42 / 71
四章
42話
しおりを挟む
鉱石から研磨し、生み出された宝石とは違い、疑似結晶は聖徒の血液から生成される。一滴の血液から神力を注ぎ込み、結晶化させる。フェルエンデが自身の目の代わりになり、先進的な医療を押し進める道具として、疑似結晶を開発した。
そして、二年程前に第一弾となる疑似結晶が完成した。
「誰かが飛竜を無理やり操るか、暴れさせようとして、疑似結晶の力を増幅させたんだと思う」
疑似結晶は医療目的で開発された為、強風を引き起こす様な大きな威力を持たない。疑似結晶を投げた方が痛手になると思えるほどだ。その代わりに、奇蹟の力を保存する持続性が高く設計されている。エンティーが行った精密検査とその情報の保管、神力の循環の計測、映像の保存、保冷剤やカイロの様に一定の温度の維持等、様々な用途で使用されている。飛竜を暴走させようとなれば、彼らの強靭な肉体や精神を侵す程の強力さが必要だ。
疑似結晶に束縛や活性化などの作用の奇蹟を組み込み、特定の時間に発動、そして鱗の欠片が増幅させたと考えられる。
「でも、飛竜の鎧は35匹分用意していたから、疑似結晶が盗まれたとなったら大事になるはずだよね」
シャングアの言葉に、センテルシュアーデは頷く。
「フェルエンデに聞いたが、宝玉の紛失はないと断言していた。数少ない良品は彼の奇蹟が封じ込められているから、おかしな場所に移動すれば直ぐに分かるそうだ」
「フェル兄さんの疑似結晶の作り方を誰かが盗んだってこと?」
疑似結晶はフェルエンデしか作れず、出来上がっても全てが良品とは限らない。持続性が劣るモノや、奇蹟を組み込むと割れてしまうモノ等、欠品が必ず出てくる。
「生成方法はあの子の頭の中にあり、番の方と2人きりの時にしか作らないそうだ」
フェルエンデの番は外殻に住んでいるΩだ。黒髪の持ち主であり、神殿に召し上げる事が出来ない為、週に一度だけ外殻に最も近い内殻の一室で、2人は一日を過ごしている。
「何で2人きりの時?」
思わずシャングアは反応をしてしまう。センテルシュアーデはそれに乗ろうとしたが、トゥルーザに咳払いされ無言の圧力を掛けられた。
「生成の際に、Ωの血が必要なのかもしれない。まぁ、あくまで私の予想だ」
「分からなくは無いけれど……そうなってくると、どうやって事件を起こした犯人が疑似結晶を手に入れたか、だね」
神力を貯め込むΩの性質が血にも表れるなら、とシャングアはある程度納得をする。
「僕の推測なんだけれど、言っても良い?」
「勿論。何かな?」
センテルシュアーデは頷く。
「エンティー達Ωの抑制剤に含まれていた禁止薬物が特定され、製法も文献に残っていたんだ。材料の中に絶滅種の血液があったんだ」
初代聖皇時代からの禁止薬物がどこで製造されたのか未だに判明していないが、押収した薬品の材料の特定が完了した。今も使われている薬草から、禁止されているキノコ等、の様々な動植物が使用される。その中でシャングアが注目したのが、絶滅種の血液である。
島に生息していた白い蛇の様に胴の長い竜種の血液。強い治癒能力があると重宝されたが、精神と行動に著しい変化と依存性があるとのちに判明し、やがて使用が禁止された。しかし、依存者達とそれを資金源とする者達は陰で乱獲を行い、やがて雛や卵すら狙い始め、瞬く間に竜は絶滅をした。
「一時期、その治癒能力を抽出する実験が行われた事があると文献に書いてあったんだ」
「それが、結晶化の実験だったのかい?」
「うん。聖徒の神力を使って結晶化させ、治癒能力をその中に封じ込めるって内容だった。結果としては、治癒能力がない石が出来上がったらしい。これがもし、フェル兄さんの疑似結晶と類似するものなら、禁止薬物の件も今回の暴走事件もかなり根深い部分にいる人の犯行だと思う」
「フェルエンデの功績が、裏目に出たか。まぁ、使い手によって善悪に代わるのはよくある話だが……血の保管や、その結晶を破棄せず保管できる人間なんて、貴族の中でも第二か第三だ」
センテルシュアーデは大きくため息をついた。
そして、二年程前に第一弾となる疑似結晶が完成した。
「誰かが飛竜を無理やり操るか、暴れさせようとして、疑似結晶の力を増幅させたんだと思う」
疑似結晶は医療目的で開発された為、強風を引き起こす様な大きな威力を持たない。疑似結晶を投げた方が痛手になると思えるほどだ。その代わりに、奇蹟の力を保存する持続性が高く設計されている。エンティーが行った精密検査とその情報の保管、神力の循環の計測、映像の保存、保冷剤やカイロの様に一定の温度の維持等、様々な用途で使用されている。飛竜を暴走させようとなれば、彼らの強靭な肉体や精神を侵す程の強力さが必要だ。
疑似結晶に束縛や活性化などの作用の奇蹟を組み込み、特定の時間に発動、そして鱗の欠片が増幅させたと考えられる。
「でも、飛竜の鎧は35匹分用意していたから、疑似結晶が盗まれたとなったら大事になるはずだよね」
シャングアの言葉に、センテルシュアーデは頷く。
「フェルエンデに聞いたが、宝玉の紛失はないと断言していた。数少ない良品は彼の奇蹟が封じ込められているから、おかしな場所に移動すれば直ぐに分かるそうだ」
「フェル兄さんの疑似結晶の作り方を誰かが盗んだってこと?」
疑似結晶はフェルエンデしか作れず、出来上がっても全てが良品とは限らない。持続性が劣るモノや、奇蹟を組み込むと割れてしまうモノ等、欠品が必ず出てくる。
「生成方法はあの子の頭の中にあり、番の方と2人きりの時にしか作らないそうだ」
フェルエンデの番は外殻に住んでいるΩだ。黒髪の持ち主であり、神殿に召し上げる事が出来ない為、週に一度だけ外殻に最も近い内殻の一室で、2人は一日を過ごしている。
「何で2人きりの時?」
思わずシャングアは反応をしてしまう。センテルシュアーデはそれに乗ろうとしたが、トゥルーザに咳払いされ無言の圧力を掛けられた。
