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魔術師の館
魔の森、浄化①
しおりを挟むキンッ!カキンッ!カンッ!
激しく金属がぶつかり合う音が、新緑の奥にこだまする。周囲には蠢く巨体な魔獣から、小型の魔物達が無数居た。
深い森の中で、激しく剣撃を撃ち交わすルフィラの身体は無数の傷があり、彼女の甲冑はボロボロの状態で、長い髪も乱れていた。それでも彼女は、魔物との対決を止めずに、敵との交戦を続けていた。
「クカカー!」
魔物は余裕の表情で、相手に惨劇を繰り出す。
ビュッ!ザッ!
甲冑の綻びのある左腕と、右足に刃が当たる。「くぅ……!」苦痛の表情を浮かべた彼女は、急いで樹の影に隠れる。
少し刃が掠れただけなのに、予想以上に出血が酷く、彼女は持っていた布で止血するが、直ぐに布が赤くなってしまう。
「クカカ……、コノ刃ニ当タッタナ、早ク傷口ヲ治療シナイト、貴様ノ身体ハ動カナクナルゾ、コノ剣ハ魔ノ森ニ迷イ込ンダ者ノ魔法剣ヲ剛性強化シタモノダカラナ……マア、貴様ハ生キテ森カラハ出ラレナイガナ……」
そう言うと、魔物は樹の陰に隠れているルフィラの傷口から出血している血を見つける。
「ソコダッ!」
魔物は魔法剣を大きく振り翳し、強烈なカマイタチの風圧で樹を切り崩した。
ズシーン……樹が崩れ落ち、それと同時にルフィラが現れて、剣を構えていた。
「ハア、ハア……隠れていたのじゃ無いわよ!」
そうは言うが……止血した腕と足がズキズキと痛む。それと同時に目の前の光景がぼやけて見えた。
「フン……ソノ強ガリ。何処マデ持ツカナ?」
魔物が勢い良く、ルフィラに遅い掛かる。
キンッ!キィン!
再び激しい撃ち合いがするが、一方的に魔物が押している状態だった。
剣を持つのも厳しい状況のルフィラは、震えながら相手の攻撃を撃ち交わしていたが、うっかりと剣先が岩に当たって折れてしまう。
慌てて彼女は魔法剣を鞘に納めて、抜き出すが……折れた先端は復元されて無かった。
「カカカ……安物ノ魔法剣ダナ!」
そう言いながら、魔物は大きな刃の魔法剣を振り翳し、その風圧でルフィラを弾き飛ばす。
華奢な身体の彼女は、後方の樹まで吹き飛ばされ、持っていた魔法剣も衝撃で落としてしまう。
「ゼエ……ゼエ……」
魔物の剣で受けた擦り傷だった場所が次第に痛みが強くなり、止血していた傷口から出血が激しくなる。
体中から汗が出て身体が震え出し上手く動けなくなり、彼女は自力で立つ事さえ困難な状態になっていた。
彼女の魔法剣は、手を伸ばせば届く距離にあったが、その剣を掴んでも、既に彼女自身戦える状態では無かった。
「コフ……」
咳をしたかと思って、右手を口元に押さえると右手が赤く染まっていた。
彼女は涙と同時に震えが止まらなくなった。
(もう……自分は助からない……)
心の何処かで、彼女は諦めかけると、樹の根本に座り込みフッと笑みを浮かべる。薄らと瞼を開けると、目の前に黒い影が立っているのが見えた。
視界が悪く、その影が魔物だと言う事だけは認識できた。
「カカカ……コウ言ウノヲ人間ノ言葉デ、年貢ノ納メ時ト言ウノダナ」
魔物は剣先をルフィラの首元に当てる。
「余計な事は良いから、一思いにやりなさい……」
意識が朦朧としてる中、ルフィラ小声で囁いた。
*
森の中での出来事など知らず。館の中では魔剣士と代理王との決着が付き、魔剣士に縄を掛けようとしていた。
その直後、魔剣士ルディアンスが起き上がり、周囲は驚き、皆がその場から引き下がる中、リーミアだけが彼の前に立っていた。
「オノレー!」
ルディアンスが拳を振り上げようとした直後。
リーミアが、手を差し出して、人差し指を伸ばした。
「優光」
ポワ……
優しく緩やかな光が人差し指の先端から現れる。
その輝きが現れるのと同時に、ルディアンスが突然苦しみ始め、横たわってしまう。
「グアアー!何ダコレハ?ヤメロー!」
その光景を見ていた誰もが不思議そうな表情をしていた。小柄の少女が、自分よりも大きな体型の相手に、指一本で捻じ伏せてしまっている異様な光景に、誰もが言葉を失っていた。
「グオオー!ク……苦シイー!」
その光景を見ていたアメリが物知り博士のサリサに問い詰める。
「これは……一体?」
「優光、光の魔法よ……。優しく暖かな光で魔を滅させる効果があるわ。魔に染まった彼にとっては、これ以上無い苦痛でしょうけど……死なない程度に苦しませるのと、一気に息の根を止めるでは果たしてどちらが楽かしらね?」
それを聞いていたアスファードは、少し蒼白した表情でリーミアを見た。
「死なない程度に苦しませるとは……あの少女、意外に酷な事をするな……」
その側に居たエムランやレトラ、ルファ、アルムは普段から稽古で、絶命ギリギリの状態で稽古に付き合わされていて、ルディアンスに同情してしまった。
「まさか……宿舎の外で、同じ光景を見る日が来るとはな……」
ルディアンスが苦しんでいるのを見て、サリサはメオスに縄を渡す。
「邪鬼を追い払う、特別な縄よ。彼が苦しんで居る今のうちに縛りなさい!」
「え……俺が?」
「文句ある?」
「は……はい……」
サリサの凍てつく様な表情に震え上がった彼は急いでルディアンスの側に行き、彼の体を縛り上げた。
ルディアンスが身動きできなくなるのを見たアスレイウは、彼の近くに落ちて棒状の様になった魔剣を、袋から出した封印の箱にしまい、鍵を掛けて、再び袋の中へとしまい込む。
一連の事が終了すると、アスレイウはリーミアに声を掛ける。
「さて……最後の大仕事が残っているぞ」
「大仕事?」
リーミアは首を傾げながら答える。
それを見たアスレイウは人差し指を上へと向ける。
「展望台に上がり森を浄化させるんだ!」
それを聞いたリーミアは既に、大事な役目を忘れていた。
「そ……そうでしたね、アハハハ……」
リーミアと一緒にいる光花のメンバーや、彼女の事に詳しいティオロなどは、リーミアが愛想笑いしてる姿を見て、(絶対に忘れているな……)と、心の中で呟く。
「ハ……!オツムの許容量が代理王の10分の1以下にも満たない盟主が、森に入る前の記憶なんて、遥か昔に消し飛んでいる……ブハッ!」
皆が立ち並んで居る中、リーミアは振り向きもせず、的確にエムラン目掛けてボンッと波動を放った。
弾き飛ばされたエムランは、広間の反対側の壁まで飛ばされてしまう。それを追う様にしてリーミアがそばへと駆け寄る。
「あらら、ごめんなさいエムラン、ついうっかり貴方に波動を放ってしまったわ。フフフ……」
そう言いながら彼の衣服に着いた誇りを払い落とした彼女は睨みつける様な表情でエムランを見る。
「ところで……貴方にも優光を掛けてあげましょうか?」
その表情を見たエムランは震えながら「ヒイィ、すみません……」と、平伏しながら謝る。
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