黒い姉妹

ゆめゆき

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黒い姉妹

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「エル様、ここにはほら…こういう表現を入れると、相手に好印象を与えると思うよ…」

「わかりました。サリュート先生…!」

 わたしはエル。机に向かい、家庭教師のサリュート先生に綴り方を教わっている。

 作文は大事だ。主な連絡手段が手紙であるため、字の美しさ、文章の巧みさは時に何よりも有効な魅力の伝え方だ。

 貴婦人として、最も大切な教養の一つと言っていい。

「エル様はとても優秀な生徒で、ぼくはとても誇らしい。あなたは感性が豊かで、文章からそれが伝わってくる…」

 美しいサリュート先生に褒められて、わたしはくすぐったい気持ちになる。

 家柄こそ自分たちよりは劣るが、こんなに素敵な男性はほかにいない。

 優美な体躯、整った白いかんばせ、口を開くと、眩しい白い歯がのぞく。

 サリュート先生は目が悪く、高価な眼鏡をかけている。

 この眼鏡を手に入れるのに、先生はたいそう苦労なさったという。

 その眼鏡をかけていても見えにくいのか、ペリドットの瞳でやぶにらみされると、わたしは胸がドキドキした。

 ちらと隣に座る先生の表情をうかがうと、先生はやわらかな微笑みを浮かべている。まるで天使みたい…。

 わたしはサリュート先生とのこの時間が好きだった。

 二つ並んだ机のもう一つの持ち主は二つ下の妹のリナ。彼女は勉強嫌いで、音楽や絵画はともかく、作文や読書に興味を示さず、その時間には姿をくらませてしまうのだ。

 だから、わたしはサリュート先生を独占することが出来る…!

 妹のリナとわたしは、十歳から十二歳頃まではとても仲良くいつも一緒に遊んでいた。

 庭を駆け回り野花を摘んだり、お人形で遊んだり。

 字が読めるようになってからは、父の書棚をいたずらして二人で絵の描かれた本を物色して持ち出して見たりした。

 ある時なんかは、裸の男女が絡み合う挿絵のある本を見つけてしまい、二人で顔を見合わせ、興奮してページをめくったものだった。

 それは父の秘密のコレクションだったのだろう。

 箱入りのわたしたちでも、なんとなくその絵の意味することはわかった。

 私たちはそれから時々、その秘密コレクションを持ち出し、夢中になって描かれている絵を観察した。

 だが、いつしかわたしたちの間は疎遠になっていった。

 思春期にさしかかるにつけ、わたしとリナとの決定的な違いが明らかになっていったのだ。

 リナは美しく華やかな容姿をしていて、姉のわたしは比較すると平凡な容姿をしていた。

 それを自覚できるようになってきて、二人の間には溝が出来ていったのだ。

 両親のわたしたちに対する扱いすら、格差が生まれていったように思う。
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