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「このオーク汁というのは美味いものだねえ。ご飯に実によく合う」
そう言いながらアレックスさんは三杯目のおかわりを所望した。お口に合ったようで何よりだ。
「この卵もとても美味しいわ。噛むとじゅわーっと幸せな味が口の中に広がるの。これ、毎日でも食べたいわ」
うっとりした口調のレイアさんは、だし巻き玉子が気に入ったらしい。
二人とも年齢に似合わぬ健啖家ぶりを発揮し、それぞれおかわりまでして朝食を終了した。
「「ごちそうさまでした」」
「お粗末さまでした」
こうやって美味しく食べてくれるのは料理人冥利に尽きる。特にこのお二人は間違いなく普通の人より舌が肥えているはずだから尚更だ。
「時にご店主」
「はい、何でしょうか?」
「そなたのレパートリー、どれくらいあるのだ?」
アレックスさん、妙なことを訊いてきた。
「レパートリーですか? どうですかね……数えたことないんで何とも言えないんですが……」
多分百や二百はあるはずだが、正確な数となると、ちょっと見当がつかん。
「まだしばらく宿泊は可能かな?」
「あ、それはもちろん大丈夫です」
「では七日ほど延長してくれ」
アレックスさんは重々しい口調で言った。
「これはワシからの頼みなんだが、その間、できるだけたくさんの種類の料理を出して欲しい」
「承知しました」
そこまで言われて断るような選択肢は俺にはない。全力をもっておもてなしさせていただこう。
「楽しみにしているぞ」
「最善を尽くします」
「うむ」
満足したようにアレックスさんとレイアさんは食堂を後にしていった。
「アスカさん、ごめん」
「ううん。ビックリはしたけど大丈夫」
笑みを浮かべてくれたが、少々すすけて見えるのは気のせいではないだろう。
「おかわりはあるから、たくさん食べてね」
ご飯を山盛りで提供する。
「いただきます」
手を合わせてから箸を取る。オーク汁を一口含むと、表情がほぐれた。
「…おいしい……」
ほおっと息をついて、アスカさんは本格的に食事に取りかかった。
アスカさんの食事の特徴は、その一口の大きさだ。それ一口で食べれるの、という量がどんどん口の中に消えていく。
かと言って、がっついているイメージはまったくない。これは食べ方がきれいなせいだろう。元の世界にいた大食いクイーンを彷彿とさせる食べっぷりだ。
「あー、だし巻きサイコー」
この世界ではこういう味つけはないからな。存分に楽しんで欲しい。
こちらも健啖家ぶりを発揮し、ご飯と汁を複数回おかわりする。
勢いよく動いていた箸が、ふと止まった。
「…あの……」
とても言いづらそうな様子が見てとれる。
「どした? 何か口に合わなかった?」
訊くと、風切り音が聞こえてきそうな勢いで首が振られる。
「じゃあ何かリクエストかな?」
「あの…こっちの卵って生でも食べられる?」
「ああ」
その質問ですべてを察することができた。
「そりゃあ食いたいよなーー卵かけご飯」
「ごめんなさい、こんなに美味しいの作ってくれてるのに」
本気で申し訳なく思っているのが伝わってくるけど、そんな必要まったくない。
「全然いいよ。アレは別枠だと思うからーー実を言うと、俺も昨日寝る前に食っちまった」
「ホントですか!?」
「ああ。実に美味かった」
「あたしも食べたい!」
「はいよ。ちょっと待ってて」
すぐにご飯のおかわりと生卵を持ってきた。
「何か混ぜたりする人?」
「基本的には卵だけです。醤油をかけるくらいで」
「これは卵が美味いから、そういうシンプルな食べ方がいいと思う」
「はい」
素直に頷いたアスカさんは、慣れた手つきで卵を溶き、ご飯にかけた。芸術的に美味そうなビジュアルだ。
「ああ……」
うっとりと卵かけご飯を見つめていたアスカさんだったが、おもむろに一口食べた。
「んーーーーっ!」
これ以降言葉は必要なかった。アスカさんは感涙を流しながら久しぶりの卵かけご飯を堪能したのだった。
