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御前試合

真相

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炒ったようなナッツの香ばしさと、カリカリとした食感。

サクサクしたパイのような生地に、ふわっふわのカスタードクリーム。

複雑なシロップの甘み。

「美味しいっ!」

だろう?と笑って、アマンド様も頬張る。

子どもの頃から夢見たお菓子は、想像よりも何倍も美味しくて、感動しながら食べ進める。

闘技場の入り口とは逆方向にある、旧遺跡の名残の小さな石垣。

その石垣に、私とアマンド様は並んで腰掛けている。

もう空は殆ど暗くなっていて、西にわずかに残る茜空も、あと少しで藍色に塗りつぶされていくだろう。

闘技場から帰路につく人の波は遠目にもだいぶ減り、食べ終える頃には喧騒も落ち着いていた。

「あの、アマンド様?」

ん?とこちらを見る彼に、ようやく伝えることができる。

「3位、おめでとうございます」

「ああ、ありがとう。・・本当は、優勝をプレゼントしたかった。不甲斐なくてすまない」

「いいえ、あんなすごい試合を見れただけで充分です。」

アマンド様が浮かない顔で微笑んだ。

「・・・去年も、こんな風に話せていたらな」

思わず口をつぐんで、彼を見つめた。

黙ってしまった私と彼を埋めるように、虫がしきりに鳴いている。

アマンド様が、重い口を開いた。

「レイリア・・少し、話をしよう。」




そして私は、アマンド様から去年の顛末を聞いた。

初めて出る御前試合を勝利で飾り、うまくいかなくなっていた私との関係を挽回したい気持ちがあったこと。

初戦の相手が、当時どうしても勝てない相手で、弱気になっていたこと。

初戦敗退する姿を私に見せたくなくて、試合に出ないと嘘をついてしまったこと。

実際には初戦の相手にあっけなく勝利し、勝ち進んで、気づけば5位になっていたこと。

彼から語られる内容は、私が想像していたものと全然違った。

初戦の勝利どころか、5位入賞の記録まで打ち立ててしまったことで、彼は逆に焦ったらしい。

そこまで語って、アマンド様は少し俯いた。

「さっき会場で、カインから聞いた。レイリアは去年もお母上のご実家に帰省していた、と。勘違いしていたんだ。去年の表彰式で、観客席に、君と同じ髪色を見つけて・・それで必死で追いかけた」

「私と・・同じ?」

「君だと思って追いかけたが逃げられてしまって、追いかけた先に、君の友達がいた」

ドクン、と鼓動が強くなる。

「君の友達から言われたんだ。さっきまでレイリアがここにいた、と。俺に試合に出ないと嘘をつかれてレイリアは傷ついているから、知らないふりをしてあげてほしい、と。」

その友達の名前を、アマンド様が告げたわけではない。

でも、頭に浮かぶのは彼女だけだ。

アマンド様が出場しないから、いつも通り帰省するのだと、そう私が教えたのは、メイベルだけだったから。

「試合に出ないなんて嘘をついたから、レイリアは俺に会わずに怒って帰ってしまったんだろうと思った。君との茶会が次の週に予定されていたから、その時に謝ろうと思ったんだ。だが・・」

その数日後、クラブで開いてくれたサプライズの祝勝会で、私たちの誤解は解けず、そのまま今まで来てしまった。

「そんな・・私、私てっきり・・」

彼が追いかけた人が、本当の想い人だと思っていた。

その正体が、まさか私だったとは。

それに、彼は私が去年の試合会場にいたと思い込んでいた。

じゃあ、あの時アマンド様が言おうとしていた『今年も』の意味は・・「今年も来るな」じゃなくて、もしかして真逆の意味で・・

そこまで思い至り、涙がポロポロとこぼれてくる。

アマンド様が眉を下げた。

「すまない・・こんなに君を傷つけることになるとは思ってもみなかったんだ。」

「っち、違う・・違うんです・・!」

彼が不貞を働くような人じゃないことなんて、考えればすぐに分かることだ。

友達に言われたからって、いくら不安になっていたからって、彼と子どもの頃から一緒に過ごしてきた私が、一番に信じなければいけなかったのに。

これから私は彼に謝らなければならない。

先に涙を流すのは卑怯だ。

それなのに、拭っても拭っても涙が止まらない。

「ご・・めんなさい・・アマンド様、ごめんなさい」

「レイリア?」

「私・・アマンド様には別に想い合っている人がいると聞いて・・だから・・きっとアマンド様が追いかけた人は、その想い人なんだって思い込んでいたんです・・」

アマンド様の顔が、見れなかった。







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