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更なる試練

憂鬱の将軍

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 その日、ルセディは憂鬱だった。「はあ……」と、深くため息を吐く。

 そんな彼を見計らってか、1人の騎士彼の側へと近付くなり大きな声で話仕掛ける。

 「将軍様、只今速達の報告書が届きました。女神官長が例の少女を捕らえたとの報告です。尚……彼女と転生少女と思われる両者は、既に神殿に着いたとの目撃証言もあります、以上です!」

 「そうか……ご苦労」

 彼は、そう呟くなり、外の景色を眺める。

 「将軍様?いかがなさいましたか?」

 「いや……何でもない」

 彼は、またため息を吐きながら外の景色を眺め続けた。

 (はあ……全く、何かとアレコレ面倒な問題ばかりが降りかかるな……)

 そう彼は思いながら、城に隣接されている訓練所、そこに設けられた休憩所の部屋の窓から兵の訓練や、そこから眺められる外の光景を見ていた。

 王国騎士団の施設は、城から少し離れた位置にある。彼等は国が攻めて来た場合の抗争や、過去に起きた魔獣の群れの暴走の時に備えて、常に警戒を怠らず日々訓練に励んでいた。

 エルテンシア城、通称『純白城』……城のシンボルでもある中央の、まっすぐに突っ切って高く伸びる建物、その中央の真下にの前には大広場が広がっていた。広場の中心部には大樹が植え込まれている。その広場の大樹の先に、城の中へと続く大理石の階段があった。広場は総勢兵士を1万人以上を揃えるだけの面積がり、広場の反対側に位置する場所には正面の大正門が備え付けられていた。かつて生前リムア姫が、魔獣の群れを食い止める為に通った門でもあった。

 城が正門を使うのは、兵の進行か、国の行事位で……それ以外は正門では無く東西に設置されている小さな門から普段は人が行き来する事となっていた。

 そんな平穏な日常を送る中、彼にとって悩ましい出来事が起きたのだった。それは……数日前、女神官長が現れ、兵を派遣させて欲しいと言って来たのだった。

 安易に兵を出兵させるのは難しく、しかも……1日で2000人の部隊を要請して来たのだ。流石に2000人は難しいと断ると「じゃあ、1000人で……」と、言うのだった。

 (じゃあ……て、簡単に言うなよ!部隊編成だって、参加出来る人材を集めなければならないし、その為の登録名簿と資金集めも必要だし。それ以上に……頭の硬い高官にも納得してもらう為の資料作成が必要なんだよ!兵を動かす事も、それなりに大変という事を知らないのか?)

 と……彼は胸の中で叫んだ。

 結局、ルセディ将軍は1000人の兵の部隊の要請を受ける事にしたのだった。

 翌日、広場には神官剣士と王国騎士団、合わせて2000人程の部隊が編成されて、広場に時空の門と呼ばれる、空間移動用の門が、神官達に寄って設置され2000人の部隊は、移動用の門を潜って魔の森近郊まで移動を開始したのだった。

 そんな一件があり……ルセディ将軍は、高官達に勝手に部隊を動かした事で責任を問われる事となる。

 「はあ……」と、ルセディ将軍はまたため息を吐くと、窓から外を眺める。視界を遠くに向けると風光明媚な大自然の風景が広がっていた。

 (全く、毎度の事ながら……あの女に関わるとロクな事が起きかねないな……)

 時空の門で兵を行進させる時に、彼女の側で彼は「事が済んだら郷にある寺院で厄除けの御祈りしたいよ」と、冗談で言うと……

 「厄除けのおまじないなら、私は得意だけど……かなりの効果があるって皆から言われるわ」

 (アンタの場合、厄除けで無く、厄寄せで……呪いを惹きつける効果があると言う意味で言われているんだろう?)と、ルセディは言いたかった。

 そんな彼が、何気なく外を眺めていると、彼に声を掛ける人物が居た。

 「将軍とも在ろう方が、1人で何を黄昏ておられるのですか?」

 声が聞こえて振り返ると、そこにはカダータと呼ばれる男性の姿があった。アスレイウの知人で、王宮内に置いて数少ない信頼出来る人物だった。

 「先程、王宮を賑わせている例の転生少女殿が神殿に入ったらしいですね」

 「ああ……俺としては、少し面倒な事が避けられて嬉しいが、王宮の爺さん達は、さぞやご不満だろうな……。本来なら、あの少女を始末するのに一番適した魔の森が、彼女の手によって浄化されてしまったし……。参加者のほとんどが生存しているからな。爺さん方にとっては面白くない事で在ろうな……」

