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魔族の村

転生少女救出作戦⑤

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 純白城の王宮内、大広間に響く緊張感は、まるで嵐の前の静けさだった。アスレイウ代理王は、書物に集中しつつも、周囲の異変に気付かざるを得なかった。側近のミオラが慌てて報告する姿を見て、アスレイウの眉がピクリと動いた。 

 「代理王殿、ご報告したい事があって参りました。どうか……少しお時間を頂きたい」 

 「僕は今日は忙しいんだ。緊急の要件なら執務官を通して報告して貰えないかな?」 

 「あら、代理王は意外にも無責任な方ね。例え忙しくて面識の無い人が訪れても、それなりに対応して頂くのが他者に対しての礼節だけど……そんな簡単な雑談にさえ応じられないのなら、いっそ代理王の椅子には人形とか置く方が便利よ」

  その時、彼は状況見ながら直ぐに直感で判断するなり、彼は羊皮紙を玉座の隣にある台に乗せて、彼は肩肘を膝掛に乗せて掌で顔を付かせて足を組んだ。 ルミティと共に行動をした高官達が全員、彼に対して頭を下げるが……ルミティ1人だけアスレイウに向かって立っていた。

  「分かった、それなら……君の雑談に少しだけ付き合おう。で……君は何しに来たのだ?随分とお年を召されている様であるが……名は何と申すのだ?」

  アスレイウの言葉にルミティはムッとした表情を浮かべた。

  「フン!仮の王のクセに、随分と偉そうね」 

 「一応……それなりに実績があっての地位だ。自分も人に対して、それなりの振舞いをしてるまでの事……。作法をわきまえない者に対しては、それ相応の態度で対応で接する事を用いているまでの事……」 

 「偉そうに、貴方はアタシが誰だか知っての口振りなの?」 

 「さあ……君とは初対面だ、見た目も随分と変わっているな?まるで10代の様にも感じるし……年配とも見て取れる。君は何者なんだ?」 

 ミオラが指差す先、大広間の入口には白髪の少女が数名の高官と共に現れた。少女の存在感は一目で異質と分かる。彼女の白髪はまるで死の象徴かのように鮮やかで、周囲の高官たちの間にあっても目立つ。アスレイウはその少女、ルミティのことを知らなかったが、彼女を囲む高官たちは顔見知りである。 

 「君は彼女を知っているか?」

 アスレイウは側近に問いただしたが、ミオラも明確な答えを持っていなかった。

  「申し訳ありません、代理王様。私も存じ上げません……それ以上に異様な雰囲気ですね……。何故、王宮の高官たちと一緒に居るのかも謎です。私が思うに……ただ者ではないでしょう。」 

 ミオラの言葉を聞いて、彼は目の前に居る高官達を見た。レオン、マセディ、カッティア……揃っている高官達は、皆全員王宮内では優秀な人材達ばかりだった。

  「貴方がアタシが何者かを知る必要は無いわ。アタシが王位継承者なのだからね……」

  ルミティは額飾りを取り、その額に刻まれた光の紋様を見せた。 ルミティの大胆な行動、普通の一般人なら、額の紋様をかざしただけで平伏す事は間違い無かった。事実、彼の側近であるミオラは息を吸い込み後退りしてしまった。そんな彼女とは対照的にアスレイウはたじろいだりせず、無言の眼差しで相手を見ていた。 

 「君は、エルテンシア国の法律を学ぶ必要がありそうだな……我が国に置いて、正統な儀式以外で、光の紋様を額に刻み込む行為は極刑に値するのだと……と言う事を知っての行為なのか?」

  「良く見なさい、勝手に刻んだのでは無く、正統な儀式を行った証として刻印されているでしょう?」 

 「正統な儀式とはエルテンシア神殿で行うものだ!少なくとも僕の知る限りでは大神官以外で、光の洗礼を受けて光の紋様を額に刻み込んだ者はこの100年の間に1人しかいない。まさか……君が、神殿で光の洗礼を受けて紋様を授かったと言うのか?もし仮に神殿が我々の知っている者以外に他に正統な紋様を授かった者が現れた場合、直ぐに王宮に、その報告が参るのだがね……。僕の知る限りでは、その者以外での報告は今の処聞いては居ないが……。何処で紋様を刻み込んだのか、聞かせてくれないか?」

