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魔術師の館

魔剣士の過去(5)

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使用人の急な知らせを聞いたルディアンスは急いで自分の家へと向った。

 家の寝室のベッドには、突然血相を変えながら走って来たルディアンスに対して驚いたメイティの姿があった。

「ど……どうしたの?」

「え……?」

 彼女は普段と変わりなく居た。

 突然の急報を聞いた彼は、事の事情をメイティに伝えると、彼女はクスクス……可笑しく笑い出した。

「ルディ御免なさい心配掛けさせてしまって……ちょっと、急に胸が苦しくなっただけなのよ。でも、今はもう平気よ」

「そ……そうだったんだ……」

 それを聞いたルディアンスは、少しホッと安心しながら胸を撫で下ろした。

 しかし……メイティの言葉が少し気になったルディアンスは、その日診療所へと行き、医師に事の説明を伝える。当初は何でも無いと思っていたが……事情を聞いた医師が険しい表情をした事に気付く。

「そうだったんですね……ふむ……」

「どうしたのですか?」

「正直、こうは言いたくは無かったのですが……彼女の命は、あと2、3年かも知れません……」

 その言葉を聞いたルディアンスの表情は、サ……と血の気が引いた。

「どう言う事ですか、それは……?」

「彼女の体は病魔に冒されています。治すには手術しか方法がありません。ただ……それには多額の費用が掛かります」

「どの位ですか?」

「最低でも金貨100枚以上ですね。ただ……あくまでも最低枚数で、それ以上の額も覚悟して置いた方が宜しいかと……」

 その言葉を聞いてルディアンスは困惑した。

「わ……分かった、それだけ集めれば、彼女は救えるんだな……」

「可能性としては……ですね……」

「分かった。何とか集めて見せる」

 そう返事をしてルディアンスは診療所を出て行く。

 その日以来、ルディアンスは人の倍以上、魔物狩や魔獣討伐を行った。周囲からは鬼神の如く凄じいと囁かれる。彼の功績が上がるに連れて、飛竜の知名度も市場で有名になり、競技大会でのアスレイウと同等に並ぶ程にまで、彼の評価は上がって行った。

 それから1年程過ぎた頃……

 その日、王都近郊にある森林で、魔物達が野営地を作り、付近の住民達が被害を受けているとの報告がギルド集会所に届き、その野営地制圧に飛竜のメンバーが向かう事が決定された。

 その制圧メンバーにルディアンスは参加する事になった。

 彼は、飛竜のメンバーと一緒に野営地に徒歩で向かう。

 彼等は早朝宿舎から出発すると、まだ静かな市場の中を歩き進んで行く、その途中……掲示板の張り紙をメンバー達が見つけた。

「お、今年もいよいよ王位継承権の競技大会の時期が近付いてきたな……」

 それを聞いたサーシャと言う、まだ15歳になったばかりの少女が、嬉しそうな表情でルディアンスを見た。

「ねえ、ルディ様、やっぱり今年も参加するのですよね?あたし昨年、貴方が予選で戦った姿を見て、飛竜に入隊する事に決めたのよ!昨年の決勝戦は残念だったけど……今年は絶対優勝でしょ?」

 それを聞いたルディアンスは掲示板の広告を見た。

『優勝者……賞金金貨10000枚と、一年間の代理王権限が与えられる。準優勝者……金貨5000枚……』

「ああ……そうだな、絶対に優勝して見せる」

 彼は代理王よりも、優勝した時の報酬の額を見ながら答える。
(これだけの金額なら、きっとメイティを救える!)

 そう思いながら、ルディアンスはメンバー達と一緒に、野営地へと向かって歩き出す。

 その頃……宿舎内……

 アスレイウがアルファリオと一緒に、訓練所で新人達に稽古を行っていた。

 軽く汗を流したアスレイウは、小休憩を取り、飲み物を飲んでいた。

 彼が休憩していると宿舎の使用人が不機嫌な表情でアスレイウに話し掛けて来た。

「ちょっと盟主様、何とかして下さいよ……」

「どうしたんだ?」

「最近入隊した男性ですが……全然魔物狩行かず、毎日酒ばかり飲んで。広間のソファーに寝転んでいるのですよ、全く……」

 それを聞いたアスレイウは、広間に行くと使用人の言った通り、ソファーで山高帽で顔を隠して昼寝している男性の姿があった。

 その人物を見てアスレイウは、相手が誰なのか……直ぐに悟った。

「セフィー……」

 入隊時、彼は面談のときに、常に相手の素性を見抜くのが上手いアルファリオを添えて、入隊を選んでいた。その時、彼……セフィーを見るなり、彼は入隊を見送ろうとした。そんな中……アルファリオが、彼を入隊させようと持ち出した。

