、その時は辺境の中でも最奥の地に発生した魔物によって追いたてられたということのようなんだ」
「じゃあ……」
「この後が本番だということだ」
「……」
「……」
重い沈黙が落ちる。
それぞれの頭の中で嫌な想像が膨らんでいく。
「…ちなみに、その時の魔物って何だったんですか?」
「ヴァンパイアだと伝えられている」
「「ヴァンパイア!?」」
ケントとフローリアの素っ頓狂な声が重なる。
「伝説級の化物じゃないですか!?」
一体でもヴァンパイアが現れれば、それはもう国家災害級の事案である。国の枠など取り払い、全世界で討伐にあたらなければならない。そんな魔物だ。
「相手がヴァンパイアだって言うなら、魔物たちが逃げ出すのもわかるな」
「そんなのんきなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
フローリアの悲鳴で、少々現実逃避気味だったケントの思考が通常に戻る。
「まずいじゃないですか! すぐに対策取らないと」
「わかっている」
皇帝は頷いた。
「すでに各国に使者は発した。後はこの話が信じられるかどうかだろう」
「信じるも信じないもないでしょう。実際にことが起きてるんですから」
「だからといって簡単に足並みが揃うとは限らんのだよ」
皇帝は自嘲めいた笑みを浮かべた。
「我等は人間同士で争いすぎた。昨日まで角突き合わせていた相手から協力を求められても、すぐに頷けるものでもないだろう」
「バカですか!?」
ケントは思わず叫んでいた。
「内輪揉めなんてしてる場合じゃないでしょう!? 何でそれがわからないんですか!?」
「実際に被害が出てからなら動くと思うが、いざとなれば帝国のみで事にあたる」
「そんなの無理に決まってるでしょう! あの程度のザコ相手にあれだけ苦戦してるんですよ。ヴァンパイアが相手なら瞬殺されますよ!」
頭に血が上っているケントは言葉に容赦がない。皇帝が苦虫を噛み潰しているのにも構わず言い募る。
「メンツに拘ってる場合じゃないでしょう。頭下げてでも世界中の戦力を結集すべきだ」
「…言うほど簡単なことではないんだ」
「やる前からあきらめてどうすんだよ!」
ついに敬語すらかなぐり捨てて、ケントは大声を上げた。
「……」
それでも皇帝は動かない。
業を煮やしたケントは椅子を蹴って立ち上がった。
「もういい! 俺がやる!!」
「あたしも手伝うわ」
フローリアも立ち上がる。
「できると思うのか?」
「やってやるよ。やらなきゃ生き残れそうにないからな」
一旦言葉を切ったケントは、前世の記憶にあった言葉を続けた。
「ーーあきらめたら、そこで試合終了だ」
「今回は助かった。礼を言う」
「今回は」を強調しすぎの感はあったが、皇帝は素直に頭を下げた。
「いえ、当然のことをしただけです」
苦笑を面に出さないよう、神妙な表情を作ってケントは言った。
まだ何か言いたそうにしていた皇帝だったが、時と場所をわきまえ、それ以上余計なことは言わなかった。
代わりに口にしたのは今回の異常事態についてであった。
「過去の記録を調べてみたら、今回によく似た事例が見つかった」
「そうなんですか?」
そのあたりは流石歴史ある帝国といったところだろうか。グリーンヒルではこうはいかない。
ケントは話の続きを期待したのだが、皇帝は難しい表情で腕組みしたまま沈黙している。
「お父様……?」
皇帝の態度を訝しく思ったフローリアが声をかける。
「……」
「どうしたんですか?」
皇帝の様子には不安をあおられる。
「…あの魔物たちは、より強い魔物に住み処を追われた可能性が高い」
「え? どういうこと?」
「残っている記録によれば、その時は辺境の中でも最奥の地に発生した魔物によって追いたてられたということのようなんだ」
「じゃあ……」
「この後が本番だということだ」
「……」
「……」
重い沈黙が落ちる。
それぞれの頭の中で嫌な想像が膨らんでいく。
「…ちなみに、その時の魔物って何だったんですか?」
「ヴァンパイアだと伝えられている」
「「ヴァンパイア!?」」
ケントとフローリアの素っ頓狂な声が重なる。
「伝説級の化物じゃないですか!?」
一体でもヴァンパイアが現れれば、それはもう国家災害級の事案である。国の枠など取り払い、全世界で討伐にあたらなければならない。そんな魔物だ。
「相手がヴァンパイアだって言うなら、魔物たちが逃げ出すのもわかるな」
「そんなのんきなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
フローリアの悲鳴で、少々現実逃避気味だったケントの思考が通常に戻る。
「まずいじゃないですか! すぐに対策取らないと」
「わかっている」
皇帝は頷いた。
「すでに各国に使者は発した。後はこの話が信じられるかどうかだろう」
「信じるも信じないもないでしょう。実際にことが起きてるんですから」
「だからといって簡単に足並みが揃うとは限らんのだよ」
皇帝は自嘲めいた笑みを浮かべた。
「我等は人間同士で争いすぎた。昨日まで角突き合わせていた相手から協力を求められても、すぐに頷けるものでもないだろう」
「バカですか!?」
ケントは思わず叫んでいた。
「内輪揉めなんてしてる場合じゃないでしょう!? 何でそれがわからないんですか!?」
「実際に被害が出てからなら動くと思うが、いざとなれば帝国のみで事にあたる」
「そんなの無理に決まってるでしょう! あの程度のザコ相手にあれだけ苦戦してるんですよ。ヴァンパイアが相手なら瞬殺されますよ!」
頭に血が上っているケントは言葉に容赦がない。皇帝が苦虫を噛み潰しているのにも構わず言い募る。
「メンツに拘ってる場合じゃないでしょう。頭下げてでも世界中の戦力を結集すべきだ」
「…言うほど簡単なことではないんだ」
「やる前からあきらめてどうすんだよ!」
ついに敬語すらかなぐり捨てて、ケントは大声を上げた。
「……」
それでも皇帝は動かない。
業を煮やしたケントは椅子を蹴って立ち上がった。
「もういい! 俺がやる!!」
「あたしも手伝うわ」
フローリアも立ち上がる。
「できると思うのか?」
「やってやるよ。やらなきゃ生き残れそうにないからな」
一旦言葉を切ったケントは、前世の記憶にあった言葉を続けた。
「ーーあきらめたら、そこで試合終了だ」
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