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それぞれの夏
秘めた理由
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このお話は夏編の『来週は会えません』『形勢逆転』のアマンドサイドです。
*****************************************
マルグリット侯爵家の茶会の参加について、押し問答の末、競り負けた俺だったが、やはり諦めきれなくて、女々しくレイリアの手に訴える。
さすさすさすさす
何故、俺も行ってはいけないのか
モミモミモミモミ
何故、一緒に過ごそうと言ってくれないのか
ギュッ
俺も行きたい
俺がレイリアの左手を占拠していることについては彼女も途中から諦めて、俺の好きなようにさせることに決めたようだ。
この際、思うままレイリアの手を堪能してやる。
俺の手と重ねて、大きさを比べてみる。
俺よりもひとまわり小さい手。
指は細く爪は美しく整えられている。
指を絡ませ、1本1本確認していくと、中指の側面に小さなホクロがあった。
手の甲の透けて見える血管をなぞり…
撫でてさすって握って、を繰り返していたら、レイリアはとうとう根を上げたようだ。
「アマンド様、いい加減にしてくださいませ。言いたいことがあるなら・・」
ギュッ
俺も行きたい。
「・・・ちゃんと仰ってくださらないとわかりません」
「・・・もう言った。一緒に行きたい」
「ですから・・」
本当は、わかっているんだ。
この先、交友関係も広がって、俺の知らないレイリアの世界がいくつも出来上がっていく。
その世界を、すべて俺だけで満たすことなんてできない。
けれど・・・
握る手に力を込める。
君の世界から、俺を締め出さないで欲しい。
「アマンド様も・・私とご一緒しない方がいいのでは?」
「・・・どういう意味だ?」
俺の側に理由があるかのような言い振りに、思わず硬い声が出る。
「レイリア?どういう意味かと聞いている」
聞き捨てならない。
「なぜ、俺が君と一緒にいない方がいいんだ?」
押し黙っているレイリアににじり寄ると、パッとレイリアが顔を上げた。
それまでと違い、真っ直ぐに目を合わせてくるレイリアに、少し気圧される。
「なぜって、グルト様が仰っていたではありませんか。私が・・・アマンド様の弱点になっていると」
・・・え?
「弱点?」
「この間・・私が騎士団に行った時です」
・・・騎士団・・騎士団!?
俺の脳裏に、騎士団でのグルトとのやり取りが蘇る。
「いや、それは・・・それはグルトの思い込みだ。君が俺の弱点なんて」
「私がアマンド様に何かご迷惑をおかけしているのであればハッキリ仰ってください。それか、もしや我が家の誰かが何かご迷惑を・・」
「違う、そういうことじゃない。本当にグルトの思い違いなんだ。」
「ですがグルト様は、私がアマンド様の弱点になっている、と。だからアマンド様は私の存在を皆様から隠していると仰っていました」
違う、違うんだレイリア。
たとえ同僚であっても、レイリアのことを知られたくなかったんだ。
「私のことを、隠しておいでだったのでしょう?」
年頃の若い男たちの目に触れさせたくなくて、自分だけのレイリアでいて欲しくて、それで…
「私、アマンド様の足手まといにはなりたくありませんの。ですから、2人揃っては公の場に出ない方が良いのではないですか、と申しました。」
まさかレイリアに、俺の足手まといだと思わせてしまっていたなんて。
「つまらないことを申しました。アマンド様にもきっとお考えがお有りでしょうし、私は気にしておりません。せっかくのお出かけですし、他のお話を」
思わず手に力が入る。
こんな狭量な俺を知ったら、レイリアは幻滅するだろうか。
「理由は君にあるんじゃないんだ。俺の中だけに留めておきたくて。・・その、レイリアが狙われないようにしたくて・・それで」
言わなくては。
俺が・・・君を他の男の目に触れさせたくなくて…独り占めしていたかったのだと。
俺はいよいよ覚悟を決めて、視線を下げたのだが・・・
「す、すみません!もしやお仕事のお話でしたか!?」
「え?」
仕事?
「アマンド様を陥れようとするような悪い人に、知られないようにするため、ですね?」
何の話だ?
「あの、アマンド様?私が人質になったりしないように、情報を伏せてくださっていた、ということですよね?」
レイリアの思考が読めない。
だがこれは・・・体面を保ちつつ誤解を解くチャンスなのでは?
ならば便乗しない手はない。
「レイリア、全くもってその通りだ」
俺は深く同意した。
これで晴れて茶会に一緒に行ける!