  アスレイウの言葉にルミティは言い返す言葉が見つからなかった。

  「理解したのなら立ち去るが良い、今直ぐ立ち去るなら、君達には処罰は問わない。後は君の判断に任せよう」 

 そう言うと、アスレイウは代理王の玉座から立ち去ろうとする。 

 「待ちなさいよ!まだ話しは終わっていないわ!アタシが王位継承者なのよ、アタシが王位に即位するから、その権限を譲ると示しなさい!」

  ルミティの言葉にアスレイウはハア……と、深い溜息を吐く。

  「君は、何も分かって居ないようだね……仮に、君が正統な王位に即位する……と、決まった場合、その為の準備をしなければならない。その準備も色々あり、勿論近隣諸国にも、その吉報を伝える必要がある。それに王宮内も色々と執り行う必要があるから、いきなり今日明日に王位に即位と言うのは不可能だ。最低でも半年位の様子見は必要だろう……」 

 アスレイウの言葉にルミティは苛立ちが隠せなかった。 

 「次から次へと理屈ばかり言って……何様のつもり貴方は?アタシが王位に即位すると言うんだから、素直に認めなさいよ!」 

 苛ついたルミティは、腰の短剣に右手を乗せ、短剣の柄を握りしめる。この時ルミティは右手がチクッと針を指す様な感覚を感じた。それに気を留めず彼女は短剣の鞘から、剣を抜き出した。 その光景を見るや、アスレイウは……それが聖魔剣だと悟った。 

 「どう……これが正統な……王位継承者だと……少しは解ったでしょう……」 

 聖魔剣を鞘から抜き取っただけなのに、ルミティは既に額から汗を流しながら、息を切らしていた。

  「だ……大丈夫か、彼女は……既に息が上がっているぞ……」 

 「昨日暴れた影響か……?」 

 彼女に賛同した高官達は口々に声を掛け合う。 しかし……そんなルミティを見ても、アスレイウは平然とした振る舞いを変えなかった。 アスレイウはルミティの言動に戸惑いながらも、冷静な態度を崩さず、彼女を見据えた。周囲に集まった高官たちの反応もまちまちで、敬意を示す者もいれば、困惑を隠せない者もいる。ルミティの白髪は確かに年齢不詳に感じさせるが、その目には異様な鋭さがあった。

 「それで……君は、王位に即位したいのと申すのか?」

 「ええ、生意気な口を叩く貴方を血祭りにあげてからね!」

 そう言って、彼女はアスレイウの方へと駆け込んで行く。

 「あ……アヤツ!」

 高官達が彼女を止める術無く、ルミティは素早くアスレイウの懐に剣を振りかざそうとした!

 だが……!

 キンッ!

 金属音が響き、ルミティの刃は、アスレイウの鞘に収まった魔法剣に交わされてしまう。

 「な……!?」

 彼女の渾身の一撃は、呆気なく交わされてしまい、ルミティは後退りした。

 その彼女を見て、アスレイウは鞘に収まった魔法剣を大きく振りかざす。

 ブワァー!

 強烈な疾風が魔法剣から放たれると、彼女は宙高く弾き飛ばされる。その時、ルミティは聖魔剣を手放して広間の床に撃ち付けられる。

 「クウウ……」

 ルミティは悔し涙を流す。

 見ていた高官達も驚きの表情が隠せなかった。彼等も聖魔剣に付いての噂を少なからず聞き知っていた……本来であれば、普通の剣さえも両断してしまう程の威力があるはずだった。つまり……当初彼等はルミティが、アスレイウの懐に飛び込んだ状態で彼の命は無かったであろうと予想していた。しかし……彼等の予想は大きく裏切られた。

 一夜にして、50歳ほど年を取ってしまった様な姿の少女は……既に魔力さえも尽き掛けて居る状態だった。その状態で剣を鞘から抜くだけでも、彼女にとっては相当な疲労が蓄積された様だと認識できた。

 剣を交える事も無く、あっさりと勝敗が済んでしまった少女の方へとアスレイウは、近寄り相手を見下ろした。

 「ウウウ……アタシが、アタシが……王女なのに……」

 呻き声交じりに泣きわめく相手を見て、アスレイウは哀れに感じた。まるで幼い子供が、そのまま成長して駄々を捏ねる様にも見て取れた。彼は魔法剣を鞘から抜き取り、相手に向けて構える。

 「神聖なる王宮内での抜刀及び、決闘は如何なる理由であろうとも許されない。自身の愚かさを悔いるが良い!」

 そう言い、アスレイウが剣を振り下ろそうとした瞬間だった。

 ガキッと何かが剣に当たって、剣が振り下ろせなくなった。剣先の前には杖が彼の剣に現れて、剣の刃を遮っていた。木の杖だが、魔法効果で金属並みに強化されていた。

 「!?」

 アスレイウは杖で彼の行動を邪魔する人物の姿の方へと視線を向けるなり彼は唖然とした。……そこには1人の男性の姿があった。

 「ジャ……ジャルサ候!」
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