上 下
168 / 179

168 激闘

しおりを挟む
 一直線に魔族に突っ込む。

 虚を衝かれたか、一瞬だけ手が止まった魔族だったが、すぐに攻撃を再開してきた。

 ただ、相変わらず制御が甘いので、かわしながら距離を詰めることはできた。

 とは言え、それは紙一重の話であり、少しでも気を抜けば一発でお陀仏になりかねない危険な攻撃だ。

 こんな時、遠距離の攻撃手段があればいいなと切実に思うのだが、非常に残念なことに俺には魔法の適性はないんだ……

 まあ、ないものねだりしててもしょうがないんで、自分にできることをする。

 複雑な機動を駆使して間合いを詰める。一歩間違えれば自分の足がこんがらがってしまいそうなステップだったが、何とか破綻なく懐を取れた。

「しっ!」

 双剣を振り抜く。

 魔族の青い血が飛び散る。

 一気に畳み掛ける。限界まで手数を増やして魔族を追い込む。

 このまま押しきれるか、と思った時だった。

「危ないっ!」

 耳に届いたシルヴィアの声に、俺は反射的にバックステップを踏んでいた。

 同時に、胸に熱い痛みが走る。

「がっ!?」

 魔族の爪で切り裂かれたのだ。血が飛沫くが、こんなもんで済んでよかった。シルヴィアの警告がなければ、一撃でやられていたかもしれん。

「コータロー!」

 シルヴィアが飛ばしてくれた治癒魔法が、一瞬で傷を塞いでくれる。

  しかし、せっかく詰めた間がまた開いてしまった、もう一度やり直しだ。

 しかも、魔族の方は冷静さを取り戻したっぽい。ちとヤバいかも。

 しゃーない。消耗が激しいから、あんまり使いたくないんだけど、出し惜しみしてやられちまったら、それこそアホだ。

 意識を目に集中する。

 途端に右目が熱を帯びる。

「くうっ」

 身体の内側から灼かれる感覚にはなかなか慣れない。はっきり言って不快だ。

 ただ、その分得られる効果は絶大だ。

 強化された目で魔族を見ると、その右腰と左右のふくらはぎが光って見えた。

 …そこかよ……
 
 外見が人型だと、ついつい頭やら胸やらを狙っちまうが、それじゃ駄目らしい。

「では改めて」

 とは言え、いきなり急所を狙うのは下策だろう。まずは今まで通り頭狙い。

 嫌な笑いを顔に貼りつけた魔属は、今度は自ら間を詰めてきた。

 完全に勝った気でいるのが伝わってくる。弱点がバレているとは思っていないんだろう。

 すぐに吠え面かかせてやるぜ。

 と思ったのだがーー

 この魔族、思ったよりもずっと強い。これまでやりあった魔族と比べても桁違いに強い。

 ミネルヴァに施してもらった身体強化をフル活用してもついていくのがやっとだ。って言うか、これがなければ瞬殺されてた。

「くそっ」

 防戦一方で反撃のきっかけが掴めない。せっかく弱点がわかっても攻撃できなきゃ話にならん。

「コータロー!」

 悲痛な声が聞こえる。

 心配するなと言いたいところだが、この状態じゃあ強がりにもならない。

 かわしそこねた魔族の爪に二の腕を浅くだが切られた。

 すぐさまシルヴィアの治癒魔法で癒されるが、その頻度は増す一方で、このままではジリ貧だ。
 
 やるしかないか。

 これも身体の負担が大きいので、できれば避けたかったのだが、そうも言っていられないな。

「ーーミネルヴァ、頼む!」

 準備はしていたのだろう。すぐさま身体強化の魔法が重ね掛けされた。

 身体中がカッと熱くなる。

 力が溢れ出す感覚。じっとしていられない。何でもできそうな気分に包まれるが、勘違いしちゃいけない。この全能感には時間制限がある。しかもそれはかなり短いのだ。

 本能の命じるままに反撃に転じる。

 突如としてスピードとパワーを増した俺の動きに、魔族はついてこれなかった。

 脇を抜けながら右腰、返す刀で左のふくらはぎを斬る。

 十分な手応え。

 耳をつんざくような叫び声を上げて、魔族は倒れた。

 だが、俺の方もこれ以上は無理だった。まともに立っていられず、その場に尻もちをついてしまう。

「…まさか俺が人間ごときに負けるとはな……」

 苦しそうな息をしながら魔族は口を開いた。

「だがな、俺に勝ったからと言っていい気になるなよ。俺は幹部の中では一番弱いんだからな」

 はい、テンプレ来ましたよ。こういう台詞って、ホントに言うヤツいるんだな。

「貴様の情報は魔族全体に行き渡った。今から全ての魔族が貴様の命を狙う。覚悟しておけ。これ以降貴様に安息の日は訪れん」

「はっ、今更だな」

 そう、今更なのだ。何が変わるわけでもない。

「いつでも来いや。俺は逃げも隠れもしねえから」

 そう言って、最後の急所ーー左のふくらはぎに刃を立てると、魔族は息絶え、煙となって消えた。

 消えた跡には、拳大の紫色に光る石が残された。

「何だ、こりゃ?」

 拾ってみると、背筋がぞわっとした。かなりヤバい物のようだ。

「魔石を遺すということは、かなり上位の魔族だったようですね」

 近づいてきたツブラが言った。

「魔石?」

「その説明は後でしましょう。まずは休んでください」

 言われて、半端ない疲労感に気づく。身体が自分のものではないようだ。指一本動かすのも難儀だ。

「わりぃ、ちょっと休むわ」

 シルヴィアたちが駆け寄ってくるのを見ながら、俺は意識を手放した。

しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

世界を滅ぼす?魔王の子に転生した女子高生。レベル1の村人にタコ殴りされるくらい弱い私が、いつしか世界を征服する大魔王になる物語であーる。

ninjin
ファンタジー
 魔王の子供に転生した女子高生。絶大なる魔力を魔王から引き継ぐが、悪魔が怖くて悪魔との契約に失敗してしまう。  悪魔との契約は、絶大なる特殊能力を手に入れる大事な儀式である。その悪魔との契約に失敗した主人公ルシスは、天使様にみそめられて、7大天使様と契約することになる。  しかし、魔王が天使と契約するには、大きな犠牲が伴うのであった。それは、5年間魔力を失うのであった。  魔力を失ったルシスは、レベル1の村人にもタコ殴りされるくらいに弱くなり、魔界の魔王書庫に幽閉される。  魔王書庫にてルシスは、秘密裏に7大天使様の力を借りて、壮絶な特訓を受けて、魔力を取り戻した時のために力を蓄えていた。  しかし、10歳の誕生日を迎えて、絶大なる魔力を取り戻す前日に、ルシスは魔界から追放されてしまうのであった。

【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。

華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。 王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。 王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。

処理中です...