「話もまとまったことだし、レイリア、来週は俺が迎えに行こう。」
その後、レイリアは多少の抵抗を見せたものの、最終的には一緒に茶会に行くことに同意した。
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マルグリット侯爵家の茶会の参加について、押し問答の末、競り負けた俺だったが、やはり諦めきれなくて、女々しくレイリアの手に訴える。
さすさすさすさす
何故、俺も行ってはいけないのか
モミモミモミモミ
何故、一緒に過ごそうと言ってくれないのか
ギュッ
俺も行きたい
俺がレイリアの左手を占拠していることについては彼女も途中から諦めて、俺の好きなようにさせることに決めたようだ。
この際、思うままレイリアの手を堪能してやる。
俺の手と重ねて、大きさを比べてみる。
俺よりもひとまわり小さい手。
指は細く爪は美しく整えられている。
指を絡ませ、1本1本確認していくと、中指の側面に小さなホクロがあった。
手の甲の透けて見える血管をなぞり…
撫でてさすって握って、を繰り返していたら、レイリアはとうとう根を上げたようだ。
「アマンド様、いい加減にしてくださいませ。言いたいことがあるなら・・」
ギュッ
俺も行きたい。
「・・・ちゃんと仰ってくださらないとわかりません」
「・・・もう言った。一緒に行きたい」
「ですから・・」
本当は、わかっているんだ。
この先、交友関係も広がって、俺の知らないレイリアの世界がいくつも出来上がっていく。
その世界を、すべて俺だけで満たすことなんてできない。
けれど・・・
握る手に力を込める。
君の世界から、俺を締め出さないで欲しい。
「アマンド様も・・私とご一緒しない方がいいのでは?」
「・・・どういう意味だ?」
俺の側に理由があるかのような言い振りに、思わず硬い声が出る。
「レイリア?どういう意味かと聞いている」
聞き捨てならない。
「なぜ、俺が君と一緒にいない方がいいんだ?」
押し黙っているレイリアににじり寄ると、パッとレイリアが顔を上げた。
それまでと違い、真っ直ぐに目を合わせてくるレイリアに、少し気圧される。
「なぜって、グルト様が仰っていたではありませんか。私が・・・アマンド様の弱点になっていると」
・・・え?
「弱点?」
「この間・・私が騎士団に行った時です」
・・・騎士団・・騎士団!?
俺の脳裏に、騎士団でのグルトとのやり取りが蘇る。
「いや、それは・・・それはグルトの思い込みだ。君が俺の弱点なんて」
「私がアマンド様に何かご迷惑をおかけしているのであればハッキリ仰ってください。それか、もしや我が家の誰かが何かご迷惑を・・」
「違う、そういうことじゃない。本当にグルトの思い違いなんだ。」
「ですがグルト様は、私がアマンド様の弱点になっている、と。だからアマンド様は私の存在を皆様から隠していると仰っていました」
違う、違うんだレイリア。
たとえ同僚であっても、レイリアのことを知られたくなかったんだ。
「私のことを、隠しておいでだったのでしょう?」
年頃の若い男たちの目に触れさせたくなくて、自分だけのレイリアでいて欲しくて、それで…
「私、アマンド様の足手まといにはなりたくありませんの。ですから、2人揃っては公の場に出ない方が良いのではないですか、と申しました。」
まさかレイリアに、俺の足手まといだと思わせてしまっていたなんて。
「つまらないことを申しました。アマンド様にもきっとお考えがお有りでしょうし、私は気にしておりません。せっかくのお出かけですし、他のお話を」
思わず手に力が入る。
こんな狭量な俺を知ったら、レイリアは幻滅するだろうか。
「理由は君にあるんじゃないんだ。俺の中だけに留めておきたくて。・・その、レイリアが狙われないようにしたくて・・それで」
言わなくては。
俺が・・・君を他の男の目に触れさせたくなくて…独り占めしていたかったのだと。
俺はいよいよ覚悟を決めて、視線を下げたのだが・・・
「す、すみません!もしやお仕事のお話でしたか!?」
「え?」
仕事?
「アマンド様を陥れようとするような悪い人に、知られないようにするため、ですね?」
何の話だ?
「あの、アマンド様?私が人質になったりしないように、情報を伏せてくださっていた、ということですよね?」
レイリアの思考が読めない。
だがこれは・・・体面を保ちつつ誤解を解くチャンスなのでは?
ならば便乗しない手はない。
「レイリア、全くもってその通りだ」
俺は深く同意した。
これで晴れて茶会に一緒に行ける!
「話もまとまったことだし、レイリア、来週は俺が迎えに行こう。」
その後、レイリアは多少の抵抗を見せたものの、最終的には一緒に茶会に行くことに同意した。
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