黒い姉妹

ゆめゆき

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文句なしの新婚生活

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 インクの匂いでわたしは目を覚ました。

「おはよう、エル」

 グレイはすでに着替えた姿で、ベッドに腰かけて、薄暗い中で新聞を広げていた。

「お、おはよう…グレイ…」

「カーテンを開けよう」

 グレイが立ち上がり窓に近づき、カーテンを開けた。

 朝の眩しい光が部屋に満ちる。

 明るい場所で見ても、グレイの美貌は変わらなかった。それどころか、よけいに輝いていた。わたしは嘆息した。

「唇を尖らせてどうしたの?」

 グレイの指先が、わたしの頬をつんと突いた。

「なんでもないわ…」

「昨夜は嫌じゃなかった…?」

 わたしの顔を覗き込むようにして言う。

「い、嫌じゃなかった…わ…」

 恥ずかしいことを聞かないでほしい…。

「その…僕の顔は…」

「素敵よ。とても…」

 ひと目で恋に落ちずにいられないくらいに。

「ほんとう…?エルに気に入ってもらえたならよかった…」

 グレイはわたしの隣に座った。

「エルも新聞を読む?」

「新聞…?読みたいわ!」

 わたしは、実は読めるものならなんだって好きだ。

「じゃあ、エルのためにとってあげる…母が読んでいたのはね…」

 実家では父だけが新聞を読んでいた。

「あの…書庫の本も、読んでいい…?」

「もちろん!」

 わたしも洗面を終え、着替えると、食堂に向かう。

 使用人たちが色めき立っている。昨日より賑やかだ。

 グレイと向かい合って朝食をとる。

 彼の仕草は繊細で優雅だ。食事をする姿も洗練されている。見惚れてしまうほどだ。

「エル、食事は口に合う?」

「ええ、美味しいわ…」

「よかった」

 うちだって、腕のいい料理人を雇っていたが、実家で出される料理より、もっと美味しい。

 食事を済ませて部屋に戻り、休んでいるとノックをして興奮したエッタが入ってきた。

「お嬢…奥様…!旦那様のお顔ときたら…驚きましたよ!ウチは…ウチは…」

「まあまあ、そんなに慌てて…エッタ、落ち着いて」

「リナお嬢様の嫁ぎ先のハイロ様なんて目じゃありませんね!!初めてお顔を拝見した使用人たちがもう大騒ぎです!!」

「く、比べたりしてはいけないわ…品がないでしょう…」

「そうですけど…正直、ウチは胸がスッとしました!はあ…奥様と旦那様はなんとお似合いの美しいご夫婦でしょう!」

「そ、そう…」

 エッタがそう言うのには訳がある。わたしたち姉妹の間にいつの頃からか格差が出来たように、それぞれのお付きのメイドたちの間に敵対心が生まれたのだ。

 リナびいきのメイドには、無視されたり、持ち物を隠されたりなど意地悪されたこともある。

「エッタ…でも…」

「なんでしょう。奥様」

「わたしはリナのように美人ではないわ…グレイは…どうしてわたしなんかを…」

「奥様…」

 エッタは一言一言言い聞かせるようにわたしに言った。

「奥様はとてもおきれいですよ…!なぜかご両親はリナ様をひいきなさっておいでのようでしたが…目鼻立ちも整っていて、肌もつやつやの陶器のようで、腰も細くて…とてもおきれいですよ…!」

「あ…ありがとう…」

 それからの暮らしはとても順調だった。

 グレイは忙しく、屋敷にいないことが多かったが、仕事から帰ると、必ずお土産を買って来てくれて、旅先のいろんな話を、あの不思議な声で楽しそうにわたしにしてくれる。

「エルはいつからか、夜会などで見かけても、さびしそうな表情をしているようになって…なぜだろうと思っていたけど、気のせいだったのかな…君はよく笑う…」

 ふふ…と、満足そうなきれいな笑顔を見せて、ある時、グレイは言った。

 彼のいない間は、読書の時間を持つことも出来た。使用人たちもとても親切だった。

 わたしは当たり前に急速に彼に惹かれていき、それを素直に出せるようになっていった。

 彼が素顔で出歩くことで、リナのような女に彼が奪われるんじゃないかとわたしは不安を覚え、だけどそれをグレイに打ち明けることが出来た。

 すると、彼は言うのだ。

「僕はエルだけのものだ」

 それから寝室でも、わたしはグレイと結ばれた。

 初めて体を繋げた夜、もちろん痛みは伴ったが、彼がとても気遣ってくれて、それほどつらくはなかったし、幾度も回数を重ねるたびに、夜のことを楽しむことが出来るようになっていった。

 わたしもリナのことは言えない、淫らな女なのだろうか。

 わたしも彼も若かった。だから、ある時などは一日中愛し合った。

 日々は充実していた。

 だが、数ヶ月たった後、突然リナから手紙が届いた。

 封を切る前から心が重くなる…。
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