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サイドストーリー:フリージア
特技判明。
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クロテガエルは大人の親指の爪くらいのサイズの、小さなカエルだ。
綺麗な空色をしていて、前足だけ黒い長手袋をつけているように黒いことから、クロテガエルという。
グロース王国では、自然豊かな地域ならどこでも生息していて、ターナー伯爵領では春から秋にかけてよく見かける。
王都で見たのは初めてだった。
男に虫かご代わりの透明な瓶を渡され、その中にカエルを入れてやると、気持ち離れたところで待っていた男が近づいてきた。
「これがクロテガエル・・」しげしげと観察している。
「これ、オスよ」
「は?」
男がまじまじとカエルを見つめる。
「なんでわかる?」
「なんでって・・」
見ればわかるので返答に困る。
フリージアがそう言うと、
「・・ちょっと、ちょっと待て!」
と、男が慌てて鞄の中から本を持ってきてページを捲る。
「これは?オスかメスか、わかるか?」
男が本を開いて、一部を手で隠しながら見せてきた。
色んな格好をしたクロテガエルのスケッチが載っている。
色は付いていないが、形からだけ推察するにこれは・・
「こっちのページはこの1匹だけがメス。こっちのページはこれとこれとこれがメス。これは…顔が見えないから、多分だけど、オス。他も全部オス」
答えを聞くと、男は隠した部分とスケッチを見比べて確認する。
「全部当たってる・・」
「・・・当たり前でしょ」
興奮した様子の男が言うには、クロテガエルは外観からだけではオスメスの判別がつきにくく、研究者でも至難の技なのだそうだ。
見分けるポイントを聞かれるが、改めて聞かれると少し考えてしまう。
「ポイントって言われても…色が全然違うじゃない。あとは、黒い部分の光沢感とか、手の形の感じとか、顔の表情とか?」
「色って、この体の空色のことか?」
「そうよ」
男は思案している。
「あんた、名前は?」
「・・・フリージア」
「フリージア、あんたに確認してほしいことがある。1刻もかからないで戻ってくるから、ここで待っていてくれないか」
どうせやることはないし、迎えの馬車までまだまだ時間はある。
「…別に、いいけど」
「よし、じゃあ待ってろよ!必ずだぞ!」
念を押し、何度か振り返りながら、男は去っていった。
残されたフリージアはしばしポカンとしていた。
持っていた瓶の中で、クロテガエルが、ひと声ケルッと鳴いた。
「…なんだって言うのよ」
ため息を吐いて、瓶の中を覗き込むと、フリージアは東屋に戻っていった。
東屋で座って待っているつもりだったが、カエルが逃げないように気をつけながら、瓶に水や、適当な小石や枝を拾って入れてやったりと、割と忙しい。
作業が終わってひと息着いた頃に、分厚い本を抱えて男が戻ってきた。
「これを見てくれ」
ページを捲ると、赤系だったり黄色系だったり、色が集められていて、フリージアには、生地選びでも使う色見本の本に見えた。
赤系統の色の沢山載ったページを開いて男が言う。
「このページのうち、同じ色はどれか教えてくれ」
なんでそんなこと…と思ったが素直に従った。
「これと、これとこれ。」
その後も、他の色で似たような問題を出される。
前のページで見た色と同じ色を当てたり、点で描かれた絵の中には何種類の色があるのか答えたり。
次々と出される問題にフリージアは答えた。
いつまで続くのだろう、とフリージアがゲンナリした所で、最後の問題だ、と今度は一面に、虹のような色の分布図が描かれたページを見せられる。
「何色見える?」
何色って…ページを眺めてフリージアは首を振った。
「こんなの多すぎて…数えられるわけないじゃない。」
「多すぎる?何色くらいだ?」
「…3桁は越えるわね」
そうか、と頷いて、男は今度は青系のページを開いた。
向かって1番左が薄く、右にいくにつれて、どんどん青が濃くなっていく。
「この中で、クロテガエルのオスとメスの色はどれかわかるか」
「これがオスで、これがメスの色」
なるほど、と呟いて、男はそのページをじっと見つめてからフリージアを見た。
「俺には同じ色に見える」
同じ色?
