白銀の城の俺と僕

片海 鏡

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六章

66話

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「センテル兄さんは、イルディナータ叔祖父様に先程洗脳の奇蹟を掛けたよね?」

 シャングアは、センテルシュアーデの先程の行動から洗脳の奇蹟は目から発するものだと気づいた。目に奇蹟を刻み込むなんて、例がない。自分に洗脳の奇蹟が掛けられたのも、放心状態になった所を付け込まれただけでなく、呼びかける振りをして目と目を合わせる前例のない奇蹟の掛け方によって、誰も気付けなかった。こうして、何年も何度も洗脳が弱まる時期を見越して掛けられていたと思うと、シャングアは吐き気に似た嫌悪を抱いた。

「あぁ、したよ。そうしないと、君の手が汚れるからね」

 シャングアの問いに、センテルシュアーデは笑顔で答える。
 過保護。そう一言でまとめられる状況ではないが、それ程までに守られていた。シャングアはどうも釈然としない。何も分からないまま突っ走った挙句に、センテルシュアーデの描いた舞台で踊らされているようだ。

「ここでは説明してもしきれない位に、私は君達に隠し事をしている」
「そうだろうね。9年から調べていたなら、御婆様とも何かやり取りをしているよね?」
「その前に、こちらの方々を置いてきぼりには出来ないよ」

 センテルシュアーデはそう言って、エンディリアムの方へと顔を向ける。彼は、竜がエンティーに擦り寄る姿を微笑ましそうに眺めている。
シャングアとエンティーが最深部へ到達するまでの間、竜はエンディリアムによる治癒の奇蹟を受けたのか、全身の傷が薄くなっている。充分な休息と栄養を摂取すれば、傷跡は消え、美しい鱗が生え揃うだろう。

「えと、この竜は、あなたの従属なんですか?」

 どうしてここまで懐かれるのか分からずエンティーは、エンディリアムに問う。

「いえ。君の父ですよ」
「え!?」

 さらりと言われ、エンティーとシャングアは目を丸くし、センテルシュアーデは興味深そうに両者を見る。
 エンディリアムは竜の伸び放題となっている銀の鬣を掻き分け、額の紺色の宝玉が顔を出す。その特徴は、聖徒とエンディリアムに通じている。

「我々白呪は人と竜の両者の姿を持ちます。彼は酷い虐待と実験に利用され、体内の神力の乱れが起きた結果、この10年間は人の姿へと戻れずにいたようです。自我は何とか保っていたそうです」

 エンディリアムは、竜の額に触れる。
 人語を話せない代わりに、奇蹟による情報伝達を行っているようだ。

「泣きじゃくる我が子へ番が謡っていた子守歌を久しぶり聞いた、と……子を迎えに行かなければならないと思い出し、地下から脱出を図ったそうです。結果、彼の血で構成され結晶が反応し、あのような地下空間が出来上がってしまいました」

 地下通路の構成が一変した際、最初に竜が現れ、こちらをじっと見つめていた理由。それは、エンティーを見つけたからだ。しかし、竜のみでは言葉は離せず抱きしめる事も出来ない。君の父であるとどう伝えれば良いのか、思案していたのだろう。

「歌って……俺の歌った?」

 この地下で歌ったのは自分だけだと思い、エンティーは聞いてみると、肯定するように竜は彼の左頬に擦り寄る。

「時間が経てば、再び言葉を交わせます。まずは、ここから出て聖皇殿へあなた方の無事を伝えに行きましょう」

 エンディリアムはそう言って微笑み、2人は地上へ戻る事となった。センテルシュアーデとトゥルーザ、そして騎士達は証拠品を回収する為に地下に留まった。
 階段を2人で登ると、そこは玉座の間であった。
 多くの貴族、そして聖皇とリュクが2人待っていた。

「! エンティー!」
「リュク!」

 リュクの姿を見つけたエンティーはすぐさま駆け寄るが、驚いた。

「えっ、宝玉割れてる!? どうしたの?」
「これは直ぐに治る。治るから気にしないでくれ……オレ、エンティーに謝らないといけないんだ」
「リュクが謝る様な事、何もないと思うけど……?」
「こっちには沢山あるんだよ! 内殻にいる頃からずっと洗脳されていた事や、そのせいで痛い思いをずっとエンティーがしていた事や……言葉にしても足りない位、謝らせてほしい。ごめん。今まで、オレは何もできなかった」

 泣きそうな声で訴えるリュクの右手をエンティーは握った。

「リュクのせいじゃないよ。君は、何も悪くない。だから、そんな顔しないでよ。俺は、リュクが笑っている方が好きだな!」

 にっこりと笑顔を見せるエンティーに、リュクは堪えきれずに泣いた。
 2人の後を追い階段を登って来たエンディリアムはその様子を微笑ましく見送った後、聖皇バルガディンの前へと立つ。

「バルガディン殿。約束の場所へ連れてっていただけますか?」
「もちろんです」

 バルガディンは騎士に指示を出し、案内役を前に立たせる。

「あの、どちらに?」
「ルエンカーナの元へ」

 シャングアの問いに、エンディリアムの微笑みが少し崩れる。
 その瞳には懐かしさと哀愁が宿っている。
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