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魔族の村

転生少女救出作戦⑧

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 魔族の村……

 廃村した村周辺……過疎化して崩壊した民家が立ち並ぶ村周辺には人間の姿は無く、異様な雰囲気に包まれた不気味な光景が広がり、この世のものとは思えない異臭が漂っていた。

 ピューッとそよ風が吹き、村の民家の畑に串刺しになった槍にぶら下がっている人骨から、砂埃がサラサラと落ちる。既に村から人間が存在しなくなって長い月日が訪れた事を示していた。

 村の入口とも思える様なアーチ状の出入口、かつて人間達が開拓して長閑な田園風景とも思えた場所には、魔族が訪れ殺意の限りを尽くし、その入口付近のアーチ状の柵に、人間の亡骸を数体吊る下げられている。

 赤茶けた様な大地には無数の魔物達がグヘグヘ、ギャアギャアギャア、キャシャー……等、奇声とも言える声を発しながら崩壊した村の中を蠢き、恐怖と不気味さを漂わせていた。

 この世のものとは思えない光景の中、魔族が徘徊する村から少し離れた位置の茂みに隠れて……村の様子を観察している数名の人影の姿があった。

 「どうだ……?」

 1人の銀色の兜を被った男性が遠眼鏡で村の様子を観察している者に声を掛ける。数名のチームの中心的な彼は周囲を警戒しながら言う。

 「悍ましいものだ。化け物達がウヨウヨしてる……」

 彼等に対して、若い男性が不安そうな表情で見ていた。

 「そろそろ……退散しないか、魔族の村はギルド連盟の指示で狩場禁止になったじゃないか……」

 「なあに弱気になってんだ。俺達が魔族の奴等のツノや爪、翼を持って帰ればギルド連盟の連中の考えも変えるだろう!それに……これだけ魔族が居るって事は、相当倒し甲斐があるってことさ」

 「……しかし、本当に大丈夫なのか?」

 若い男は眉を寄せ、険しい顔をして問うた。

 「心配するな。俺達はこれまで何度も魔物狩りをやってきたじゃないか。奴らはただの獣だ。俺達が装備している武器と防具で、充分に対処できる。」

 兜の者が自信満々に応じる。

 彼の背には、魔族を討つために鍛えられた長い剣が光を反射していた。しかし、若者はまだ納得できない様子で、口元を噛みしめた。

 「でも、魔族は……ただの化け物とは違うって、冒険者ギルドでも聞いた。奴らは知恵があって、人語を話す他の魔物とは違って人間を狙うことを楽しんでるって――」

 「だからこそ、俺達がそれを倒せば、知名度や名声が上がるってもんさ!最近もギルド集会所の者で赤金貰った少女が居るらしいが……彼女だって禁断だった魔の森に入って無事生還した事で、赤金の称号を得たんだろう?今の俺達と何が違うって言うんだ……?」

 兜を被った男性は余裕な表情をしながら若い男性に言う。

 彼の隣に居た中年の男性も若者に向かって話し掛けた。

 「それに……見ろ、あの村の光景を。あんな様子を黙って見ていられるか?人間が奴らにどれだけ無惨に殺されたか……もう忘れたのか?」

 彼の言葉に皆が沈黙した。村を見下ろす崩れた丘からは、遠くの槍に吊るされた人骨が、風に揺れて不気味に軋んでいる。その光景が、彼らの胸に重くのしかかる。

 「そうだな。あんなものを残しておけない……」

 別の男が口を開いた。彼は屈強な体つきで、鋭い目をしていた。戦闘に慣れたベテランで、彼の言葉に他の者たちも賛同の声を上げ始めた。

 「よし、決まりだ。奴らの首を持ち帰ってやろう。」

 兜を被った物が頷き、皆に向かって全員に指示を出した。

 「準備を整えろ。俺達は正面からは行かない。あの崩れた家屋の裏手から回り込んで奇襲をかける」

 「もし見つかればどうする?」若者が再び不安を口にした。

 「見つかる前に仕留める。それだけの事さ!」

 彼らは静かに身支度を整え、武器を手に取った。村の廃墟に向かって、一歩一歩進み始める。遠くからはまだ魔族たちの奇声が響いている。ギルドの禁令を無視し、命を懸けて踏み込む彼らの背後に、茂みの影から何かがこちらを伺っていた。

 村の中心に近づくにつれ、空気がより一層重く淀んでいくのを感じた。周囲には倒壊した家々や破壊された農具、そして血痕がこびりついた壁が目についた。

 「本当に、ここで何があったんだ……?」若者がつぶやいた。

 「余計な事を考えるな。ただ、狩るだけだ」

 しかしその時、突然背後から鋭い叫び声が響いた。

 「ギャアアアッ!」

 兜の者が振り返ると、若者が突然後ろの暗がりから現れた巨大な魔族に腕を掴まれていた。黒い皮膚に爛れたような赤い斑点が浮かび、獰猛な牙が露わになっている。若者の叫び声が響き渡るが、瞬く間に彼の体は宙に持ち上げられ、魔族の巨大な爪に引き裂かれた。

