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第5章~楽園~

第38話 蛇――嫌いじゃないけど見つけたらビビる。

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 話はとんで100年後、レイの楽園計画の結果はというと……

「まあ、予想通りと言えば予想通りでしたけどね」

 そう言ったレイの手元には、管理者ウインドウが現れており、その画面には魂管理の棒グラフが表示されている。

「それにしたってまた極端に偏っちゃったよねえ。そのうえたいしてマナの回収も出来なかったし」

 リンネの指摘のとおり、棒グラフは微妙に、非常に微妙にだが、青色の棒グラフのみが微増していた。

「まあ、それだけ同じような経験しか得られなかった。ということでしょうね。それでも常命の生命なしの環境よりはグラフの伸びは良いのですが」

「それでレイ君、この楽園はどうするの?」

「というと?」

「楽園を閉じて、中に残った生命たちを地球に移住させないのかい?と聞いているのさ」

 レイは言われてう~んと一考。

「このぬるま湯環境で育ってきた生命たちが、今のザ·サバイバルな環境の地球で生き残れると思いますか?」

 因みに、レイが創り出した太陽系は全部で11。その内8つの地球で生物が無事誕生。今は順調に進化の道をたどっていた。

「思わない」

 レイの質問にリンネが即答する。

「ならば残しておくしかないでしょう。実験とはいえ一度創り出した命たちです。実験動物のようには扱いたくありません」

「なんか矛盾してない?」
 
 リンネが即座に突っ込んでくる。

「世の中そういうものです。それに他の理由もありますし」

「他の理由?」

「楽園って基本的に誰でも出入り自由にしているじゃないですか」

「まあ、そうだね『秩序』コスモスの子たちもよく遊びに来てるみたいだし。動物園的な意味合いで」

「最近はそこに『混沌』カオスの者たちも来ているみたいなんですよ」

「それ大丈夫なの?」

「一応誰でも出入り自由と謳ってますからね。彼らだけ差別するわけにはいきません。幸い今のところトラブルもないようですし、ダムアとも仲良くしてくれているみたいですよ」

「仲良く、ねぇ」

 リンネがいつもの怪しい笑みを浮かべる。

「リンネ」

 それを目ざとく注意するレイ。注意されたリンネは「おっといけない」と言いつつも悪びれた様子は一切感じられない。

「彼らがダムアと一緒だと何か不都合なことでもあるのですか?」

「そんなことないさ。ただねえ『混沌』カオスの子たちも最近地球に行ってるみたいだしさあ」

「それがダムアのことと何か関係があるのですか?」

 そうしているとレイたちの元に少女型の『混沌』カオスの者が二人やってきた。その内の一人は黒色のメッシュの入った金髪をサイドテールにした現『混沌』の群れカオスレギオン首領ペインで、もう一人の少女は神話のゴーゴンのような髪が蛇になっている見慣れない少女であった。

「よっす管理者ウォーデン久しぶり!」

 そう言って片手を挙げてあいさつしたのはペインだ。

「お久しぶりですペイン。今日は僕に何か用ですか?」

「いや~ちょっとね、困ったことがあってさー」

「困りごと、ですか」

「そ、しかも楽園にいるダムア絡みの」

 困りごとそう言う割にペインはどこか楽しそうに話をする。そんなペインの態度を見てレイは嫌な予感が止まらない。

「そのダムア絡みの困りごとに貴女の隣にいる彼女が絡んでいると……」

「お!さっすが管理者ウォーデン察しがいいねぇ。紹介するねこの子は『混沌』の群れうちのナンバー5、ブコラ!!」

「よろしくニョロ」

「ニョロ……」

 レイはブコラの語尾に気を取られ、リンネは何故か「ブフッ!!」と吹き出す。

「あんま笑うなよ~本人だって気にしてんだから」

「だったらなんでその語尾を外さないんですか!明らかにわざとでしょう」

 レイがそう突っ込む。するとペインとブコラは妙に神妙な面持ちで話し出す。

「この語尾は最初、前のボスに『お前なんか蛇っぽいから語尾にニョロってつけろよガハハ!!』って無茶ぶりされたのがきっかけだったニョロ。だけどこうやってニョロって語尾につけるようになってから、皆にキャラが立っていいな、とか、俺もニョロって語尾にしたかったぜって、絡まれるようになったニョロ。最初の頃は私も嫌だったニョロけど、最近、このニョロっていう語尾がきっかけで初めての友達ができたんだニョロ。その時ほど前のボスに感謝したことはないニョロ。だけど……に前のボスが殺られて、私決めたんだニョロ。この語尾を一生つけ続けようって、それがせめてもの復讐になるじゃないかと思ってニョロ」

 ブコラはどこぞの誰かという部分を特に強調して言った。お前がいなけりゃとっくの昔にこの語尾を外しているわという意味を込めて。
 そんなブコラの話にレイは気まずそうな顔をして、

「貴女の語尾に対する気持ちは痛いほどわかりました。なのでとりあえずダムアのところに行きましょうか」

 語尾の件を無視して、強引に話を進めることにした。
 
 因みにではあるがリンネはブコラの語尾がドツボに入ったのか、ずっと腹を抱えて笑うの我慢していた。
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