上 下
14 / 86
第3章~大戦~

第14話 禁忌――犯しおったであいつ。

しおりを挟む
―――500年後
 場所は変わって、ここは常闇の星――ケイオスが生まれ落ちた星である。

 その星でケイオスはある企みを秘密裏に進めていた。

 ケイオスは常闇の星の地表にある大きな岩に腰を下ろし、右手で頬杖をつき、何かを思案しており、眼前に広がる闇をただただボーっと見つめ、時折左手に持っているバスケットボール大の何かを果実のように齧っている。

 そのバスケットボール大の何かはどうやらマナ生命体だったようで、今もケイオスの手から逃れようと必死に暴れているのだが、ケイオスの手の力があまりにも強く逃れることが出来ないでいた。

 ケイオスがそうしていると、一人の少女型の『混沌カオス』がケイオスの元にやって来る。

 その少女は黒色のメッシュが入った長い金髪をサイドテールにし、瞳の色は金色で、可愛らしい顔つきに肌の色は健康的な褐色。そしてその身には黒色のレザー生地のジャケットに、これまた黒色のレザー生地のショートパンツといった姿であった。

「ボッスー、ペインちゃんからの報告だよん。『混沌』の群れカオスレギオン全員の準備が完了。後はボッスーのゴーサイン待ちだって」

「おう」

 少女型の『混沌』――ペインからの報告を受け、企みが最終段階に入ったというのに、ケイオスはどこか心ここに無し、といった風で、マナ生命体を齧るその姿もどこか漫然としていた。

「ボッスー、計画も最終段階に入ったんだよ。なのになにボーっとアホ面さらしてんのさ」

 ペインが宙に浮いた状態で、ケイオスを背面から抱く格好になる。両者とも顔が近いというのにそれを意識している様子はなく、ペインは妖艶に笑い、ケイオスはまだボーっと闇を見つめている。

「わかんねぇ」

「は?」

 ペインはそのままの体制で真顔になる。

「だからわかんねぇんだよ。俺の計画は完璧、これなら行けるって思ったんだけどよー。急に何かが足りねぇなって」

「だから何が?」

 ケイオスはマナ生命体を齧りながらペインのことをチラリと横目に見る。真顔だ、しかも若干怒り寄りの。

「だからわかんねぇって言ってんだろうが。何度も言わせんな」

 そこでペインはケイオスの正面周り、腰を大きく曲げて目線の高さをケイオスに合わせる。

「まさか、今さら怖じ気づいたってわけじゃないんでしょ」

 ペインの侮辱とも言える物言いにもケイオスは怒った様子はなく、宙を仰ぎ見て「はっ!」と鼻で嗤う

「この俺がそんなタマに見えるか?」

「見えない。ボッスーはどっちかってゆーと、大一番を前にしたらヤル気全快テンアゲマックスになるタイプだもんね」

「おう……つーか何だボッスーってのは!!舐めてんのか手前ぇ!!」

「いや、なんかボスって素直にゆーのも癪だなって……何?ボッスー実はパパって呼ばれたいとか?うわっボッスーキモーイ」

 実のところ、ペインはケイオスのマナを基に生み出されたマナ生命体で、言ってしまえばケイオスとペインは親子の関係にあたり、ケイオスはペインにとってどちらかと言えば母と呼ぶのが正しいのではあるが。彼らの関係を鑑みるに眷族と呼ぶのが正しいだろう。

 また、ケイオスはこの計画のために、ペインの他にも多数の眷族を生み出しており、各個体それぞれに役割を持たせてこの計画の遂行にあたっていた。

「勝手な想像で勝手にきもちわるがってんじゃねぇ!!○すぞボケ!!」

「うっわ、実の娘に○すとか、ホントあり得ない。引くわー」

 因みにケイオスがペインに与えた役目とは右腕、側近、側仕え。要するにNo2である。

「勝手に引いてろ!――クソ、なに考えてのか完全に忘れちまったじゃねえか」

 言ってケイオスは右手に掴んだマナ生命体の最期の一口を齧る。そして煙草の煙を吹かすように魂を吐き出し、何の気なしにその魂に注目し、

「何でだ」

と疑問を口にする。

「今度は何?」

 ペインが呆れ顔で訊き返すがケイオスは答えない。考え事に夢中になっている。

 ケイオスは考える。何でこれは喰えないんだと、昔食べようとしたことが一度あるが、その時はあまりの吐き気に吐き出した。そして思ったんだこいつは喰えないんだと。そしてそれからは一度たりとも食べようとしていない。違和感がある。何かがおかしいと。

