白銀の城の俺と僕

片海 鏡

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三章

28話

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「Ωは奇蹟が使えない筈ではありませんか?」

 トゥルーザは冷静に問いかける。

「ごく稀に使える人はいる。過去の記録にも、ちゃんと残っているよ。第二の性は後で決まるから、奇蹟が操れる素質自体は皆持っているんだ。Ωの場合、額の骨に宝玉の名残がある。一説には、その人の生成できる神力の量で第二の性が決まるとか……まぁ、今はその話を置いとくとして、エンティーさんはその稀な事をしたわけ」

 説明を聞きつつエンティーは、自分の額に触れてみるが特に名残らしきものは指では感じられない。骨になって初めてわかるもののようだ。

「Ωの奇蹟は肉体強化か再生能力の二つのみ。傷が一瞬で治ったり、箪笥を片手で持てる位強くなる。でも、神力を制御する宝玉が無い分、直接身体に影響が出るんだ。肉体の一部に神力が集中するから、それに耐えられなくなって時機に骨が折れたり、肌が爛れたように変色する。エンティーさんは運よく骨が折れる前に、筋肉が悲鳴を上げたみたいだ」

 フェルエンデの手が淡く光りを帯びると、エンティーの太ももから脹脛まで触れて確認をする。

「奇蹟発動の要因として一番有力な説は、生存本能だ。ここで諦めたら死ぬって冗談抜きで危険な状況の時で発動したと考えられてる。記録に残っているのも、紛争や震災があった時のΩばかりだからね」

 飛竜は飛行に特化していようとも、その脚力と速度は人間の遥か上だ。急な曲線や機敏な動きに対応できない欠点はあるが、遮蔽物が無い直線の廊下や曲がる際の緩和材となる柱や壁の多い神殿では、猛威を振るった。本来のエンティーの走行速度では飛竜に追いつかれていたが、奇蹟によって難を逃れたのだ。

「治りますか……?」

 エンティーは少し不安そうに問いかける。

「腱は切れていないし神経に損傷はないから、安静にしていれば足は動くようになるよ。体内の神力を落ち着かせる為にも、まずは一週間療養をして様子見よう。来週になったらテンテネに診てもらって、容態次第では俺が治療の手助けをするから」
「はい。わかりました」

 その答えにエンティーは安心し、フェルエンデは彼の足から手を離す。

「それで、シャングアの症状だけど」

 フェルエンデは窓際の机まで歩き、引き出しからガーゼとサージカルテープを取り出す。

「爪が折れた状態に近い。頭蓋骨が割れたり、殆ど無くなるくらい壊れて流血した訳ではないから、時間が経てば治る」

 そう言って、フェルエンデはシャングアの割れた宝玉をガーゼで覆い、サージカルテープで固定させる。

「それだけ?」

 さらっと言われシャングアは内心拍子抜けをするが、裏を返せばそれ程の頻度で宝玉の割れが発生すると示唆される。

「そう。ただ、奇蹟は弱体化するから使わないほうが良い」
「普段の生活に問題が無いのなら、僕は飛竜達の調査をしたい。その辺りは、大丈夫なの?」
「激しい運動と過度な労働でないなら大丈夫と言いたいが、エンティーさんの誓約も弱体化している。可能な限り傍にいて欲しいと俺は思う」

 誓約は永続的なものではないが、αの傍に居れば更新され持続される。奇蹟の力が弱まったとなれば、誓約の効力もそれに比例する。守りが薄くなっては、Ωは格好の獲物となってしまう。

「センテルシュアーデ様より、竜騎士と聖騎士の合同調査の指示が出ております。また、今回の騒動で各地に落下した飛竜は暴走状態ながらΩを狙っていたと報告が入っています。シャングア様には、誓約のΩの安全を最優先で行動し、今回の騒動では司令塔として動く様に……今、その様に通信が届きました」

 トゥルーザは、小さい方の金の耳飾りを触りつつ言う。皇太子の奇蹟を使った通信のようだ。

「司令塔って……」
「下手に歩き回るなって事だな。そもそも弱体化したの、バレたら命が危ないだろ」

 返す言葉が無いが、責任者でもあるシャングアは悩まし気に眉間に皺を寄せる。

「それにおまえ、エンティーさんと不仲が噂されてるし、一週間一緒に過ごす時間を増やしてみたらどうだ?」

「え? そんな噂、あるの?」

 シャングアは初耳だと驚き、思わずエンティーを見ると、彼は申し訳なさそうに小さく頷いた。エンティー自身も交代式で初めて聞いたが、口々に言われ噂として広まっているのは事実だ。

「俺としては、付きっきりがお勧めだけれど……あ、ちょっとシャングア。こっち来い」

「うん?」

 何かを思い出したように言うフェルエンデは扉の方へ行き、分からないがシャングアも其れについて行く。

「ちょーと、シャングアと話が在るから退室するね。トゥルーザさんとエンティーで何か話して待っていてよ」
「はい。わかりました」

 トゥルーザはそう答え、フェルエンデとシャングアは一旦退室をする。
 残された二人のΩ。騎士見習いくらいしか十代と接する機会のないトゥルーザは会話内容に困るが、エンティーに伝えるべき話題を話す事に決めた。
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