白銀の城の俺と僕

片海 鏡

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四章

41話

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「うん。良い話が聞けた。私からも、情報を提示する事にしよう」

 満足した様子でセンテルシュアーデは、懐からあるものを取り出す。
 テーブルの上に置かれたのは、手の平ほどの大きさがある円盤状の薄い金属。中央には青い宝石が埋め込まれ、表面には彫金によって植物のツタが施されている。交代式等の行事用に作られた飛竜専用の甲冑を飾る装飾の一部だ。これは眉間の位置を飾る代物であり、そう簡単に取れない様しっかりと溶接されている筈だ。
 技術の賜物ではあるが、特に怪しい点は見られない。

「裏面を見て欲しい」
「? わかった」

 シャングアは円盤の金属を手に取り、裏側を見る。

「それに、心当たりはあるかな?」
「……ない。初めて見た」

 センテルシュアーデの問いにシャングアは素直に応える。
 ピンク、黄、緑、青、様々な色が光の干渉によって浮かび上がる。裏側には構造色の物質がまるでモザイクタイルのように散りばめられている。
構造色とは、それ自身には色がついていないが、光の波長あるいは微細構造、特に周期的な構造を持つことによって発色する現象を指す。シャボン玉のように薄い膜の上下での反射や、貝類の内側やタマムシ達昆虫類の金属光沢のように多層の膜による反射等、様々な条件による発色をする。
 世界で最も美しい虫と称されるモルフォ蝶もその現象によって発色している。
 オパールのように美しく、これならば透かし彫りで表に出しても良さそうに思えるが、飛竜の装備品となれば素材の性質に左右される。

「こちらは他の甲冑から、摘出たものになります」

 トゥルーザがテーブルに構造色の物質を置く。シャングアは恐る恐るそれを持ってみる。
 2㎜の厚さの乳白色の物体。やや透けており、多層の一部と思われるが貝や虫の羽に比べ頑丈さがある。それでいて鉱物に比べて、しなやかさがある。試しに神力を軽く注ぎ込んでみると、物体の中にすんなりと入った。血管のように流れていく様子から、神力を持つ生物のモノであると断定できる。

「……竜種の鱗の欠片?」
「私もその類だと予想しているが、シャングアはこれについても知らないのかい?」
「ないよ。装備品の配色や模様を鍛冶師達と意見し合ったくらいで、裏側に細工をしろとは言っていない。飛竜の気を散らすようなものを付けるなんて事故の基だから」

 飛竜は飛行能力に特化しているが、神力を少量体内で生成しており、風を読み取る器官に活用されている。彼らの力だけで飛ぶにしても、それが乱れれば飛行が不安定になってしまう。欠片が影響あるものだと仮定すると、神力が正常に循環せず、振り払って外そうと飛竜が暴れてしまうのが容易に予想できる。しかし、暴走の原因の一つと考えられても、それだけでは度重なる墜落と、エンティーを追いかけ回す行動に繋がるとは言い難い。

「そうか。鍛冶師と細工師、そして彼らの工房管理者に事情聴取をしたが、同様の見解だった。今回鎧に使用された材料の明細書には、それらしき物は無いと報告が上がっている」
「騎士達の装備も、同じようなものがあった?」
「彼らの装備品を全て検品したが、なかったよ」

「……隠蔽されているね」

 シャングアの元へ送られて来た報告書にはない内容に、彼はため息を着く。

 竜種の鱗を砕き、それを円盤の裏側へはめ込めるのは技術者位だ。誰が何を作ったのか、直ぐに調べがつく。偽造し、隠蔽を行ってまで危ない橋を渡り、神殿の信頼を失ってまで得られるものがあるのだろうか。

「そうだな。けれど、何故このような騒ぎを起こしたのか目的が不透明だ。もっと調べる必要がある」

 飛竜の暴走は確かに大きな騒ぎであったが、交代式は人々が集まる事もあって警備が厳重になる。飛竜に乗る騎士達は落下対策された防具によって死者は出ず、エンティーを含む負傷者21人に命の別状はない。神殿への被害はあったが、大打撃を受ける程ではない。
 エンティーの命を狙い、事故に見せかけて行ったにしては異様に大がかりだ。

「なぁ、シャングア。この欠片はどのような効果を持つと思う?」
「宝玉の増強装置だと思う。僕が鍛冶師達に完成品を見せてもらった時には、ただの宝石だった。でも、円盤に埋められているのは、フェル兄さんが開発した疑似結晶。僕達の額の宝玉を真似たもので、奇蹟の力を注ぎ込めば一定時間維持できる」

 シャングアは円盤に埋め込まれている宝玉は何であるか、すでに見抜いていた。
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