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第9章~眷属教育~

第57話 精神修行――座禅とか滝行とかそういうやーつ。

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 四大使によるアリアへの教育。その最後の科目である精神修練を担当するのは、我らが無口ロリことミルストリスであった。
 しかし、ミルストリスは他の三名とは違い、アリア以外の人間の教育を拒否、アリアと一対一で授業を行っていた。
 アリアとミルストリスは、エクノルエ家の屋敷の庭で互いに正座で向き合い、二人ともその目を閉じ、精神を集中、全身に気が満ちるその時を待っていた。そして、二人の全身に気が満ちたその時、二人は同時に目を開き、両手と額を地面に着け深々と一礼をする。その礼にはこの世の全て、自身を生かす人、物、食物、環境に対する感謝を込める。そしてその礼が終わると

「「せっせっせっーのよいよいよい――」」

 手遊びを一糸乱れぬ動作で行う。二人のその動作は完全にシンクロし、まるで鏡合わせのように見える程であった。そして、手遊びをし終えると、二人はまた居ずまいを正して目を閉じ、再びの気が全身に満ちるのを待ち、気が再び満ちると手遊びを開始する。

 その繰り返しを日に100回、ミルストリスの授業がある日は必ず行った。晴れの日も、曇りの日も、風の日も、雨の日も、雪の日も、嵐の日は流石にカルロスに止められた。しかし、その日以外は四日に一日欠かさず行った。

 この感謝の手遊びは最初の頃は100回し終えるのに丸一日を要した。しかし、二人の感謝の手遊びの速度は日を追うごとに洗練されてゆき、それに伴って速度も上がってゆく。明らかな変化が現れたのは、感謝の手遊びを始めて三年が経過した頃であった。
 それまで丸一日かかっていた感謝の手遊びが、夕方には終わるようになり、それから、一年、二年と年を経て、感謝の手遊びを始めてから六年が経過したころになると、朝方の内に100回の感謝の手遊びを終え。二人はその後のあまった時間を利用して、大いに遊んだ。鬼ごっこもした。かくれんぼもした。にらめっこだっておままごとだってした。時には遊び過ぎてヴァリスに叱られもした。
 そしてそれから更に一年アリアが14歳になる頃になると

 二人は音を置き去りにした!!

 そこを偶然通りかかった老婆が目撃、二人の堂に入った姿を見て独りごちる。

「あ、阿形と吽形が見える!?」

 驚愕の表情で二人のことを見る老婆。その姿をこれまた通りがかりのガヘリスが見て言った。

「ボケてんのかこの婆さん」

―――エクノルエ領、エクノルエの町に所在する放棄された倉庫

 そこはエクノルエの町にあるとある放棄された倉庫。普段そこは倉庫として誰も利用していないということもあってか、領内のゴロツキどものたまり場となっているのだが、今そこには一人のクラウンの仮面を着けた道化師だけがいた。

「遅かったな」

 何もない暗闇に向かって話しかける道化師。すると、その暗闇の中から一人の黒いフード付きのマントを纏った人物が現れた。

「こっちもやることが多くてね、ところでいつもここにいるゴロツキどもはどうしたんだい?」

 黒マントの者の性別はその喋り口調や声の高さから女性であると予想できるが、フードを目深まぶかにかぶっているせいもあってかその正体を推し量ることは出来ない。

「少し邪魔だったからな。ちょっとばかしお願いをして後退席してもらったのさ」

 道化師が愉しそうに言う。

「まったく、どんなお願いをしたのだか」

 黒衣の者が呆れたように言うと、道化師はいつの間にか手に持っていたナイフをチラつかせながら言う。

「こいつで優しく撫でてやっただけだよ。そしたらあいつらまるで蜘蛛の子を散らすように逃げやがった」

 ゴロツキどもの無様な醜態を思い出しているのか、道化師はクツクツと思い出し笑いをする。

「あんまり目立つ真似はするんじゃないよ」

 黒衣の物が道化師にそう注意すると、

「この俺に目立つなって言うこと自体に無理があらあな」

道化師は両手を広げて嘲るように言う。

「必要以上にって意味さね、分かってるくせに言わせるんじゃないよ」

「それで、次の任務の件だっけか」

「ああ、次の標的はこの紙に書いてあるよ」

 言って黒衣の者は手に持っていた紙を、カードを投げるように投げて道化師に渡すと、道化師はその紙を見事にキャッチ。渡された紙に書かれた内容をチェックする。

「おいおい、失敗しといて言うのもなんだが、また例の嬢ちゃんかよ」

 道化師が辟易したように言う。

「本国は、若い芽は早めに摘んでおきたいんだろうさ。それになぜだかその嬢ちゃん、ラバルディア本国に御使いとして認知されていないらしい」

「嬢ちゃんは確か領主の娘だろ?その上御使いとくりゃ嫁に兵器に引く手数多。貴族としては利用しないに越したことはないのになんでまた」

「それが分からないからなぜだかって言ったのさ。兎に角、次の標的はその嬢ちゃんだ。一回失敗してるんだから今度は確実に仕留めるんだよ!」

「へいへいわかったよ……ところであんたたち――」

 いつの間にやら黒衣の者の気配がなくなっている。道化師はチッと舌打ちをすると手に持っていた紙を魔法で燃やし、その灰を握り潰した。
 そして、次の瞬間には倉庫のなかには人の姿は無く燃やされ握りつぶされた紙の灰だけが残っていた。
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