上 下
150 / 184
更なる試練

凱旋

しおりを挟む
 魔の森近郊……

 その日まで魔の森と呼ばれ、近隣住民から恐れられていた森……。悍ましい姿をした魔物達のが横行していた森が完全に浄化され周辺一帯と変わらない森へと化した。その場所から、橋を隔てて、向かいの川岸にコテージを張っていたギルドメンバー達は、帰還する為の荷造りを行なっていた。

 少し前に……アスレイウ、サリサが利用していたコテージに速達伝聞が届き、コテージ付近に時空の門を開くとの伝聞文が届き、彼等は帰還する準備を皆に伝えた。

 男性陣達は意外にも早く荷造りが終えた。女性陣はリーミアとルフィラの荷物を纏める作業もあり、少し手間取っている様子だった。

 最初に荷造りが終えたティオロは、騎士団と話をしているロムテスの側へと近付くと、彼に話しかける。

 「時空の門で来れるなら、最初から……それで来れば良かったんじゃないかな?」

 「時空の門は、対象の相手が居る場合にしか使えないのですよ。君達が魔の森に行ったからこそ、追い付ける事が可能だったのです。それに大多数の人を動かす場合のみに、使うのが許されるのですし……設置する場所も、それなりに決めなければいけませんからね……」

 「そうだったんだ……」

 ティオロは納得した表情をする。

 彼等が話している傍で、フォルサが既に荷造りが終えているサリサの近くに行き、声を掛ける。

 「アンタ、何故……女神官長が少女を連れて行く時に何も言わなかったんだい?」

 「女神官長の発言には誰にも逆らえないからね……、例え彼女が間違った事を言ったとしても、我々はそれに従う義務があるのよ。それにね……」

 彼女はアスレイウの方をチラッと横目で見る。

 「彼の言う通り、あの人なりに何か考えがあっての行動だと、私も直ぐに勘付いたわ。で……無ければ、こんな部隊を引き連れて来る事なんて有り得ないでしょう?そもそも……私に魔の森への討伐参加を命じたのも彼女だからね。そんな人が、リーミアちゃんんを本気で捕えるなんて考えるかしら?」

 一連の成り行きを知ると、彼も少し「なるほど……」と、頷いた表情をする。

 アスファードが、自分が飼い慣らしている翼竜に餌を上げて、翼竜の顔を撫でていると、「よう、ご苦労さん」と、セフィーが側へと行き、酒の入った瓶を彼に差し出す。

 アスファードは、微笑んみながら受け取り、彼と一緒に軽く酒を飲む。

 「どうだった、森での戦いは?」

 「参加した傭兵達は皆鍛えられているね。自分も……まだまだ鍛える必要があると感じた。特にアーレスさんとリーミアちゃんは凄かったよ」

 「そうかい……じゃあ、いっそのこと、エルテンシアでギルドに参加してはどうかね?」

 彼の誘いにアスファードは首を横に振る。

 「いや、今は辞めておくよ……それに、僕も個人的に調べたい事があるから、しばらくは君達と会えなくなる」

 「そうだったのか、それは残念だ……」

 セフィーが話していると、彼等の側に1人の老人が近付き唖然とした表情で、対岸の森を眺める。

 「あわわ……死の森から、魔物達が消えとる……アンタら、あの森に何かしたのか?」

 「森を浄化させて、他の周辺の森と変わらない自然な森にしたんだ」

 「信じられん、数十年もの間、誰にも成せなかった事をするなんて、一体アンタ達は何者なんだ?」

 「ごく普通のギルドメンバー達だよ。まあ……森を浄化した方は、光の紋様を授かりし者の転生者だけどね」

 「光の紋様の転生者!まさか……リムア姫の生まれ代わりなのか?それなら納得出来る!」

 彼は嬉しそうに言う。

 「で……その転生した者は何処に居られるのだ?」

 「今は、神殿だよ」

 「ほへ?どうやって神殿まで戻ったんだ?皆が……こんなに居るのに、その者だけ先に戻ったと言うのか?」

 「まあ……色々と個人的に事情があるのだよ」

 セフィーとアスファードは苦笑しながら老人を見た。

 激戦を潜り抜けた彼等も、少し緊張が解れて、穏やかな表情になる。その中、アメリ、ルファ、シャリナの少女達は、荷台の場所に横たわるルフィラに話し掛けていた。

 「大丈夫?」

 「ええ……館の戦闘に加われ無かったのが残念だったけど……」

 「いいえ、ルフィラが行動してなかったら、私達も館には行けなかったわ」

 彼女の身体は出血が治ったものの、まだ完治には至っておらず、戻ったら病棟での手術が待っていた。

 彼等が何気ない会話をしてる時だった。コテージのある場所から、少し離れた位置に突然突風の様な風が巻き起こると同時に、目の前の空間が歪み、その歪みの中心に別の景色が現れる。

