転生少女と聖魔剣の物語

魔族の村

２人の少女

　その日の夜、外は雨が降り続いていた。夜間……誰も居なくなった病院の中でルーミはリーミアを見ていた。彼女は焦燥感に駆られていた。彼女の呼吸は微弱だが安定しており、命に別状はなさそうだった。しかし、意識を取り戻す気配が全くないのが不安だった。

　「どうして…？」ルーミはリーミアの顔を見つめ、何度も自問した。

　その時、病室のドアが静かに開き、レウラスが病室に入って来る。

　「交代しよう、少し疲れただろう？」

　「はい……」

　彼女は、そう言ってレウラスと交代して、病室を離れた。
　１人院内の暗い廊下を灯を手にして歩いて居いた。すると……後方から気配を感じて足を止めた。

　「随分とお姫様と仲良くなられたわね、ラーネ……」

　「こんなやり方は、私は好みません……卑怯です！」

　「何を正義感ぶっているのよ、貴女がアタシに協力してる時点で、言い訳なんか出来ないわよ。それ以上に、アタシは貴女にリーミアの監視だけをするように言って居た筈なのに、監視どころか、随分と親しくなったわね。あまり余計な事しても貰うと困るのよね……アタシとしては……。彼女は、いずれアタシが始末するのだから……」

　「そ……それを、もう少しだけ待って下さい、面倒は掛けませんので……」

　「うるさいわよ、既に決まっている事だからね。まあ……最も、今貴女が戻った所で、貴女の席は無いわよ。王宮は、ジャルサ候に対しての不満を募らせた連中が新たなグループを王宮内で発足したから、彼等は皆アタシの行動を期待しているからね……もう貴女の役目は終わったも当然よ。フフフ……」
ルーミが「ちょ……ちょっと！」と、何か言おうとして、振り返った直後には、既に人の気配は消えて、誰も居ない空間だけしか無かった。

　「ルミティ……貴女は……！」

　そう呟くと同時に、彼女はハッとある事に気付かされ、「しまった！」と、大声を出して廊下を走り出す。

　病室の扉が勢い良くバンッと音を立てて開く。
　それに気付いたレウラスは、剣を片手に構える。

　「何者！」
　病室に現れたのはフード付きのマントに身を覆った小柄な少女だった。彼女はレウラスが剣を振りかざして攻撃を仕掛けるも、それを簡単に身を翻す。

　「く……コイツ、出来る！」

　そう思った瞬間、相手の者は人差し指で、相手の額に指を押し当てる。
　相手の人差し指から、光が発せられると、レウラスは「あ、ああ……」と、声を発しながら意識を失う。

　「フフ……殺しはしないわ、しばらく大人しくしてもらうだけよ」

　そう呟きながら、彼女は目の前で眠って居るリーミアを見た、彼女は、そっとリーミアの首に手を差し伸べる。

　リーミアの病室の扉が静かに開いた。黒いローブを纏い、鋭い目を光らせたルミティが病室に足を踏み入れる。彼女の目には冷酷な決意が宿っていた。ルミティはベッドに横たわるリーミアに近づき、ゆっくりと彼女の首に手を伸ばす。

　「これで終わりよ、リーミア……あなたが邪魔をしなければ、全てが上手くいくのに。」

　その瞬間、病室の奥から突然強い風が巻き起こり、ルミティの手を阻んだ。振り返ると、そこには少女の姿をしたルーミが立っていた。だが、その目には今までの温和な表情ではなく、決然とした強い意志が宿っていた。

　「やめて、ルミティ！これ以上盟主に手を出させないわ！」ルーミの声は震えていたが、その決意は揺るぎなかった。

　「ラーネ……！貴女アタシを裏切ると言う事がどう言う事か分かってやっているの？」

　ルミティは静かに言いながら、彼女の表情には軽蔑と冷笑が浮かんでいた。

　「あなたの役割は、ただ私の命令に従い、リーミアを監視することだけだったのに……何時から主人に向かって意見するようになったのかしら？」

    「ええ……全て承知の上よ、最初はそのつもりだった……。でも、彼女は違った。私が裏切り者だと知っていても、それでも私に手を差し伸べてくれた。その時知ったのよ、この人は決して誰も裏切らないと……だから私は、この人を全力で護ると決めたのよ！」

　「愚かすぎる考えね……」ルミティは声を哀れんだ雰囲気で言う。

　「リーミアが生きている限り真の王位継承なんて、永遠に失われたままよ。彼女の存在自体完全に消さなければ、王家再興なんて不可能だと……何故解らないの？彼女は現世に蘇ってはならない存在だったのよ！」

　ルーミはその場で魔法を放つルミティに対して一歩も引かず、自分の両手を広げてリーミアを守るように立ちはだかった。

　「盟主を傷つけさせない……あなたがどれだけ力を持っていても、彼女は私は守る！」

　その瞬間、ルーミの体から眩い光が放たれた。彼女の姿は次第に変わり、大人の女性の姿に戻った。その表情は穏やかで、優しさと強さが溢れていた。

　「これは、私が本当に信じる力よ。リーミアの優しさと強さに触れ、私は変わった。もうあなたの駒にはならない」

　ルミティは歯を食いしばり、再び攻撃を仕掛けようとしたが、ルーミの放つ魔法に押し返され動きを封じられた。

　「終わりよ、ルミティ。あなたが何を企んでも、私は盟主を全力で護ってみるわ！」

　バアーン！

　彼女の渾身の一撃を喰らい、ルミティは床に叩き付けられる。

　「はあ……はあ……勝った！」

　完全に勝ったと思われたが、砂煙の中からフードを被った少女が起き上がり、マントに付いた埃を払い落していた。

　そんな彼女の意気込みに対してルミティは「フフ……ハハハ！」と、大声で笑う。

　「そんな感情まがいなものでは、アタシは倒せないわよ」

　ルミティは腰に携えて居た短剣を手にすると同時に、目の前から銀色の刃が煌めき、ハッとルーミは身を翻した、その刃は、剣から鞘を抜いて居ない状態で、槍の棒よりも長く、ドンっと大きな音共に壁を貫いた。

　ザラザラ……と、砂埃を撒き散らしながら、壁に大きな風穴が空いた。

　「うそ……」

　その音に気付いたのか……リーミアの身体がピクリと反応する。

　「フ……驚くのは早いわよ」

　ルミティは、聖魔剣を鞘から抜いて居ない状態で、剣を片手に振りかざした。

　ブオンッと……強烈な疾風を巻き起こす！

　スバアーン！

　強烈な風圧と共に、ルーミの居た壁が見えない刃で崩れ落ちる。

　「キャッ……！」

　ルーミは落ちてきた壁の板の瓦礫に巻き込まれてしまう。

　「フン、口ほどにも無い」

　そう呟きながらルミティが振り返ると、ベッドの上で眠っていたと思われたリーミアが起き上がって、聖魔剣を手にしていた。