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来週は会えません①

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あっという間に日曜日が来てしまう。

夜はなかなか寝付けなかったのに、まだ暗いうちから目が覚めてしまった。

今日もアマンド様と出かけると思うと、途端にドキドキがとまらなくなる。

その度に頭の中で自分に語りかける。

「ドキドキしたって無駄、ドキドキしたって無駄、ドキドキしたって無駄・・」

それで心が落ち着くわけではないけれど、もうしょうがないと思って諦めた。

これはただの生理現象。

慣れれば落ち着くはずだ、きっと。

それまでは、何かあるごとに、いちいち赤面してしまうかもしれない。

何かあっても隠しやすいように、今日は髪を下ろしたままにしたいとキーラにお願いしたら、緩く巻いてくれた。

今日のワンピースはクリーム色で、繊細なレースが気に入っている。

手持ちの衣装の中では似合っている方だと思って選んだのだけど。

「・・おかしくないかしら」

「よくお似合いだと思いますよ」

それでも、少し私には可愛らしすぎる気がして不安になる。

「早く服が仕立て上がってきたらいいのに・・」

「待ちきれませんね。クローゼットがすっかり見違えますよ、きっと」

来週のお茶会に着ていくドレスだけは、急ぎでお願いしているのだ。

本来なら仕上がりに3週間はかかるところを、現物のある生地を選んで、なんとか10日ほどで作るようにお願いしている。

お茶会に間に合わせるにはギリギリだ。

それにしても、とキーラが続ける。

「お嬢様、今日はソワソワしちゃって全然落ち着きませんね」

「え?」

「だってその格好・・」

キーラに苦笑され、自分の姿を見下ろした。

「やっぱりこの服、変かしら?」

違います違います、とキーラが笑う。

不安で腕の中のケトピのぬいぐるみをギュッと抱きしめる。

本当におかしくないかしら。

そろそろ時間だから、アマンド様が来るかもしれない。

馬車が来ていないか窓を見るが、葉の生い茂った木の枝が邪魔で、つま先立ちしないと玄関の方が見えない。

窓と姿見の前を行き来するのに忙しくて、キーラの生温い視線にも気づけなかった。




あんなに確認したはずなのに、日傘を忘れてしまったのは、やはり寝不足のせいだろう。

今日は新しくなった植物園を回ることになっていた。

天気は快晴。

馬車を降りると、燦々と降り注ぐ陽光で、あっという間に汗ばんでくる。

「レイリア、日傘はないのか?」

「その、うっかり家に置いてきてしまって」

「この暑さだ。日を遮るものがないと・・」

そうして周囲を見渡したアマンド様は、「レイリア、こっち」と手を引いて歩き出し、植物園の門を入ったすぐのところにある露店の前で立ち止まった。

「日傘はあるか?」

「へい、こちらに」

日傘を手に取るアマンド様だったが、その隣に並んでいる帽子に目を留めると日傘から手を離した。

「レイリア、ここに立って」

向かい合って立つと、アマンド様が真剣な顔で次々と帽子を被せてくる。

「アマンド様、私自分で日傘を買いますわ」

真剣な彼には悪いが、この被せられる状況は案外恥ずかしい。

被せた後にしげしげと見つめられるのも、どんな顔をしていればいいのかわからないし、目が泳ぐ。

被せられた帽子を両手で外しながらそう言ったが、その手に彼の手を重ねられて押し戻された。

「レイリア、邪魔をしない」

「いえ、ですから私が日傘を・・アマンド様?ちょっと・・離してください」

私が尚も帽子を外そうとすると、今度は手首を持たれて、胸の前あたりで、アマンド様の片手に捕らえられてしまった。

「この手が邪魔するからだろう?もうちょっと待ってて」

さっきよりも居た堪れない状況に益々顔が赤くなる。

「うん、これがいい」

アマンド様が選んだのは、つばが広めのカンカン帽だった。

リボンはピンクベージュのサテンで、顎下で結べるようにもなっている

ようやく私の手を離して、アマンド様は私の顎下でリボンをキュと結ぶと、「ん、かわいい」と呟いて、店員に支払いをした。

振り返って私に笑いかける。

「ほら、顔が真っ赤だ。暑いんだろう?やっぱり帽子で正解だ」

気に入った?と聞かれて、赤い顔のまま、小さく頷いた。




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