 その中から天馬に乗ったリーラの姿が現れる。

 「皆さん、お待たせ。さあ…この空間を通って下さい」

 するとロムテスが、光花達を見て言う。

 「先ずは君達が先に行きなさい。魔の森の功労者達の凱旋だ」

 それを聞いたエムラン、レトラ、アルム、ルファ、シャリナ、フォルサ、アメリ、ティオロ、そして……荷台に横たわった状態で騎士達に運ばれるルフィラが空間を通った。

 空間を抜けると、目の前には純白城の広場が広がっていた。

 広場には、多数の棋士達や神官剣士、そして王宮に務める仕官等が大勢出迎えて来れていた。

 「お帰り!」

 彼等にとって聞き覚えのある声が聞こえると振り向くと、アルファリオ達光花のメンバーや、マイリア、レネラの姿もあった。

 「お帰りなさい!」

 彼女達も嬉しそうに、出迎えてくれた。

 彼等の後、アスレイウ、サリサ、それにロムテス率いる騎士団と神官剣士が続き、アスファードが翼竜を連れてセフィーと一緒に現れる。

 そんな中、一同が騒然としたざわめきが走る。皆が振り返ると縄を掛けられた魔剣士とメオスの姿があった。

 「彼を捕らえたんだな……」

 アルファリオは少し複雑な気分でルディアンスを見ていた。

 アスレイウは、皆に気づかれない様に、広場を抜け出すと、急いで秘密の抜け道を使って、代理王の部屋へと忍び込む。

 「あ、お帰りなさい代理王!」

 彼は急いで着替える。

 変身していた女史が元の姿に戻ると彼は「待って!」と、声を掛ける。

 「すまないが……変身して、この衣服に着替えてくれ」

 アスレイウはボロボロのマントを彼女に羽織る、その時……彼は変身した自分の顔を見て、少し考え込むと、筆を取り出し彼女の顔に落書きをする。

 「ちょ……ちょっと、くすぐったいです!」

 「これで良し!済まないけど、広場に少しだけ居てくれ」

 「は……はい……」

 彼女はマントのフードで素顔を隠して、抜け道を使って広場へと向かう。

 アスレイウは、そのまま広場にある高台へと向かう。

 最後にリーラが通ると、全員が戻った事を確認して空間は閉ざせれてしまった。

 「魔の森に討伐参加した皆、ご苦労だった。今回魔の森が浄化されて、我が国の不安が一つ解消された。今回参加した者には、我が王宮から褒賞を贈ろう。皆ご苦労だった……エルテンシア国を代表として改めて礼を言わせてもらう」

 アスレイウが高台で話しているのを見たロムテスは、何気なく後ろを振り向くと、フード付きのマントを着た者の姿を見つける。

 (あれ?彼は……代理王では無かったの?)

 「ちょ……ちょっと、良いですか?」

 ロムテスは、彼が気になって、広場の隅に彼を連れて行く。

 「な……なんですか?」

 ロムテスは、彼のフードを無理矢理捲ると、その下から現れた顔は、ホクロと、ヒゲを生やした男の顔だった。

 「す……すみません、別人でした……」

 彼は男性に向かって謝る。

 「いえ……大丈夫です。では私は失礼します」

 そう言って彼は軽く会釈しながら何処かへと去っていく。

 (あれ?今の言い方、少し女性っぽかったな?館では……代理王みたいな感じだったのに……)

 広場に集まった大勢の人達が賑わう中、アスファードは、キイィーと耳鳴りの様な音が聞こえると同時に、脳内に声が響いてくる。

 『仲間が近くにいる』

 (え……聖魔剣の所有者が、ここに?)

 彼は、周囲を見回すが、誰が所有者なのか全く判断出来なかった。

 (聖魔剣の所有者なら、相当な鍛錬を積んだ者の筈、一体誰なんだ……何処だ?)

 どんな人物なのか、気になった彼は周辺を探しまわった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

処理中です...