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69 シルヴィアのトラウマ
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「やっと援軍が来るらしいな」
待ちに待った朗報に、皆ほっとした表情になった。
いい加減皆限界が近かったのだ。明らかな過重労働だったが、人手がないのも事実だったので、文句を言うこともできずにブラックな環境に甘んじていたわけだ。
やっとこの劣悪な環境から解放される目処が立ったということで、俺たちは最後の一踏ん張りをするべく気合いを入れ直したのだがーー
「コータロー、シルヴィアを連れて、先に王都に帰りなさい」
カズサさんがいきなり変なことを言い出した。
「は? 何で?」
「援軍、って言うか、新しい駐留部隊の指揮官がブロディ将軍だからだ」
苦りきった顔と声。初めて聞く名前だけど、カズサさん、よっぽどそいつのこと嫌いなのかな?
ふと気がつくと、シルヴィアの顔が強張っていた。
「どうした、シルヴィア?」
「…会いたく、ない……」
何かあったってのは確信したけど、ここで問い詰めるのはないよな。
まあ、何となく想像はつくんだがな……
皆が言いづらそうにしてるのを見ても、間違いないんだろう。
「……」
何だろう。すげえイラッときた。
「…いいのかよ、そのままで」
「え?」
「何があったか知らんが、逃げてるみたいで嫌だな」
「コータロー、それはーー」
言いかけたカズサさんを制する。
「いつまで過去に囚われてるんだ? 今のおまえには俺がついてるんだが」
そう言うと、シルヴィアははっとしたようだった。
「やましいことがあるわけじゃねえんだ。堂々としてろ。一度逃げちまったら、そいつの顔見る度にこそこそしなきゃいけなくなるぞ。そんなん嫌だろ?」
こくり、とシルヴィアは頷いた。
「だったら普通にしてろ。前にそいつと何があったか知らんが、今の幸せな姿を見せつけてやれ」
「べ、別に何かあったわけじゃないよ」
誤解されたと思ったのか、シルヴィアは慌てて言った。
「ただちょっと醜女だとか罵られただけで……」
…シルヴィアさんや、それは十分何かあったって言えるレベルじゃないか?
「罵られたって……あ、話したくなければ無理には聞かんけど」
「ううん、吹っ切るためだから聞いて欲しい」
「わかった」
「そんな事実はなかったんだけど、お父様が将軍にわたしとの婚約を命じたという話が流れたんです。その頃わたしはああいう状態だったので、興味本意と言うか野次馬根性というかであっという間に話が広まってしまったんです。それこそお父様が否定する間もなく……」
まあ、噂なんてそんなもんかもな。
「そうしたら、将軍がわたしのところへ来て『姫のような醜女と結婚するつもりはない。それを強制されるくらいなら辺境で蛮族の相手をしている方がましだ』と言って、本当に転属してしまったんです。当時、将軍は王都防衛の要と言われていたので、何でこんなことになるんだと、結構な騒ぎになってしまって……」
「わたしたちのところにまで聞こえてくるぐらいだから、王宮の中での風当たりはキツかったと思うよ」
カズサさんの補足を聞いたが、何だか腑に落ちない。違和感が山盛りだ。
「…この話、ダレトクなんだ?」
そこがわからん。
「シルヴィアはイヤな思いをさせられた。王様も評判落とした。将軍だって辺境に飛ばされた。誰も得してないよな。誰か将軍の後釜に座った人がいい思いをしたとか?」
「一度は引退したベテラン将軍が引っ張り出されたから、当人には迷惑だったんじゃないかな」
…余計にわからん話だな……
考えても答えは出そうになかったので、シルヴィアのフォローを兼ねてまとめることにした。
「よかったよ。そこでその将軍にシルヴィアを取られなくて。そこでそのデマが本当になってたら、俺はシルヴィアと出逢えなかったわけだからな。醜女呼ばわりはムカつくが、今のシルヴィアを見て悔しがればいい」
そう言ってシルヴィアの肩を抱き寄せる。
「確かにその方が前向きでいいわね。ごめんね、余計な気を回しちゃって」
「とんでもない。ありがとうございます。そういうことがあったと知ってれば、心構えや対策もとれますから。これからもお願いします」
俺はカズサさんに頭を下げた。
待ちに待った朗報に、皆ほっとした表情になった。
いい加減皆限界が近かったのだ。明らかな過重労働だったが、人手がないのも事実だったので、文句を言うこともできずにブラックな環境に甘んじていたわけだ。
やっとこの劣悪な環境から解放される目処が立ったということで、俺たちは最後の一踏ん張りをするべく気合いを入れ直したのだがーー
「コータロー、シルヴィアを連れて、先に王都に帰りなさい」
カズサさんがいきなり変なことを言い出した。
「は? 何で?」
「援軍、って言うか、新しい駐留部隊の指揮官がブロディ将軍だからだ」
苦りきった顔と声。初めて聞く名前だけど、カズサさん、よっぽどそいつのこと嫌いなのかな?
