白銀の城の俺と僕

片海 鏡

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三章

33話

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 バルガディンが部屋を出た後、シャングアは扉を見るばかりでエンティーに顔を向けることが出来ず、もどかしくなり頭を掻いた。

「シャングア?」
「うん……その、見苦しい所を見せて、ごめん」
「別に気にしていないよ。2人は親子だから、話す事も色々あるんでしょう?」
「う、うん」

 シャングアは大きく深呼吸をすると、エンティーの方を向いた。しかし、直ぐに目線が下へと向く。

「あの、僕の収集品の話だけれど……隣の部屋にあるんだ。嫌じゃなかったら、一緒に行かない?」
「行く!」

 遠慮がちに言うシャングアに、エンティーは即答をする。

「うん。わかった」

 即答されるとは思わなかったシャングアだが、嬉しそうに微笑する。

「やった!! あ、籠はどうする? 持っていく?」
「そうだね。あっちで食べようか」

 籠の中に目を向けると、化粧箱は二つ入っている。蓋を開けてみると、揃いの銀色のデザートスプーンとフォークが入っている。

「どうしたの?」
「スプーンも一緒に入っていたから、ちょっと驚いただけ」

 2人きりで食べろと言わんばかりの父の厚意にシャングアは、若干苛立ちを覚えた。

「それじゃ、エンティーは籠を持っていて」
「良いけど……俺は動け、うわぁ!?」

 籠を受け取ったエンティーをシャングアは軽々と抱き抱え、そのまま扉の方へと向かう。

「ヴァンジュ。扉を開けてくれ!」
「はい」

 外で待機をしていたヴァンジュは、シャングアの呼びかけに直ぐに応えて扉を開ける。

「隣の収集室に行きたい。合い鍵は持っているよね?」
「はい。勿論です。直ぐに開けさせてもらいます」

 エンティーが抱き抱えられている事に驚く素振りは見せず、ヴァンジュは収集室の扉の鍵を開ける。

「ありがとう」

 シャングアは軽く礼を言うと収集室へと入り、彼女は扉を閉め、先ほどと同じように廊下で待機をする。 
 収集室の窓はカーテンが閉められ、薄暗い。

「ちょっと待ってね」

 そう言うとシャングアは、息を吹きかける動作をする。すると、ふわりと綿毛のような光の玉が現れ、宙を浮き、部屋を照らし始める。

「おー! 奇蹟って色々使えるんだね……って、大丈夫なの!?」

 感心したのも束の間に、エンティーはシャングアを心配する。

「神力の使用量はほんの少しだから大丈夫。額もいたくないよ」
「無理はしないでよ」
「わかった」

 シャングアは頷き、さらに中へと踏み入れる。
 部屋はシャングアの寝室の約二倍の広さがある。様々な品が立ち並ぶが、綺麗に整理されている。天井から吊り下がるイルカの骨、まるで生きているかのような狼の剥製、ハリセンボンの皮を加工した調度品のランプ、竜族の鱗。多くの生き物達の品々が並ぶ中、特に数が多いのが虫の標本だ。壁一面に蝶の標本が並び、収納用の棚家具が用意されている。

「ここに座ってね」
「うん。ありがとう」

 ここはシャングアの趣味の部屋だ。一脚だけ置かれた一人用のソファへとエンティーが座らされる。

「凄いね! 集めるのが大変だったでしょう?」

 エンティーは目を輝かせながら、四方八方に置かれた生物たちの痕跡を眺める。

「大変だったよ。自分で集めた品もあるけれど、殆ど御婆様が……」

 言いかけたシャングアだが、言葉が詰まる。

 何故最初に祖母が出て来たのか、彼はよく分からなかったからだ。
 天井から吊るされたイルカの骨は父から11歳の誕生日祝い、狼の剥製は10歳の時に叔母から貰った。蝶の標本の一部は12歳の時に叔父から貰った。ハリセンボンのランプは8歳時に、父が外殻を訪問した際に買って来てくれた。


 御婆様からは、何を貰ったのだろうか?


「シャングア。どうしたの?」

 言葉に詰まったシャングアを心配し、エンティーは呼びかける。

「あっ、いや、大丈夫。御婆様だけじゃなくて色んな人から、どれが誰からだったのか思い出そうとしていたんだ」
「そっか。これだけ多いと、分からなくなりそうだもんね」

 我に返ったシャングアの話をエンティーは信じる。

「虫は特に色んな人に協力してもらったんだ。時にこのコガネムシ科のカブト虫は一種類もこの島には生息していないんだ」

 シャングアは棚の中からガラス蓋の標本箱を取り出し、エンティーに見せる。
 箱の中には、黒や茶色、黄土色の光沢のある兜の様な虫たちが並んでいる。大小さまざまあり、最も大きいものでは18センチの巨体を誇る。

「大きい! こんなに大きい虫が生きて動いているなんて、想像つかないよ」

 神殿で見られる虫は蝶が最大級だ。エンティーは部屋の外から見える中庭で、蝶の飛ぶ姿を見た事がある。薄い羽根をひらひらと優雅に動かす姿はとても素敵だった。標本箱に入る重厚感のある昆虫とは全くの別物だ。シャングアから貰った図鑑にも載っており、羽などの構造を知っているエンティーだが、カブトムシはまるで空想上の生き物のように思えた。
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