「生成の際に、Ωの血が必要なのかもしれない。まぁ、あくまで私の予想だ」
「分からなくは無いけれど……そうなってくると、どうやって事件を起こした犯人が疑似結晶を手に入れたか、だね」
神力を貯め込むΩの性質が血にも表れるなら、とシャングアはある程度納得をする。
「僕の推測なんだけれど、言っても良い?」
「勿論。何かな?」
センテルシュアーデは頷く。
「エンティー達Ωの抑制剤に含まれていた禁止薬物が特定され、製法も文献に残っていたんだ。材料の中に絶滅種の血液があったんだ」
初代聖皇時代からの禁止薬物がどこで製造されたのか未だに判明していないが、押収した薬品の材料の特定が完了した。今も使われている薬草から、禁止されているキノコ等、の様々な動植物が使用される。その中でシャングアが注目したのが、絶滅種の血液である。
島に生息していた白い蛇の様に胴の長い竜種の血液。強い治癒能力があると重宝されたが、精神と行動に著しい変化と依存性があるとのちに判明し、やがて使用が禁止された。しかし、依存者達とそれを資金源とする者達は陰で乱獲を行い、やがて雛や卵すら狙い始め、瞬く間に竜は絶滅をした。
「一時期、その治癒能力を抽出する実験が行われた事があると文献に書いてあったんだ」
「それが、結晶化の実験だったのかい?」
「うん。聖徒の神力を使って結晶化させ、治癒能力をその中に封じ込めるって内容だった。結果としては、治癒能力がない石が出来上がったらしい。これがもし、フェル兄さんの疑似結晶と類似するものなら、禁止薬物の件も今回の暴走事件もかなり根深い部分にいる人の犯行だと思う」
「フェルエンデの功績が、裏目に出たか。まぁ、使い手によって善悪に代わるのはよくある話だが……血の保管や、その結晶を破棄せず保管できる人間なんて、貴族の中でも第二か第三だ」
センテルシュアーデは大きくため息をついた。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
あなたを追いかけて【完結】
華周夏
BL
小さい頃カルガモの群れを見て、ずっと、一緒に居ようと誓ったアキと祥介。アキと祥ちゃんはずっと一緒。
いつしか秋彦、祥介と呼ぶようになっても。
けれど、秋彦はいつも教室の羊だった。祥介には言えない。
言いたくない。秋彦のプライド。
そんなある日、同じ図書委員の下級生、谷崎と秋彦が出会う……。
《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ
ぽむぽむ
BL
交通事故死により中世ヨーロッパベースの世界に転移してしまった主人公。
セオリー通りの神のスキル授与がない? 性別が現世では女性だったのに男性に?
しかも転移先の時代は空前の騎士ブーム。
ジャンと名を貰い転移先の体の持ち前の運動神経を役立て、晴れて騎士になれたけど、旅先で知り合った男、リシャールとの出会いが人生を思わぬ方向へと動かしてゆく。
最終的に成り行きで目指すは騎士達の目標、聖地!!
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)
Oj
BL
オメガバースBLです。
受けが妊娠しますので、ご注意下さい。
コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。
ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。
アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。
ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。
菊島 華 (きくしま はな) 受
両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。
森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄
森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。
森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟
森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。
健司と裕司は二卵性の双子です。
オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。
男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。
アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。
その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。
この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。
また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。
独自解釈している設定があります。
第二部にて息子達とその恋人達です。
長男 咲也 (さくや)
次男 伊吹 (いぶき)
三男 開斗 (かいと)
咲也の恋人 朝陽 (あさひ)
伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう)
開斗の恋人 アイ・ミイ
本編完結しています。
今後は短編を更新する予定です。
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる