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魔術師の館

二刀聖魔剣

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 「遊ビハ終ワリダトォ……ヌアァー!」

 見下された様な発言に対してルガンは気合いを込めて、全身を激しく奮い立たせる、その闘魂による筋力の増幅エネルギーによって、部屋周辺及び地下全体が振動による地響きを起こしていた。

 リーミアとルガンの様子を見ていたアルム、シャリナも、地下洞窟の天井から小石や砂がパラパラと落ちて来る事に気付く。もはや……2人の対決の行方は両者だけにしか分からない領域へと踏み込まれていた。

 地響きによって、その周辺に生息していた小型の小さな魔物が、驚いてギ……ギ……と、声を上げながら走って行くが……運悪く、ルガンの闘志の様な熱気に触れた途端に、「ギャアァ……」と、呻き声を上げながら、ジュウッ……熱気の炎で消滅してしまった。

 「もはや、この戦い……俺達が介入出来る領域では無くなったな……」

 アルムは2人の姿を見て言う。これまでにも幾度となくリーミアの戦闘を目の当たりにして来たが、先程彼女の額に転生者の紋様が、光の紋様と融合して全く新しい紋様となったのを見たが、そんな彼女が、一体どれだけの秘めた力を発揮するのか、アルムとシャリナは知らなかった。

 ただ……ギルドに参加登録した日に、彼女をチームに加えたユウマのメンバー達や、湿地帯での戦闘を見ていたフォルサの証言からすると、数十匹の魔物を倒してしまう勢いがあると言うのであって、それがどの程度なのかは彼等は知らなかった。

 そんな彼等の側で、意識を失っていたティオロが目を覚ました。

 「あ……れ、皆どうしたの?」

 一命を取り留めたティオロは、まだ完全に体を思う様に動かせなかった。

 「盟主殿が、あの魔物と……これから戦うんだよ」

 それを聞いたティオロは目の前の部屋に視線を向ける。

 「転生者の封印も解けた見たいよ」

 「そっか……じゃあ、凄い戦いになりそうかも……」

 その言葉を聞いただけで、2人は身震いした。

 「ど……どうなるんだろう?」

 「さ……さあね……」

 緊張のあまり2人は、言葉が上手く発せられなかった。

 そんな彼等の事など気にせず、リーミアはテリオンの聖魔剣に念話を行う。

 (光の魔法を使うけど、大丈夫かしら?)

 (上級魔法で無ければ、其方の身体に負担は掛からない。出来るだけ短時間で済ませよ)

 (分かったわ……)

 そう返事を行うとリーミアは、2つの聖魔剣に光の魔法を放つと、2本の聖魔剣は同時に眩い光を照らし出した。

 「フン、ソレデ何カ変ワッタノカ?」

 「さあ……どうでしょうね、気になるなら、そちらから攻撃してみては?」

 2つの聖魔剣を構えてリーミアはルガンに対して挑発を行う。

 「ウヌヌ……」

 巨体なルガンは目の前に居る少女に対して、激しい苛立ちを見せる。互いの体格差は大きく5m程の巨体に対して、相手の片腕の長さにも満たない小柄な少女、ルガンの人差し指の爪が当たれば、致命傷にもなりかねなかった。

 更に回復魔法は相手の身体の傷や体力を回復出来ても、術者自信は体力の回復は出来ない、その為に回復系は2人いる事が望ましかった。治癒魔法も、上位に匹敵する程の回復が彼女は可能だった。しかし……回復系に特化した術者と比べたら、若干物足りなさは感じられたりはした。……それでも、常にあらゆる状況に臨機応変出来るリーミアの存在は、チームに置いて貴重な存在ではあった。

 前方でも後方でも活躍出来る。「君は何もぜず、皆を見てれば良い」と、度々言われたりされる事があるが、それでも戦闘状況を見ていると、つい動き出したくなるのが彼女の悩ましい欠点でもあった。

 そんな少女に相対する魔物も、じっとしてられない部分は何処か似ているものがあった。

 「オノレェー!」

 ルガンの猛攻が始まった。巨体な魔物は自慢の棍棒を勢いよく振り落とす。

 ズドーン!

 激しい轟音と砂塵が舞い上がり、砂煙と共にリーミアが立っていた箇所は、棍棒が叩き付けられた事で、地面が抉られ、大きな陥没のような穴が出来上がっていた。

 「フハハ……」

 ルガンは、目障りなものが一撃でチリと化したと、不気味な笑みを浮かべる。

 「あ……あぁ……」

 アルムとシャリナは、口を大きく開けて唖然とした表情をしていた。

 リーミアが直撃で肉片残らず消えてしまった……そう思われた時だった。

 「フフフ、私はこっちよ」

 リーミアの声が聞こえて振り返ると、部屋の反対側に立っていた。

 「ナニィ……?」

 「いつの間に!」

 その場に居た誰もが驚いた。正に一瞬の隙に彼女は素早い動きで移動したのだった。

 「オノレ~!」

 怒りに満ちた表情でルガンは再び棍棒を振り回す。

 ズバーン!

 更に相手の攻撃の瞬間にリーミアは再び加速移動する。

 今度は移動する際に相手の間合いを抜けると体を旋回させる。その時、瞬間に移動した際の衝撃で、ザザーッと砂塵を巻き上げながら立ち止まった。

 「グヌヌ……」

 更に怒りの形相を強めたルガンが激しさを増して、強烈な猛攻を繰り出す。ブオンッ、ブオンッと、風を掻き立てる様な勢いで、棍棒を激しく振り回す。ルガンの怪力の勢いによる風圧で壁や地面がボンッと陥没穴が増えていく。

 瞬間的に避けているリーミアも、衣服に綻びが生じていた。

 「何故……盟主様は逃げてばかりなの……?」

 2人の戦闘を見ていたシャリナは、ふと……疑問に感じた事を口にした。

 「いや……逃げているのでは無いよ。相手の間合いを見計らって攻撃しているのだよ」

 アルムの言葉にシャリナは、「え……?」と、大声で驚く。

 「見てご覧……盟主殿の剣先が徐々に赤く染まっているだろう?盟主殿は巨体な相手に対して、足元から攻撃して、動きを鈍らせているんだよ」

 「それだけじゃない……」

 ティオロが体を壁沿いに寄り掛かってリーミアの戦闘を見る。

 「テリオンの剣……力の聖魔剣は血を好む。敵に攻撃が当たれば力を増していく。更に光の魔法は攻守一体。自ら回復しながら攻撃する。攻撃と防御に徹した状態での二刀聖魔剣……敵にとってこれ以上厄介なものは無いだろう……」

 ティオロの言葉通り、リーミアがルガンに接近して、その側を通過する度にルガンの体から徐々に傷口が大きく広がり出血の量も増えていた。

 「グググ……」

 初めてルガンが疲弊した表情を見せ始めた。

 バッ……

 真っ赤に染まった聖魔剣をリーミアは一旦鞘に収めて、再び抜き出すと真新しい剣が現れる。

 (ウヌヌ……)

 この時、初めてルガンは目の前に居る少女に怯えた。

 相手は、あれだけ激しく移動してたはずなのに、呼吸が乱れておらず、戦闘開始直後の時の様に余裕な雰囲気でいる。それに対してルガンは、足元から攻撃されて、既に立っているのも困難な状況だった。

 「オノレエッー!」

 ルガンが激しく頭上高く棍棒を振り下ろした。

 今度はリーミアは避けず、真上から落ちてくる棍棒に対して、剣を空で振り回した。

 シュ、シュ、シュ!

 素早く剣を振り回した剣の風圧が、棍棒を刻み込む。

 バア……

 リーミアの上空で、丸太の様な棍棒が、根本を残した状態で、紙吹雪の様にバラバラに切り裂かれ崩れ落ちる。

 「ウググ、オノレェ!」

 根本だけの棍棒を先端を突き出して攻撃仕掛けようとすると、リーミアは相手の右腕にカマイタチの風圧を掛ける。

 その衝撃波が見事に相手の右腕を切り裂く。

 「ウガアッ!」

 立場が逆転して巨体な魔物は、少しずつ追い詰められていく。

 「グガァ!」

 ルガンは残された左手の爪を突き出す。もはや最後の悪あがきだった。死に物狂いで放つ攻撃も、リーミアは難なく剣を振り上げて、相手の強烈な爪を切り落としてしまう。

 成す術が無くなった魔物は、傷口から立てなくなり、膝を突いた。その様子を見ていたリーミアが最後の一撃として、相手の胸元に交差でカマイタチの攻撃をした。巨体な魔物は激しい血飛沫を上げながらその場に倒れた。

 その戦闘を見ていたアルムは「盟主殿の圧勝だな……」と、静かに呟く。
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