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178 魔人の目的

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「連中、どこまで潜ったんだ?」

 既に先ほどの八階層を突破し、十階層に達している。しかし、レジーナの部隊は見つからない。

「どうする?   これ以上は俺たちにもリスクになるぞ」

 ただ奥へ行くだけならまだ余裕はある。だが、潜った分は戻らなければならない。それを忘れるとえらいことになる。

 皆の間に迷いが生まれた時ーー

「ぎゃああああああーーーっ」

 野太い悲鳴が届いた。

「こっちか!」

 考えるより先に身を翻して走り出す。

 修羅場にはすぐに行き当たった。レジーナの軍と複数の魔人が入り乱れて戦っている。

 ブロディは健在で、遠目にも巨体が暴れまわっているのが見える。言いたくないが、さすがと言ったところか。

 しかし、威勢がいいのはブロディだけだ。魔人が相手では一般の兵士には荷が重いだろう。

 つまりは苦戦中ということだ。

「助太刀する!」

 走り込む勢いのままに乱入する。兵士の背中に振り下ろされる魔人の刃を双剣で受け流し、反撃を加える。風神脚の威力は健在で、ほんの僅かな時間で二体を切り伏せた。

「おおっ!」

   レジーナの兵士たちが息を吹きかえした。

 続けて駆けつけてきたカズサさんたちも加わり、一気に形勢が逆転する。

 するとーー

「余計な真似をするな!」

 ブロディの怒号が飛んできた。

「は?」

 別に感謝されるとは思ってなかったし、それを求めもしないけど、さすがにこの対応はどうなんだよ……

 ため息をつきたくなるが、そんなことして逆襲食らったらそれこそバカみたいだ。話はするにしてもここを片付けてからだよな。

 と思っていたのだがーー

「邪魔をするなと言っている!」

 ブロディの野郎、俺に斬りかかってきやがった。

「うおっ!?」

 さすがに予想していなかったので、ヤバかった。かろうじてかわしたが、髪の毛が何本か飛んでいった。マジで間一髪だった。

「何しやがる!?」

「うるさい!   俺はおまえが気に食わんのだ!!」

「はあ!?」

 思わず耳を疑った。

 そりゃ好かれているとはこれっぽっちも思っちゃいないし、好かれてたら逆に迷惑だが、ここまでイカレた野郎だとは思わなかった。

 この言葉の通じなさっぷり、もはや同じ人とは思えない。

「将軍、落ち着いてください!」

「うるさい、邪魔をするな!」

 部下の言うことにも耳を貸さない。完全に俺をロックオンしてやがる。

「狂ってる」

 俺の仲間だけでなく、ブロディの部下たちも上官を扱いかねている。

 こんなことをしてれば隙だらけになるのは当然のことだ。特に頭に血が上ったブロディは周りがまったく見えていない。と言うか、見ていない。

 すると当然の帰結としてーー

「ぐおっ!?」

 無防備な背中に魔人の一撃を受けてしまう。

 倒れ伏したブロディの背中の傷は致命傷に見えた。

「お、おいーー」

 いくら最悪な関係だとは言っても、さすがにこれを喜ぶほど腐っちゃいない。追い討ちをかけてくるであろう魔人の前に立ちはだかり、ブロディを守るために剣を振るう。

 だが、その瞬間から魔人たちの様子が一変した。

 全員が目の色を変えてブロディにーーひいてはブロディを守ろうとする俺に殺到してきたのだ。

「うおっ!?」

 やべえっ!

 さすがにこの数は捌ききれねえ。ブロディの前から動けないのでは尚更だ。

 自分が切り刻まれる未来が頭に浮かぶ。

 正直、覚悟した。

 が、魔人たちは俺の脇を駆け抜けた。

 駆け抜けて、ブロディの身体をかっさらっていった。

「え?」

 予想外の展開に思わずフリーズしてしまう。

 その隙に魔人たちは風のように撤退していった。我に返った時には背中が小さくなってしまっていて、追うことはできなかった。

 追わなければいけないという考えはあったのだが、不確定要素が多い中でこれ以上のダンジョン探索は余計な犠牲者に繋がる可能性が高く、断念せざるを得なかった。

 仕方なくレジーナの部隊を守りつつ地上へ戻ったのだが、ヘビーな敗北感に苛まれることになった。

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