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52 それは思っても言うなって

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「ぼちぼち気をつけてけよ。このへんから魔物のランクが上がってくるぞ」

 ゴライオの言葉に全員の雰囲気が引き締まる。

 辺境地帯に進出して二日。ここまでは低ランクの魔物を相手に順調な行程を刻んできた一行だったが、いよいよ辺境がそれらしさを増してくる地域にさしかかっていた。

 出現する魔物もオークの上位種やオーガなど辺境入口付近では滅多に見かけない凶悪なものが増えてきていた。

 それでも数多い冒険者の中でも腕利きで知られるメンバーで構成された一行は、被害らしい被害を受けることもないまま行程を進めた。

 普通の狩りなら十分過ぎる成果を挙げたところで夜営のタイミングになり、それぞれに準備に移る。

「この遠征、何がいいかって、飯が美味いのが一番いいよな」

「違いない。でも、これを知っちまうと次の狩りがツラくなりそうだな」

「それな」

 苦笑しながら冒険者たちは、狩ったオークの肉を料理しているケントを見る。楽しそうにご飯を作る姿は一国の王子には見えなかった。

「変わった王子だよな」

「自分を王子だとは思ってなさそうだ」

「むしろ女子力の高さが目につく」

「だな。わはははは」

 すると、聞こえていたらしいケントが剣呑な視線を向けてきた。

「何が女子力だ。晩飯抜くぞ」

「あー、嘘です、すいません!」

 慌てて謝る冒険者たち。こんなつまらないことでケントのご飯を食えなくなるのは愚の骨頂だ。それくらいケントの料理は冒険者たちの胃袋を鷲掴みにしていたのだ。

 もとよりケントも本気で怒っているわけではないので、できあがった料理を皆に配っていく。

「ベースはオークの生姜焼きだけど、いつもよりニンニクを多めに入れてるからな」

「美味い!」

「あー、しみじみ美味い。狩りでこんな飯が食えるなんて夢みてえだ」

 通常、狩りの際の食事は貧しい。干し肉のような保存食か獲物を食うかだが、どちらにしても手を加えないことには、悲しくなるほど不味いのだ。

「これが食えるんなら明日も頑張ろうって気になるよな」

「まったくだ」

 頷き合う冒険者たち。どの顔も満たされている。

「ふと思ったんだけど、魔物って、この匂いに釣られたりしないのかな?」

「あ、バカーー」

 話していた相手だけでなく、周り中から非難の視線が飛んでくる。

「え?」

 言った男はきょとんとする。自分の言葉がもたらす展開が理解できていないのだ。

「そういうことは思っても口に出すな。そういうのって、実現率が異様に高いんだから」

「ま、まさかそんなーー」

 言い終わらない内に、魔物のものとおぼしき咆哮が夜の帳を切り裂いた。

「敵襲!」

 フラグを立てた男に非難の目を向けつつも、冒険者たちは速やかに戦闘態勢に移っていった。

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