 面談の後、アスレイウはアルファリオに対して問い詰めた。

「何故、実力も無い人材を入隊させる?あの者は称号は白らしいが、実力は……現在飛竜に居る白の者にさえ劣る様な輩だぞ。むしろ荷物でしか無い」

 それを聞いたアルファリオは、アスレイウの言葉に対して笑いながら答えた。

「確かに……本人は白だと言いましたが、下手したら……それ以下かも知れません」

「ならば何故?」

「彼には、特殊な才能があると感じました。周囲と同じ様な魔物狩で階級上げするよりも、むしろ……外交の方が才能を発揮するでは無いかと僕は感じましたね」

「外交……なのか?」

「そうです。まあ……彼の様な人材を置いておけば、いずれ何か役立てるかと思います」

 それを思い出したアスレイウは、その時の事を思い出して改めてソファーに横たわる男性を見た。

「おい、セフィー」

「ん……どうしたんだ盟主殿、俺に何か用……?」

 彼は、酒の匂いを漂わせながら起き上がると、大きく欠伸をした。

(全く、コイツは……)

 そう叫びたかった。

「お前……情報収集とかは得意か?」

 それを聞いたセフィーはピクリと反応して「へえ……」と、ニヤけた表情でアスレイウを見つめる。

「まあ……ある程度はね。何か知りたい事とか有りますか?」

「ああ、勿論有るさ……君に頼んで見たいのだが出来るかな?」

「条件次第ですが、可能であれば引き受けますよ。で……調べたい事とは何ですか?」

 セフィーに尋ねられたアスレイウは、依頼の対称に付いての具体的な説明をセフィーに伝える。

「なるほどね、了解しました。では……早速、調べて参ります」

 そう言うと、彼は山高帽を頭に被せると、急いで外出の準備に取り掛かり、宿舎を飛び出して行く。

「なるほどね……あの者には、こう言う役割が適任か……」

 剣士や魔術師ばかりを選んでいたアスレイウは、意外な人材を発掘したと感じて、改めて自分自身もっと視野を広げるべきだと、そう感じさせられた。


 森林付近……
 飛竜メンバー達は、約2日程掛けて、目的地である魔物の野営地の近くへと到達した。彼等は魔物に見つからない場所にコテージを張り、敵の行動を観察した上で、行動する事に決めた。

 魔物の数を確認して、気付かれない場所から攻める作戦を決めて、彼等は制圧する手段を決行する。

 数名の飛竜のメンバー達が野営地に突入した直後。十数匹以上の魔物達に取り囲まれ、一時は危機的な状況に追い込まれそうに成り掛けたりはしたが、何とか持ち堪えて、危機的状況を乗り越え……戦局を脱して魔物達を追い込める。

 戦局が反転すると、1匹……また1匹と……魔物の数が減って行き、野営地が陥落寸前へと追い込まれ、制圧に拍車が掛かる。

「もうあと一押しだ!」

 ルディアンスは、皆に声を掛けながら戦闘を行う。

 その時だった……

 ズシン……ズシン……

 大きな体格の魔物が現れる、野営地の主の様な魔物だった。

 全身に甲冑を身にまとい、頭部には半壊した様な兜を被っていた。まるで不気味な威圧感を発していた魔物は、腰に携えた柄の様な棒を掴み上げると……それを軽く一振りした。

 軽く一振りすると同時に、柄の先端から剣の様な刃が現れた。その剣は赤黒く鉈よりも大きな刃で、剣の刃には血管を思わせる様な模様が有り、更に剣から紅いオーラが揺らめいていた。

「ま……魔法剣なのか、あれは?」

 ルディアンスは焦った。以前……王位継承権での競技を観戦した時、出場者達が使っていた剣は、全て鞘に収まっていた剣だけしか無かった事を思い出した。

「特殊な魔法剣だわ……きっと。以前……噂で聞いた事があるの。所有者の意思に応じて幾つかの形状に変化する魔法剣があるって……」

 サーシャが彼に話し掛ける。

「グヌヌ……」

 主は憎悪を剥き出しにしながら剣を勢い良く振り上げた。

 ブンッ!

 相手が攻撃して来ると、メンバー達は一斉に四方へと飛び散った。

「俺が、奴の隙を作る!」

 ルディアンスは皆に向かって声を掛ける。それを聞いた皆はルディアンスの言葉を聞いて頷いた。

「グオオー!」

 雄叫びを上げながら主は剣を大きく振り回す。

「何てヤツ……まるで理性とか無いわね……」

 主を見ていたサーシャが呟くと、傍に居た男性が話し掛ける。

「多分……あの魔法剣の効果だ。あれは扱う者の理性を奪って、凶暴性を増幅させて居るんだと思う」

「危険な敵ね!」

 彼等が話し合っていると、後方からルディアンスが主の脚を狙って剣を勢いよく振り払う。

 ズバッ!

 両脚の膝を斬られた主は体制を崩して倒れてしまう。

 主が体制を崩したのを見ると、飛竜のメンバーが一斉に攻撃に掛かる。

 ズバ、ズバ……

「グオオー……」

 声を上げながら、主が絶命したのかと思ったメンバー達が、やったぁ……と嬉しそうに、互いに手を叩いた。

 その直後だった……

「な……なんか、おかしいぞ……」

 ルディアンスは、顔色を変えながら呟く。

「どうしたの……え……?」

 彼の顔を見た女性が、主の方へと目を向けると。メンバー達によって体中切傷だらけの主が、流血しながらも立ち上がって来る。

「グヌヌ……」

 主からシュウ……シュウ……と、呼吸なのか何なのか分からない鼓動が響く。
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