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第2章~マナ生命体~

第6話 予兆――初見じゃ大体見落として後から気付くやつ。

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 「生命の誕生ですか!!」

 それまでの警戒心はどこへやら、レイは生命の誕生という一大イベントに興味津々といった様子でリンネに詰め寄るように近づいた。リンネはそんなレイの反応が予想外だったのか若干押され気味である。

「厳密に言えばこの宇宙にある魂を宿した星も生命なのだけれどね。ま、今回の場合は星に寄生――じゃあ言い方が悪いな……星と共に生きる星よりもはるかに小さな生命ってところかな」

「ではその小さな生命を早速見てみましょう。確か『検索』と『千里眼』を併用しなければならないのでしたよね。ということは『検索』は僕の目か管理者部屋の窓を使用するということですね。で、あればリンネも見ることが出来るように管理者部屋の窓を使うことにしましょう。そうしましょう。」

 よほど新たな生命の誕生に興味があるのか、レイは興奮気味に早口でまくし立てる。リンネはそんなレイを落ち着けようと、

「レ、レイ君、新しい生命の誕生に興味津々なのはわかるけど、ここはいったん落ち着こう。はい、深呼吸してすーはーって、ここに空気なんかないや!あはははははは!」 

小粋なジョークを飛ばすもレイは無反応。予想外の出来事に弱いのかリンネも空回り気味だ。

 レイはそんなリンネの行動の一部始終を見届けると、無反応のまま管理者部屋の窓に近づき「あっ、検索の機能が追加されてる」とリンネを置いてけぼりで1人楽しそうにする。

「レイ君、いくらなんでも無視はないんじゃないかな、無視は。いいかいレイ君、よく言われるけど愛の反対は嫌いではなくて無関心なんだ。つまり無関心を装う行為である無視というのは下手をしたら敵意以上に人を傷つける――」

 レイに無視されたことがよほどショックであったのかリンネはぶつぶつと何か言い続けるが、言われたレイはどこ吹く風、レイは黙々と検索の機能で試行錯誤を繰り返している。

 そうしていると、

「リンネ!リンネ!検索結果が出ました!!ほら、見てください!!」

レイは大はしゃぎでリンネのことを手招きする。そんなレイの子供じみた様子にリンネはクスリと笑い「はいはい」とレイのすぐ隣に歩み寄る。

 管理者部屋の窓には『指定ノ生命反応ハ10箇所有リマス』と表示されている。

「リンネ、どうやら生命が誕生した星は10箇所もあるみたいです」

「そうだね、レイ君はどこを一番最初に見るつもりだい?」

 言われてレイは検索結果の詳細画面を確認する。詳細画面には星の位置情報と、保有するマナの量が記載されているが、強いて言えばマナの保有量がわずかに多い星が一つあるくらいだ。

「決めました。このマナの保有量が一番多い星にします。何か意見は……」

 言いながらレイはリンネの方をチラリと見る。レイにはリンネがどう答えるのかわかっていたが、なぜだかリンネに確認しておきたい気持ちが湧いたのだ。

「管理者レイ・アカシャのご意志のままに」

 リンネの芝居がかった恭しい一礼と共に、予想通りの返答が帰ってくる。

 レイはリンネの返答を確認すると、コクリと頷いてから『千里眼』を使用する。すると、管理者部屋の窓に映されていた画面が一瞬の暗転の後に切り替わる。

 切り替わった画面には岩だらけの星の地表と思われる場所が映し出されており、それを見る限り水がない。

「リンネ、どういうことでしょう。大気の有無は映像では判断できませんが、海はおろか水すら見当たりません。これでは生命は誕生などしないのでは?」

「……」

 リンネからの返事がない。レイがチラリとリンネの方を見ると、リンネは腕を組み、片手を顎に当てて何やら真剣に考えている。

 今リンネに意見を聞いても無駄なようだ。そう考えたレイは視線を管理者部屋の窓に移し、何かしらの見落としがないか表示されている画像を観察する。するとある点に気付く。

 この星のマナのは他の9の星よりもわずかに多かった。ならばそれ以外の星と比べたらどうなのか。

 レイは自身の目を使用して『検索』を行い、生命の誕生した星とそれ以外の星のマナ保有量を比べる。結果、生命の誕生した星はそれ以外の星と比べてマナ保有量が十倍以上あることが判明した。

 この結果が生命誕生に何か絡んでいるかもしれないと睨んだレイは、このことをリンネに報告しようとしたところ、

「レイ君!あそこを見たまえ!」

リンネが慌てた様子で管理者部屋の窓を指差す。

 その先には白く光輝く光球が宙を舞っているところが映し出されていた。それも一つだけではない、どこから出てきたのかは不明ではあるが、少なくとも10数個の光球が確認できた。

「リンネ、もしかするとあの光球がこの星で誕生した生命なのでは?」

「……」
 
 再び押し黙るリンネ。不思議に思ったレイがリンネ方を見ると、リンネは顔を管理者部屋の天井に向け、片手で自身の両目を覆っていた。しばらくの間リンネはその体勢のままであったが、やがて口を開いた。

「レイ君、君の予想通り、あれらが今回誕生した生命に間違いないだろう」

 レイはリンネの言葉に何かとても小さな違和感を持つ、が今はそんなことを気にしてる場合ではない

「そうなんですね!」

 嬉しそうに管理者部屋の窓に映る生命体を見るレイ。しかし、リンネはそうではないようだ

「そうなんだよ、私達という存在があるのだから、こういうことは予想していたさ、しっかし、一番最初に来るかね……」

 リンネは想定外の事態に怒り半分、諦め半分といった様子だ。
 レイは今日(何日かは不明だが)はリンネの以外な一面がよく見れるな、なんて呑気に考えるがハッと我に返り質問する。

「彼らに何か問題があるのですか?もしかして彼らに生きてもらわれたら困るとか……」

 レイが不安そうに尋ねる。尋ねられたリンネは優しく微笑むがレイはその笑みにどこか固さを感じた。

「あれらの抱える問題は今すぐにどうこうなるとかいう類のものではないよ。ただ、確実に処理しなければならない問題ではあるけどね」

――まただ。

 レイはまたリンネの言葉に違和感を持つ、それは小さな苛立ちを伴うものだ。

 しかし、今はそのことについて追求している場合ではない。レイはそう思い小さな苛立ちを無理矢理抑えこむ。

「そんなに大きな問題なのですか?」

「ああ、この問題を放置すると、最悪の場合宇宙の運営が立ち行かなくなる」

 リンネの言葉にレイは疑心が生まれる。なぜなら今、画面越しに見える生命たちに、宇宙の運営に支障をきたすようなことが出来るとは到底思えなかったからだ。

「宇宙の運営が立ち行かなくなるって、彼らがそんな存在であるとは僕には到底思えませんが」

「今のあれらにそんな意識はないからね。ただ純粋に一つの生命として生きている。ただそれが――」

――まただ

 レイはそう思いながらもその考えを押さえ込む、今は宇宙の命運がかかっているのだ。そんな些事気にしてはいけない。

 レイの心に小さな痛みが走った。今自分は何か大きな間違いを犯したのではないかとも思った。今ならばまだ間に合うとも――

 それでも時は公平に、容赦なく進む。

 リンネは続きを口にする。

「宇宙の……輪廻転生というシステムの完全停止を引き起こす可能性がある」
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