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一章
20話
しおりを挟むその日のつばきは数人の男児にいじめられていた。
理由は彼らが遊んでいる遊具につばきがぬいぐるみと一緒に先へ遊んでいた理不尽な理由。
それをみた男児達は怒りに触れ、いじめた。
一人はぬいぐるみを人質にとり、また別の人は質問攻めや嫌がらせをする。
近くには誰もいなく。お母さんは公園近くのスーパーへ買い物をしているので、母親もいない。
つばきは必死に耐えていた。
助けを求めても誰もこない悲しさはわかっている。
しかし叫んでも来なさそうだからつばきは黙り込む。
彼女は静かに泣いていた。
その時、公園入口から来た一人の男児が人質のぬいぐるみを取りつばきの方へ返した。
「なに女の子をいじめているんだよ。絵本やお母さんにいじめてはいけないと言われてないのか?」優しい男の子が感情を込めて言う。
数人の男児はムカついたのか、その子を殴ったり蹴ったりした。
彼女は悲しかった。
心の中で(知らない男の子が頼りないわたしを庇って、ごめんなさい、ごめんなさい。)と思っていた。
その時、つばきのお母さんがスーパーから帰ってきて、男児たちを叱った。
男児たちは水の中に指を突っ込んだら逃げる魚のように一目散に逃げる。
「大丈夫? 僕。怪我とかしてない? ごめんなさいね。助けられなくて」
「大丈夫ですよ、おばさん。僕は男の子なので、強いですから」
「男の子でも、おばさんは心配ね……。僕、名前は?」
「僕? 僕の名前は……」男児が名前を言う前につばきは叫んだ。
「えっと! わたしを助けてくれてありがとう! よかったらお友達になりませんか!」
「このタイミングで言うかな?」彼女を助けてくれた男の子は呆れながら笑う。
「でも良いよ。名前はなんて言うの?」
「わたしの名前は西園寺つばきです! お友達がいないので君が最初のお友達だからとても嬉しいです」赤髪の女の子は感情を込めながら言う。
「ははは。そうか、僕の名前は、せいや。上の名前は……、言わなくても良いかな。どうせすぐ……、まぁ良いかよろしく!」
「せいやくん、よろしくね。さっきはありがとう。わたしウジウジして……」
「良いよ、そんなこと気にしないで。僕も助けるの好きだからさ、あっ! おばさんの質問返さないと!」
「大丈夫よ、名前はせいやくんね。名前カッコいいよ。そうだ今から、せいやくんの傷を治そうと思っているんだけど、つばきの家に行こうか」
「えー良いんですか? 実は歩けないほど痛くて困っていたんですよ。ありがとうございます。」
その性格、その顔つき、その姿はまるで。
――つばきは無意識に思い出していた。
(そうか……。小さい頃に1週間だけいた男の子は惺夜くんだったのね。結局遠くに引っ越しちゃったけど、あの時は泣いたな……)
(あの時は助けてくれてありがとうね。私も自分を強くなろうと思ってSATに入ったんだわ。)
激痛に襲われながらも、ふと考えるつばき。
(でも私はもうこれまで……司咲くん、千木楽さん、天羽さん、そして惺夜くん。私を見かけたら迷わず殺してね。私の死よりSATの生存の方が優先だから)
つばきの身体は座りながら意識を失った。
フィアナは距離をとって様子を見る。
「おかしい……。SFは秒で人を洗脳できるのに一分かかっている……。最初、教員を洗脳させてショッピングモールへ行かせるようにしたのだって長くて一五秒だったわ……。洗脳失敗したかしら?」
フィアナは予測しないことに驚いた。
しかし、次の瞬間つばきの身体は動く。
赤髪の少女はフィアナを獲物狙う鷹のように鋭く見る。
胸元が開いている女性は、生唾を飲み、戦闘態勢に入った。
(もったいない発想だけど、失敗でもここで殺せれば……)
緊迫の空気の中で沈黙を破ったのはつばきだった。
重たい口が開き、こう言う。
「私はSFの西園寺つばき。我が主人、射守矢様、龍康殿様。なんなりとご命令を御下しませ。W・Aを全力でお守りします。」
「洗脳は成功したのね、ふぅ……良かったわ。でも本当に洗脳したか、わからないわね……。そうだ! 私の頬に血で塗られたキスをしなさい」
つばきは持っていたアーミーナイフで人差し指に傷をつけ血が溢れる。
それを唇に塗り、フィアナのとこまで歩き、頬にキスをする。
このキスはW・Aの意味だと忠誠を誓うキスでもあった。
フィアナは喜んだ。これは完璧に洗脳していると確信したからだ。
「よかったわ。私のお気に入りの子が自身や洗脳に負けて、敵だった私にキスをする。相手にとって無礼な行為をしてくれるなんて。素晴らしいわ」
フィアナはお礼につばきの頬にキスをする。
「よろしくね、かわい子ちゃん。ちゃんと働いてもらうわよ」
これがSATにとって絶望の瞬間だとフィアナ以外誰も気づいてなかった。
時刻は一三時一〇分を過ぎようとしていた。
惺夜と司咲は保健室で怪我を治していた。
SAT学園の保健室は他校と違って戦傷用の軍事医療薬品がズラッと置いてある。
他では手に入らない薬ばかりで、あんまり知らなかった二人は最初に驚いた。
中等症以下ならばものの数十秒で治る特殊薬品ばかりである。
「もう治ったかな? そろそろ行かないと」
惺夜は深刻そうな表情で、司咲に呼びかける。
「いやもう少しまったほうがいいじゃないか? と言いたいけど、早く行かないとつばきがどんな目にあっているかわからないからな」
「あぁ、司咲ここで待機している暇はないすぐに急ごう」
惺夜が立つと「ウッ」と声が出て倒れる。
「俺は完治したけど、惺夜はまだ完治してないな……。これじゃつばきのところまで行けないね……。どうするこのまま俺、お前の回復を待つけど」
惺夜は少し立ち上がりソファーに座る。
「いや大丈夫お前は先に行け、テロリストが来てもなんとか倒せそうだからな。あとすまない、つばきに対して言いたいことがあるんだ」
「なんだ? 言ってみて」
惺夜は一息入れてからこう言う。
「つばきごめんなって、あいつに会えたらそう言って欲しい」
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