白銀の城の俺と僕

片海 鏡

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二章

24話(修正)

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 シャングアが遠のいて行く。仕方のない事であり、少しの間だけのはずが、胸の奥から寂しさが静かに浮かんでくる。
 会場の端にひっそりと立つエンティーは、シャングアが帰って来るのを待っている。従属から飲み物や軽食を勧められるが全て断った。平民の誓約者は貴族にとっては邪魔者だ。何か薬物を盛られている可能性があり、安全が確保されるまで何も口にはしない。内殻での習慣の一つがここで役に立つとは思わず、エンティーは内心苦笑する。

「あれが、第3皇子の誓約者……」

 シャングアがいなくなり、貴族達がエンティーの話を始める。ワザと聞こえる様に言っているとエンティーはすぐに分かった。

「若いようですが、随分と細く小さい。あれで、子供が産めるのでしょうか?」
「2年前に平民の誓約者は流産したと聞いています。薬物中毒者が多い平民では、まともな子供が産めないかもしれませんね」
「あぁ、あの耳の聞こえない……」

 リルを持ち出し、貴族達は嘲笑い揺さぶりをかける様に会話をするがエンティーは全く表情を崩さない。
 エンティーはこの手の話は慣れていた。
 リルを侮辱され、おまえも同類だ、と内殻で仕事を行っていた当時は年上のβ達から嫌と言う程聞かされていたのだ。
 陰で言われ、目の前で言われ、そしてエンティーが怒れば歯向かったと暴力を振るわれる。繰り返されて行くうちにエンティーは諦め、聞き流し、反応をしない事を覚えた。そうする事で、周囲は次第に飽き、離れていくからだ。

「そういえばシャングア様とあの誓約者は、夜を共に過ごしたのは最初の一日のみだと聞きました」

 シャングアの名前が出た。これはエンティーも想定内である。
 リュクとヴァンジュからも、絶対に言われるから気を付けろと注意を受ける程だ。

「交代式間近で多忙だったと聞いています。その余力が無かったのでは?」
「あら、お2人ともまだ御若いのだから、有り余っている筈よ」
「シャングア様は体力自慢でいらっしゃいますもの。あの平民に、受け止められる力が無いのでしょう」

 昼間から何を言っているんだ、とエンティーは思い始めた。
 しかし、誓約後は最低一週間共に夜を過ごす決まりを破ったのは事実。仲が良くないと周囲に思われてはシャングアの評判が悪くなる可能性がある。
 しばらく添い寝を頼んでみる事も考えたエンティーだが、自分の発情期が全く来ていないので踏み出せない。念の為、今日は抑制剤を飲む程に遅れているからだ。

「もう1つ聞いた話ですが」

 貴族の1人が話を始めようとした時、上空から何かが落下して来る。
 大きく重いものが落下する音。テーブルが倒れ、陶器やガラスが割れる。
 人々が悲鳴を上げる中、落ちてきたのは飛竜であった。

「竜騎士達は何をやっているんだ!」

 幸いな事に、飛竜に押し潰される人間はいなかった。竜騎士の不注意だと思い、貴族の一人が大声で言う。しかし、それと同時に飛竜に騎乗していた竜騎士が地面へと倒れ落ちる。竜騎士は全く動かず、意識を失っているようだ。
 その瞬間、飛竜が大きな雄叫びを上げた。
 今まで誰もが聞いた事が無い程に強く、激しく、喉が引き裂かれそうな程に異常に大きな叫び声だ。
 テーブルが長い尾によって薙ぎ払われ、前足で地面を何度も掻き、口を何度も開閉し音を立て威嚇行動をとる。瞳孔が開き切り、呼吸は荒く、興奮状態だ。
 異常事態であると皆が察し、飛竜を刺激しないようにゆっくりと後退を始める。
 しかし、飛竜がもう一体地面へと墜落して来る。さらに墜落する事が予見される。

「皆さん、急いで地下へ避難してください!!」

 同胞の落下によって刺激を受けた飛竜の雄叫びが響き渡り、竜騎士の一人が大声で人々へ指示を出す。
 地上にいる竜騎士達は戦闘態勢に入り、貴族達は神殿内へと避難を開始する。
 エンティーも慌てて逃げよう走るが、次々と神殿の建物の扉が閉まっていく。いや、エンティーより後方にいる貴族達は建物へと入る事を許され、彼だけが締め出されてしまった。このままでは、地下へ避難する事も出来ない。

「開けてください!!」

 エンティーは扉を叩き、開けようと試みるがびくともしない。
 心殻の自室に行くには余りにも距離があり、エンティーは隠れる場所を探そうとする。
 だが、その時間を与える気が無いと言わんばかりに、また一匹が建物を破壊しながら、地面へと落ちてきた。
 渡り廊下の石造りの屋根が崩壊し、力無く竜騎士が地面へと倒れ込む。

「あっ……」

 飛竜の金色の目は、エンティーを捕える。
 
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