白銀の城の俺と僕

片海 鏡

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四章

42話

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 鉱石から研磨し、生み出された宝石とは違い、疑似結晶は聖徒の血液から生成される。一滴の血液から神力を注ぎ込み、結晶化させる。フェルエンデが自身の目の代わりになり、先進的な医療を押し進める道具として、疑似結晶を開発した。
そして、二年程前に第一弾となる疑似結晶が完成した。

「誰かが飛竜を無理やり操るか、暴れさせようとして、疑似結晶の力を増幅させたんだと思う」

 疑似結晶は医療目的で開発された為、強風を引き起こす様な大きな威力を持たない。疑似結晶を投げた方が痛手になると思えるほどだ。その代わりに、奇蹟の力を保存する持続性が高く設計されている。エンティーが行った精密検査とその情報の保管、神力の循環の計測、映像の保存、保冷剤やカイロの様に一定の温度の維持等、様々な用途で使用されている。飛竜を暴走させようとなれば、彼らの強靭な肉体や精神を侵す程の強力さが必要だ。
疑似結晶に束縛や活性化などの作用の奇蹟を組み込み、特定の時間に発動、そして鱗の欠片が増幅させたと考えられる。

「でも、飛竜の鎧は35匹分用意していたから、疑似結晶が盗まれたとなったら大事になるはずだよね」

 シャングアの言葉に、センテルシュアーデは頷く。

「フェルエンデに聞いたが、宝玉の紛失はないと断言していた。数少ない良品は彼の奇蹟が封じ込められているから、おかしな場所に移動すれば直ぐに分かるそうだ」
「フェル兄さんの疑似結晶の作り方を誰かが盗んだってこと?」

 疑似結晶はフェルエンデしか作れず、出来上がっても全てが良品とは限らない。持続性が劣るモノや、奇蹟を組み込むと割れてしまうモノ等、欠品が必ず出てくる。

「生成方法はあの子の頭の中にあり、番の方と2人きりの時にしか作らないそうだ」

 フェルエンデの番は外殻に住んでいるΩだ。黒髪の持ち主であり、神殿に召し上げる事が出来ない為、週に一度だけ外殻に最も近い内殻の一室で、2人は一日を過ごしている。

「何で2人きりの時?」
 思わずシャングアは反応をしてしまう。センテルシュアーデはそれに乗ろうとしたが、トゥルーザに咳払いされ無言の圧力を掛けられた。

「生成の際に、Ωの血が必要なのかもしれない。まぁ、あくまで私の予想だ」
「分からなくは無いけれど……そうなってくると、どうやって事件を起こした犯人が疑似結晶を手に入れたか、だね」

 神力を貯め込むΩの性質が血にも表れるなら、とシャングアはある程度納得をする。

「僕の推測なんだけれど、言っても良い?」
「勿論。何かな?」

 センテルシュアーデは頷く。

「エンティー達Ωの抑制剤に含まれていた禁止薬物が特定され、製法も文献に残っていたんだ。材料の中に絶滅種の血液があったんだ」

 初代聖皇時代からの禁止薬物がどこで製造されたのか未だに判明していないが、押収した薬品の材料の特定が完了した。今も使われている薬草から、禁止されているキノコ等、の様々な動植物が使用される。その中でシャングアが注目したのが、絶滅種の血液である。
 島に生息していた白い蛇の様に胴の長い竜種の血液。強い治癒能力があると重宝されたが、精神と行動に著しい変化と依存性があるとのちに判明し、やがて使用が禁止された。しかし、依存者達とそれを資金源とする者達は陰で乱獲を行い、やがて雛や卵すら狙い始め、瞬く間に竜は絶滅をした。

「一時期、その治癒能力を抽出する実験が行われた事があると文献に書いてあったんだ」
「それが、結晶化の実験だったのかい?」
「うん。聖徒の神力を使って結晶化させ、治癒能力をその中に封じ込めるって内容だった。結果としては、治癒能力がない石が出来上がったらしい。これがもし、フェル兄さんの疑似結晶と類似するものなら、禁止薬物の件も今回の暴走事件もかなり根深い部分にいる人の犯行だと思う」
「フェルエンデの功績が、裏目に出たか。まぁ、使い手によって善悪に代わるのはよくある話だが……血の保管や、その結晶を破棄せず保管できる人間なんて、貴族の中でも第二か第三だ」

 センテルシュアーデは大きくため息をついた。
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