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127 王家の秘伝書

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 結婚式の準備は順調に進んでいた。

 一部の気の早い国は早くも使節団を送り込んできて、忙しそうに外交を繰り広げている。

 そんな国の中のひとつにシルヴィアの故国であるレジーナ王国があった。

 レジーナ王国は今回の式にあたり、第一王女のアンジェリーナと第二王女のマリエールを正使として立てていた。通常こういう時の正使は一人なのだが、シルヴィアとの関係があるので不自然ではなかった。

 二人からシルヴィアと俺に面会希望があった。

「俺も?」

「ええ。ぜひにということらしいんだけど」

「何だろう…嫌な予感しかしねえ……」

「考えすぎよ」

 とりあえず二人を家に招き、話を聞くことにした。

 久しぶりに会った二人は、随分と大人っぽくなったように感じられた。と言ってもそれほど深い交流があったわけではないので、あくまでも漠然としたイメージでしかないが。

「ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」

 二人揃って固い、というか、他人行儀な挨拶をしてきた。こういう時って何か言いたいことがあるんだよな。

「ああ、久しぶり。そっちも元気なようで何よりだ」

 一拍置く。

「苦情でも何でも言っていいぞ」

 シルヴィアを含めた三姉妹が息を呑んだ。

「俺に言いたいことがあるんだろ。引っ張ってもしょうがないから、早く済ませようぜ」

「そうですね。それでは単刀直入にうかがいます」

 そう口火をきったのはマリエールだった。

「コータロー様、あまりにも早すぎませんか?」

「早すぎる?   何がだ?」

 言われる内容はある程度想像していたのだが、ちょっと切り口が違ったみたいだ。

「王女様と結婚なんて、姉様のことはどうするつもりですか」

「もう姉様に飽きてしまったのですか?」

 …何でそうなる……

「王族になりたいんだったら、ウチでもよかったじゃないですか」

「待て待て。何の話をしてるんだ?」

「ミネルヴァ王女と結婚してオルタナの王族になるって聞きました」

「それに伴って姉様を愛人に降格させるって聞きました」

 …また随分とアクロバティックな展開になってるな。

 頭痛がしてきた。

「とりあえず一回落ち着こうか」

 ため息とともに言う。

「デマ」

「え?」

「デマだから、その話。今の話の中で、合ってるのは俺とミネルヴァが結婚するってくだりだけだから」

「え?   そうなの?」

「そうだよ」

「王族には?」

「ならないよ」

「姉様の降格は?」

「あるわけないだろ」 

「誰よ、デマ流したの」

「こんなデマに惑わされるのもどうかと思うが」

 俺的には苦笑するしかない。

「そうは言っても、いきなり王女様と結婚するって聞けばびっくりするわよ。わたしたちだけじゃなくて、お母様も心配してたんですよ」

「ごめんなさい。ちゃんと連絡できなくて」

 シルヴィアに頭を下げられると、二人としては何も言えなくなってしまうようだ。

「ミネルヴァはね、わたしと同じで呪いをかけられていたの。コータローが解いてくれたんだけど、そうしたらコータローのこと好きになるのもわかるでしょ。わたしも他人事とは思えなかったし、ミネルヴァがとってもいい娘だったから、こういう形をとることにしたの」

「そうでしたか。安心しました」

 二人は揃って胸を撫で下ろした。

「でも、そうなると、アレ、必要なかったのかしら」

「アレ?」

「お母様が持たせてくれたんです。王家秘伝の房中術の書を」

「房中術?」

「これを使ってコータロー様を骨抜きにして、正妻の座を取り戻すようにって」

 何考えてんだ……

 ため息とともに脱力してしまう。

「今のところ心配はないけど、その秘伝書は欲しいかも」

 シルヴィアさん!?

 そりゃ興味はあるけど、あからさますぎて、ちょっと……

 姉妹の気安さからか、シルヴィアは割りとあっさり秘伝書を受け取った。



 その夜のシルヴィアは、早速技を増やしていた。非常に勉強熱心なことである。
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