 「それも理由の一つですが、私の息の掛かった者からの報告では、今回の討伐に掛かった者の中に居た脱走者が所持していた文面に、我が王宮の者と思われる執筆があったそうです。」

 「ほお、それは大きな手がかりだ!今まで不明とされ、誰なのか分からなかった、黒幕に一歩近づけたと言う事か!」

 その言葉に対して、カダータは首を横に振った。

 「それが……駄目でした」

 「何故だ?」

 「魔剣士の元へと置くられた書面にはラナスの名前が確認されましたが……我々が彼に問い詰めるよりも先に、ラナスは行方をくらましていました。彼の部屋も、邸宅も今はもう全て物抜けのからです。彼の使用人に問い詰めると、既に数日前には彼の行方が分からないとの事です……」

 「トカゲの尻尾切りか……、つまりラナスは黒幕は彼では無く、別の人物という事になるな」

 「全く呆れるばかりですね。そんな責任を負いたくない彼等とは別に、例の転生お嬢ちゃんは……そのラナスの言葉で動き、脱走した連中の1人が死亡した件に対して、自分が全ての責任を背負うなんて言っております。階級の降格処分と、王位継承権の出場停止になる事も受けるつもりだそうです」

 その件は既にルセディも聞いていて、彼が溜息を吐いている理由の一つでもあった。

 「全く……あの嬢ちゃんは、一体何を考えているのだ。俺も彼女に縄を掛けた者を処罰させようとしたら、彼を助けるなんてするし……。全く訳がわからない。自分が不利益になる事を、彼女は敢えて受け入れてしまうなんて……」

 「相当の博愛主義か、それとも単なる天然なのでしょうかね?」

 「両方とも言える。まあ……私利私欲塗れで野心家揃いの我が王宮の老人にとっては、相当許し難い存在でも在ろう」

 そう話していると、カダータがある事を思いつき発言する。

 「どうでしょう……?いっその事、現代理王とリーミアちゃんが婚姻してしまえば、正当な王位が誕生するのではないでしょうか?」

 その発言に対してルセディは少し気難しい表情をした。

 「実は……俺も少し前に同じ事を考えたけど、実は……ちょっと気になる箇所もあるんだよね」

 「ほお、それは一体?」

 カダータの言葉に、ルセディは周囲を見回す。

 「ここでは少し人目が気になるから、俺の部屋で……」

 「分かりました」

 2人はルセディの自室へと向かう。彼の部屋は特殊構造の鍵で、一般の人が簡単に部屋に入れない様式となっていた。

 彼が自室の部屋の前まで来て、鍵穴に鍵を入れると……「おや?鍵が開いている、閉め忘れたのかな?」と、思いながら扉を開けると、部屋にはリーラが座っていた。

 「こんにちは!」

 それを見るなりルセディは思わずガクッとその場にへたり込む。

 「何故、貴女がここにいるのですか?」

 「部屋をノックしっても、誰も出て来ないので……その、つい……」

 リーラは照れながら答える。

 魔法効果を利用して無理矢理鍵をこじ開けたのだと彼は直ぐに気付いた。

 「部屋に居なければ、別の場所にいると普通思うでしょう!何故使用人を使って呼びに来させなかったのですか!」

 ルセディは思わず叫んでしまった。

 「次からは、そうするね……」

 リーラは愛想笑いしながら答える。

 「全く……」

 呆れた口調で彼は書斎に置いてある羊皮紙を取り出した。彼は数十枚ある羊皮紙を見回していると、ある一つの羊皮紙に目を止める。

 「あった!これだ、これを見て欲しい」

 彼は大きなテーブルに、その羊皮紙を広げた。カダータとリーラが、そこに書かれている物に目を向けると、唖然とした表情をしながら驚く。

 「しょ……将軍、これは……?」

 「俺も最初見た時は、自分の目を疑ったよ。だけど……ここに書かれている事が事実だとするれば……」

 「まさか、リムア姫と代理王にこんな秘密があったなんて……」

 リーラも驚きを隠せない表情をしていた。
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