 「しまった!奇襲だ、応戦しろ!」

 彼の怒号と共に、魔族が次々と暗がりから現れ、彼らを取り囲むように迫ってきた。

 怒号が響く中、戦士たちは慌てて武器を構えたが、暗がりから次々に現れる魔族の数は予想を遥かに上回っていた。異様な異臭と共に押し寄せる影――その正体は、体を覆う黒い鱗と赤い斑点の魔族たち。彼らは、尋常な魔物とは異なる知恵と凶暴さを持ち合わせていた。

 「ニンゲンダー!キシャァー!」

 鋭い刃を手にして、兜や甲冑を身に着けた魔物の群れが一斉に飛び掛かる。

 更に魔族の1匹が角笛をプオオォーと吹き鳴らす。その音を合図に、何処からかドンドンと、木を打ち付け鳴らす音が響いてくる。

 「構えろ!」

 兜の者が叫ぶが、数名の戦士は既に恐怖に圧倒され、身動きが取れなくなっていた。魔族たちはその隙を見逃さなかった。巨大な爪や牙が次々と戦士たちを襲い、肉が引き裂かれ地面に血が飛び散る。

 「くそっ!」

 兜の男性は大剣を振り上げ、一体の魔族に斬りかかる。鋭い一撃が魔族の体を貫き、黒い血が飛び散る。

 優勢かと思われたのも束の間……数名程のチームに対して、魔族の数は際限が無いほどの数だった。数十匹かと思われた数も、まるで永遠に湧き出るかの様な敵の群れに、彼等は次第に疲弊が募って来た。

 「退却だ……退却しろ!」

 兜の者は叫びながら、仲間に向かって身を翻すが、すでに数名の戦士は地面に倒れ、動かなくなっていた。生き残っている者たちも、魔族たちに囲まれ、退路は完全に断たれていた。

 「オイ、どうする!?」

 中年男性が必死に問いかけるが、彼も策がない。小さなギルドチームは、完全に魔族に追い詰められていた。空気は重く淀み、周囲を取り巻く魔族たちは不気味な笑みを浮かべながらじりじりと迫り一斉に襲い掛かる。

 「うわああー!」

 数名のギルドメンバー達の悲痛の叫び声が、遠くでこだました。



 その……彼等の声も空しく響く中……村の最奥部に位置し、かつては辺境の護りに使われていた砦の最上部に位置した場所に設けられた小さな密室……

 その密室に監禁された少女と、それに不釣り合いな容姿をした者が対面していた。その異様なまでの光景は、囚人と要人とは言い難いほどの眺めであった。

 漆黒のマントに身を包み、フードを被っている為、素顔が把握出来ないが、高齢とも思えるが、その立ち振る舞いから30代前後とも見て取れる。彼の腰にはマントと同じ漆黒に染まった短剣が携えられているのが確認出来た。

 砦の最上部にあるその密室は、寒気を帯びた静寂に包まれていた。蝋燭のかすかな光が揺れ、わずかな影が壁に映る。

 その対面に立つのは、漆黒のマントをまとった男。彼の姿は威圧的でありながらも、どこか洗練された冷酷さを感じさせた。彼の動きは無駄がなく、一歩一歩が計算されたもののようだった。フードの下からわずかに覗く唇が、微かに笑みを浮かべる。

 「おやおや……どうやら、また鼠が村に迷い込んだか……全く学習能力が無い者達ばかりだな……エルテンシア国のギルド集会所に、禁止区域を施したのに、度胸試しで訪れる者が後を絶たないのは愚かしい限りよ」

 男性は笑みを浮かべた様な表情で、砦の窓から見える遠くの景色を眺めながら静かに語る。

 「貴方は一体何者なの……?」

 リーミアの事言葉に男性は、彼女の方へ振り向く。その時、彼女はフード下に覆われた男性の顔を見て驚いた。

 右目は黒い目だったが……彼の左目は赤く光っているのが確認出来た。明らかに普通の人間では無い事をリーミアは悟った。

 フードを被った者は、ククク……と笑いを堪えながら、鉄格子の向かい側に立つ少女を見て静かに口を開く。

 「我が名はヴォグル!貴様と再び会えるのを待ち続けて居たのだよ」

 「私を……待ち続けていた?」

 不思議な表情をしながらリーミアは目の前に立つ人物を見る……その人物からは言い知れない奇妙な感覚を感じた。

 「そうとも、貴様とこうして話せる日を待ち続けて居たのだ……!」

 「それは……一体?」

 「口で説明するよりも、見た方が早いだろう!」

 ヴォグルは鉄格子の隙間から人差し指をリーミアの額に当てた。その直後、彼女の脳裏に何かが弾ける様な感覚が走り、それと同時に視界が切り替わり、ヴォグルとリーミアは、見知らぬ空間の中に立っていた。

 リーミアは自分の隣に立つ、フードに身を隠した人物を見ていた。

 「あれを見ろ!」

 彼が指した方を見ると、目の前には巨大な黒色に染まった、不思議な造形の形をした物があった。その造形の大きさはリーミアの背丈とは比較にならない程の大きさだった。まるで城1つ分……もしくは、それ以上とも思えた。

 「これは……一体?」

 「少し離れた方が分かるかな?」

 ヴォグルは、そう言うと……2人の位置を少し移動させる。

 位置が遠ざかる事によって、その全体像が解って来た。それと同時にリーミアの表情は険しくなる。

 「こ……これは!?」

 彼等の目の前に見えたのは巨大な人型を模した造形だった。
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