「そんなわけ…」
「今やったのは、色覚をみるテストだ。君は25問全部正解したが、問題は徐々に難易度が上がっていくんだ。普通の人は正解できて7問くらい、優れた色覚を持っている人でも、10問を超えてくるとほとんどわからなくなる。ちなみに俺は8問目からは判別できなかった。あの色の分布図も、判別できて40色が限度だ。常人なら。」
40色?そんなわけない。あんなに沢山の色が載っていた。
「加えて、微妙な色の違いをそのまま記憶に留めておくことも常人ならできない。優れた色覚者なら、オスかメスか見比べたらわかるかもしれないが、君は記憶の中にある色で断言してみせた。まあ、これが本当にオスかどうかは、生殖機能を見ないとわからないが…」
ポカンとするフリージアに男は頷いた。
「君は、優れた色覚者だ。その中でも、飛び抜けた色覚を持っている、天才だ。きっと、君が見てる世界と、俺が見てる世界は全然違う。」
綺麗な空色をしていて、前足だけ黒い長手袋をつけているように黒いことから、クロテガエルという。
グロース王国では、自然豊かな地域ならどこでも生息していて、ターナー伯爵領では春から秋にかけてよく見かける。
王都で見たのは初めてだった。
男に虫かご代わりの透明な瓶を渡され、その中にカエルを入れてやると、気持ち離れたところで待っていた男が近づいてきた。
「これがクロテガエル・・」しげしげと観察している。
「これ、オスよ」
「は?」
男がまじまじとカエルを見つめる。
「なんでわかる?」
「なんでって・・」
見ればわかるので返答に困る。
フリージアがそう言うと、
「・・ちょっと、ちょっと待て!」
と、男が慌てて鞄の中から本を持ってきてページを捲る。
「これは?オスかメスか、わかるか?」
男が本を開いて、一部を手で隠しながら見せてきた。
色んな格好をしたクロテガエルのスケッチが載っている。
色は付いていないが、形からだけ推察するにこれは・・
「こっちのページはこの1匹だけがメス。こっちのページはこれとこれとこれがメス。これは…顔が見えないから、多分だけど、オス。他も全部オス」
答えを聞くと、男は隠した部分とスケッチを見比べて確認する。
「全部当たってる・・」
「・・・当たり前でしょ」
興奮した様子の男が言うには、クロテガエルは外観からだけではオスメスの判別がつきにくく、研究者でも至難の技なのだそうだ。
見分けるポイントを聞かれるが、改めて聞かれると少し考えてしまう。
「ポイントって言われても…色が全然違うじゃない。あとは、黒い部分の光沢感とか、手の形の感じとか、顔の表情とか?」
「色って、この体の空色のことか?」
「そうよ」
男は思案している。
「あんた、名前は?」
「・・・フリージア」
「フリージア、あんたに確認してほしいことがある。1刻もかからないで戻ってくるから、ここで待っていてくれないか」
どうせやることはないし、迎えの馬車までまだまだ時間はある。
「…別に、いいけど」
「よし、じゃあ待ってろよ!必ずだぞ!」
念を押し、何度か振り返りながら、男は去っていった。
残されたフリージアはしばしポカンとしていた。
持っていた瓶の中で、クロテガエルが、ひと声ケルッと鳴いた。
「…なんだって言うのよ」
ため息を吐いて、瓶の中を覗き込むと、フリージアは東屋に戻っていった。
東屋で座って待っているつもりだったが、カエルが逃げないように気をつけながら、瓶に水や、適当な小石や枝を拾って入れてやったりと、割と忙しい。
作業が終わってひと息着いた頃に、分厚い本を抱えて男が戻ってきた。
「これを見てくれ」
ページを捲ると、赤系だったり黄色系だったり、色が集められていて、フリージアには、生地選びでも使う色見本の本に見えた。
赤系統の色の沢山載ったページを開いて男が言う。
「このページのうち、同じ色はどれか教えてくれ」
なんでそんなこと…と思ったが素直に従った。
「これと、これとこれ。」
その後も、他の色で似たような問題を出される。
前のページで見た色と同じ色を当てたり、点で描かれた絵の中には何種類の色があるのか答えたり。
次々と出される問題にフリージアは答えた。
いつまで続くのだろう、とフリージアがゲンナリした所で、最後の問題だ、と今度は一面に、虹のような色の分布図が描かれたページを見せられる。
「何色見える?」
何色って…ページを眺めてフリージアは首を振った。
「こんなの多すぎて…数えられるわけないじゃない。」
「多すぎる?何色くらいだ?」
「…3桁は越えるわね」
そうか、と頷いて、男は今度は青系のページを開いた。
向かって1番左が薄く、右にいくにつれて、どんどん青が濃くなっていく。
「この中で、クロテガエルのオスとメスの色はどれかわかるか」
「これがオスで、これがメスの色」
なるほど、と呟いて、男はそのページをじっと見つめてからフリージアを見た。
「俺には同じ色に見える」
同じ色?
「そんなわけ…」
「今やったのは、色覚をみるテストだ。君は25問全部正解したが、問題は徐々に難易度が上がっていくんだ。普通の人は正解できて7問くらい、優れた色覚を持っている人でも、10問を超えてくるとほとんどわからなくなる。ちなみに俺は8問目からは判別できなかった。あの色の分布図も、判別できて40色が限度だ。常人なら。」
40色?そんなわけない。あんなに沢山の色が載っていた。
「加えて、微妙な色の違いをそのまま記憶に留めておくことも常人ならできない。優れた色覚者なら、オスかメスか見比べたらわかるかもしれないが、君は記憶の中にある色で断言してみせた。まあ、これが本当にオスかどうかは、生殖機能を見ないとわからないが…」
ポカンとするフリージアに男は頷いた。
「君は、優れた色覚者だ。その中でも、飛び抜けた色覚を持っている、天才だ。きっと、君が見てる世界と、俺が見てる世界は全然違う。」
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