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別荘に向けて

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待ちに待った出発の日。

昨日の雨が嘘のように、気持ちの良い秋晴れで、この上ないお出かけ日和に思えた。

「レイリア、気をつけてね。」

「じゃあね、姉さん。1週間後に向こうでね」

「カイン、気をつけてきてね。向こうで待ってるわ!」

家族に見送られて家を出る。

1人きりで家族から長く離れるのは初めてかもしれない。

馬車が曲がって家が見えなくなってから、ようやく私は車窓から顔を離した。

向かいに座っていたアマンド様が、間髪入れず私の隣に席を移し、上機嫌に目元を緩ませる。

「リア、ようやく今日になった」

アマンド様とこうやって、ゆっくり顔を合わせるのは随分久しぶりだ。

長期休暇に向けて片付けないといけない仕事があるとかで、先週はかろうじてランチをご一緒した程度だったのだ。

隣で嬉しくてたまらないというような笑顔を浮かべるアマンド様だが、この距離感だからこそ気づく、目の下に薄くできた隈。

去年はずっと、こんな隈ができていた。

「アマンド様、もしかして・・昨日ほとんど寝てないんじゃ?」

ふいっと顔を逸らし、沈黙するということは・・

「まさか、徹夜明けですか?」

「・・・徹夜じゃ無い。」

「寝てないんですね?」

アマンド様は口を噤んだ。

「何時間ですか」

「・・2時間は寝た。」

2時間って・・

「ほとんど寝てないじゃないですか」

「大丈夫だ。」

「アマンド様・・」

「今日行くので問題ない。それに今出ないと、日のあるうちに向こうに着かない」

「でも」

「それに母は昨日のうちにあちらに行って、準備万端で君の来るのを心待ちにしているんだ。今更覆すことなど・・」

頑ななアマンド様とのこのやり取りに、何か懐かしい気持ちになる。

以前だったら、またアマンド様が義務感に駆られて意地を張っていると、勘違いしていただろう。

こんなに分かりやすいのに、なぜ去年は気づけなかったんだろう。不思議な程だ。

「アマンド様、」

「リアが何を言おうと・・・」

顔を逸らしたままのアマンド様は、私が笑いを堪えた顔をしているのにまだ気付けない。

「アマンド様、嬉しいです。今日のために、頑張ってくださってありがとうございました。」

逸らしていた顔を戻したアマンド様に笑いかけると、彼は息を吐いて私にもたれかかった。

ほのかなベルガモットの香りが鼻をくすぐる。

「私だって、楽しみにしてたんですから。」

「・・ああ。」

「その代わり、今寝てください。あと、別荘に着いてからも、お夕飯までは休んでください」

「・・今しか2人きりで過ごせないのに、寝るなんてもったいない」

「それでも精々寝れて1時間です。王都をでたら、きっと寝たくても寝れなくなりますし」

王都の外は路面が未整備だ。

揺れで寝るどころじゃなくなる。

「・・わかった。リア、少し・・眠ってもいい?」

「はい、もちろん」

「手を・・」

アマンド様は私と手を繋ぐと、壁に寄りかかって目を閉じた。

「おやすみなさい」

微笑んでそう言うと、繋いだ手が軽く握り込まれた。




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