 そしてケイオスは輪廻の環に還ろうとする魂をその手に掴む。

「何、ボッスー、魂なんか捕まえて」

 ケイオスは魂を見る。そしてペインに訊く。

「おいペイン」

「ん?」

 ペインは気の抜けた返事をする。

「お前、魂を喰った奴って知ってるか?」

「知らない。てゆーか喰えんの?それ」

 ケイオスは嗤う、邪悪に、喜びに満ちた顔で

「って、まさかボッス――」

 ケイオスは魂を喰らう、とたんに激しい吐き気がケイオスを襲う。ケイオス必死に吐き気を我慢する。

「ちょ、大丈夫なのボス!ボス!!」

 ペインはケイオスの変調に動揺し、心配になり声をかける。しかしケイオスはそれどころではない様子で、必死に魂を飲み込もうとし、無理矢理飲み込んだ。

 次の瞬間、ケイオスは地面に倒れ、苦しみにのたうち回る。

 ペインはその様子をどうしようもなくただただ見守るのみ。いや、もしかすれば棚ぼたでNo.1の座ゲット!?とか思ってもいた。

 この時、ケイオスの体内ではケイオスの魂と喰われたマナ生命体の魂の二つの魂が戦っていた。しかし、戦いの場はケイオスの体内。つまり地の利はケイオスの魂にあり。奮闘むなしくマナ生命体の魂はケイオスの魂に喰われ、一つに混ざり合う。

 ケイオスは倒れ伏しながらも嗤う。やっぱりだと、こんなところにあったのかと、まさかこんなにも簡単なことだったのかと……

「ちょっとボスおかしくなっちゃったの!?魂なんか食べるからだよー」

「違ぇよ……逆だ」

 ケイオスはユラリと幽鬼のように立ち上がる。

「なんだボッスー大丈夫そ――」

 ペインは気が付く、ケイオスの変化に。マナの保有量にさほど変化はない、むしろ魂を喰らった影響か減っているようにさえ見える。違うのは存在としての格だ。明らかに先ほどまでとは違う。存在感という曖昧なものをはっきりと、目に見えるのではないかと言う程に感じる。

「おいペイン」

「ひゃい!!」

ケイオスの呼びかけに思わず直立不動で応じるペイン。

「あとどんくらいマナ生命体エサはあるんだ?」

「100はあったかと……」

「持ってこさせろ」

「え?」

「全部持ってこさせろって言ったんだ!!」

「はい!!ただいまー」

 ケイオスのただならぬ雰囲気に、急いで立ち去ろうとするペイン。だがケイオスは「待て」とペインを呼び止め、変なタイミングで呼び止められたペインは変なポーズで固まってしまう。

『混沌』の群れカオスレギオンの全員に知らせろ!!俺の準備が完了次第、進行を開始。目標はもちろん『秩序コスモス』のクソどもとその頭、管理者だ!!気ぃ引き締めろ祭りの始まりだ!!この秩序だったクソみてぇな宇宙を混沌に染め上げるぞ!!」

 万が一の災害が禁忌を犯した。犯した禁忌は到底あがなえるものではない。
 果たして管理者レイ・アカシャはこの罪人を裁くことが出来るのか。衝突の時は目前に迫っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

転生ドラゴンの魔法使い~魔法はガチでプログラムだった~

喰寝丸太
ファンタジー
ブラック企業のプログラマーだった俺はある日倒れて帰らぬ人となったらしい。 神様に会う事も無く何故かドラゴンとして転生。 ドラゴンは産まれた時から最強だった。 やる事も無く食っちゃ寝する日々。 そして、ある日人間の集団に出会い、その一人が使った魔法に俺は魅せられた。 使いたい、魔法が使いたい、使いたいったら、使いたい。 それからは人間をこっそり観察して呪文を集める日々。 そしてある日、気づいた呪文の法則に。 それはプログラムだった。 それから俺は言葉が喋れない壁を乗り越え、呪文の製作者となった。 そんな俺がドラゴンの賢者と褒め称えられ、守護竜となるまで。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
美少女ゲーム【ドラゴンズ・ティアラ】は、バグが多いのが玉に瑕の1000時間遊べる名作RPGだ。 そんな【ドラゴンズ・ティアラ】を正規プレイからバグ利用プレイまで全てを遊び尽くした俺は、憧れのゲーム世界に転生してしまう。 俺が転生したのは子爵家の次男ヴァレリウス。ゲーム中盤で惨たらしい破滅を迎えることになる、やられ役の悪役令息だった。 冷酷な兄との対立。父の失望からの勘当。学生ランクFへの降格。破滅の未来。 前世の記憶が蘇るなり苦難のスタートとなったが、むしろ俺はハッピーだった。 家族にハズレ扱いされたヴァレリウスの【モンスター錬成】スキルは、最強キャラクター育成の鍵だったのだから。 差し当たって目指すは最強。そして本編ごとの破滅シナリオの破壊。 元よりバランス崩壊上等のプレイヤーだった俺は、自重無しのストロングスタイルで、突っかかってくる家族を返り討ちにしつつ、ストーリー本編を乗っ取ってゆく。 (他サイトでも連載中)

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...