ふと気がつくと、シルヴィアの顔が強張っていた。
「どうした、シルヴィア?」
「…会いたく、ない……」
何かあったってのは確信したけど、ここで問い詰めるのはないよな。
まあ、何となく想像はつくんだがな……
皆が言いづらそうにしてるのを見ても、間違いないんだろう。
「……」
何だろう。すげえイラッときた。
「…いいのかよ、そのままで」
「え?」
「何があったか知らんが、逃げてるみたいで嫌だな」
「コータロー、それはーー」
言いかけたカズサさんを制する。
「いつまで過去に囚われてるんだ? 今のおまえには俺がついてるんだが」
そう言うと、シルヴィアははっとしたようだった。
「やましいことがあるわけじゃねえんだ。堂々としてろ。一度逃げちまったら、そいつの顔見る度にこそこそしなきゃいけなくなるぞ。そんなん嫌だろ?」
こくり、とシルヴィアは頷いた。
「だったら普通にしてろ。前にそいつと何があったか知らんが、今の幸せな姿を見せつけてやれ」
「べ、別に何かあったわけじゃないよ」
誤解されたと思ったのか、シルヴィアは慌てて言った。
「ただちょっと醜女だとか罵られただけで……」
…シルヴィアさんや、それは十分何かあったって言えるレベルじゃないか?
「罵られたって……あ、話したくなければ無理には聞かんけど」
「ううん、吹っ切るためだから聞いて欲しい」
「わかった」
「そんな事実はなかったんだけど、お父様が将軍にわたしとの婚約を命じたという話が流れたんです。その頃わたしはああいう状態だったので、興味本意と言うか野次馬根性というかであっという間に話が広まってしまったんです。それこそお父様が否定する間もなく……」
まあ、噂なんてそんなもんかもな。
「そうしたら、将軍がわたしのところへ来て『姫のような醜女と結婚するつもりはない。それを強制されるくらいなら辺境で蛮族の相手をしている方がましだ』と言って、本当に転属してしまったんです。当時、将軍は王都防衛の要と言われていたので、何でこんなことになるんだと、結構な騒ぎになってしまって……」
「わたしたちのところにまで聞こえてくるぐらいだから、王宮の中での風当たりはキツかったと思うよ」
カズサさんの補足を聞いたが、何だか腑に落ちない。違和感が山盛りだ。
「…この話、ダレトクなんだ?」
そこがわからん。
「シルヴィアはイヤな思いをさせられた。王様も評判落とした。将軍だって辺境に飛ばされた。誰も得してないよな。誰か将軍の後釜に座った人がいい思いをしたとか?」
「一度は引退したベテラン将軍が引っ張り出されたから、当人には迷惑だったんじゃないかな」
…余計にわからん話だな……
考えても答えは出そうになかったので、シルヴィアのフォローを兼ねてまとめることにした。
「よかったよ。そこでその将軍にシルヴィアを取られなくて。そこでそのデマが本当になってたら、俺はシルヴィアと出逢えなかったわけだからな。醜女呼ばわりはムカつくが、今のシルヴィアを見て悔しがればいい」
そう言ってシルヴィアの肩を抱き寄せる。
「確かにその方が前向きでいいわね。ごめんね、余計な気を回しちゃって」
「とんでもない。ありがとうございます。そういうことがあったと知ってれば、心構えや対策もとれますから。これからもお願いします」
俺はカズサさんに頭を下げた。
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