そう言いながらアレックスさんは三杯目のおかわりを所望した。お口に合ったようで何よりだ。
「この卵もとても美味しいわ。噛むとじゅわーっと幸せな味が口の中に広がるの。これ、毎日でも食べたいわ」
うっとりした口調のレイアさんは、だし巻き玉子が気に入ったらしい。
二人とも年齢に似合わぬ健啖家ぶりを発揮し、それぞれおかわりまでして朝食を終了した。
「「ごちそうさまでした」」
「お粗末さまでした」
こうやって美味しく食べてくれるのは料理人冥利に尽きる。特にこのお二人は間違いなく普通の人より舌が肥えているはずだから尚更だ。
「時にご店主」
「はい、何でしょうか?」
「そなたのレパートリー、どれくらいあるのだ?」
アレックスさん、妙なことを訊いてきた。
「レパートリーですか? どうですかね……数えたことないんで何とも言えないんですが……」
多分百や二百はあるはずだが、正確な数となると、ちょっと見当がつかん。
「まだしばらく宿泊は可能かな?」
「あ、それはもちろん大丈夫です」
「では七日ほど延長してくれ」
アレックスさんは重々しい口調で言った。
「これはワシからの頼みなんだが、その間、できるだけたくさんの種類の料理を出して欲しい」
「承知しました」
そこまで言われて断るような選択肢は俺にはない。全力をもっておもてなしさせていただこう。
「楽しみにしているぞ」
「最善を尽くします」
「うむ」
満足したようにアレックスさんとレイアさんは食堂を後にしていった。
「アスカさん、ごめん」
「ううん。ビックリはしたけど大丈夫」
笑みを浮かべてくれたが、少々すすけて見えるのは気のせいではないだろう。
「おかわりはあるから、たくさん食べてね」
ご飯を山盛りで提供する。
「いただきます」
手を合わせてから箸を取る。オーク汁を一口含むと、表情がほぐれた。
「…おいしい……」
ほおっと息をついて、アスカさんは本格的に食事に取りかかった。
アスカさんの食事の特徴は、その一口の大きさだ。それ一口で食べれるの、という量がどんどん口の中に消えていく。
かと言って、がっついているイメージはまったくない。これは食べ方がきれいなせいだろう。元の世界にいた大食いクイーンを彷彿とさせる食べっぷりだ。
「あー、だし巻きサイコー」
この世界ではこういう味つけはないからな。存分に楽しんで欲しい。
こちらも健啖家ぶりを発揮し、ご飯と汁を複数回おかわりする。
勢いよく動いていた箸が、ふと止まった。
「…あの……」
とても言いづらそうな様子が見てとれる。
「どした? 何か口に合わなかった?」
訊くと、風切り音が聞こえてきそうな勢いで首が振られる。
「じゃあ何かリクエストかな?」
「あの…こっちの卵って生でも食べられる?」
「ああ」
その質問ですべてを察することができた。
「そりゃあ食いたいよなーー卵かけご飯」
「ごめんなさい、こんなに美味しいの作ってくれてるのに」
本気で申し訳なく思っているのが伝わってくるけど、そんな必要まったくない。
「全然いいよ。アレは別枠だと思うからーー実を言うと、俺も昨日寝る前に食っちまった」
「ホントですか!?」
「ああ。実に美味かった」
「あたしも食べたい!」
「はいよ。ちょっと待ってて」
すぐにご飯のおかわりと生卵を持ってきた。
「何か混ぜたりする人?」
「基本的には卵だけです。醤油をかけるくらいで」
「これは卵が美味いから、そういうシンプルな食べ方がいいと思う」
「はい」
素直に頷いたアスカさんは、慣れた手つきで卵を溶き、ご飯にかけた。芸術的に美味そうなビジュアルだ。
「ああ……」
うっとりと卵かけご飯を見つめていたアスカさんだったが、おもむろに一口食べた。
「んーーーーっ!」
これ以降言葉は必要なかった。アスカさんは感涙を流しながら久しぶりの卵かけご飯を堪能したのだった。
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