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王位継承権への道

光の洗礼(2)

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「リーミアちゃんは、知っていたんだね」

その質問に周囲の目が彼女に向けられる。

「知っていた…と言うよりも、以前…こちらにお邪魔した時に貴女から聞いた、悲劇の王女の話と、その後…私が断片的に思い出した記憶とは少し食い違いがあって…ずっと変だなと思っていました。私の前世での記憶では聖魔剣とは、テリオンとセルティス。2つの剣が聖魔剣と呼ばれていたのよ」
「え…では何で、世間に伝わる伝承は違った内容になっているのだよ?」

ティオロがレンティに向かって言う。

「聖魔剣とは、本当は聖剣と魔剣を合わせた呼び名が正しいのだ。しかし…リムア姫が手にした剣が有名になってしまい。世間ではテリオンの剣が聖魔剣と呼ばれる様になったのだ」
「へえ…じゃあ、別の聖魔剣を探せば今後も活躍出来るんだね?」

「一般的に考えれば、そう言う風になる。ちなみに聖魔剣は、それぞれ異なる属性があり、テリオンの剣は主に力の属性である。基本的に流血を好み、光の属性とは相反する物である。一方セルティスの剣は、光の属性の剣。セルティスの聖魔剣を手にする事が出来るのは、光の紋様を授かり者のみに限る。それも…12の光の魔法のうち11まで習得した事が必須条件なのだ。しかし…それも、あくまで必須条件であって、必ずしも光の紋様を授かりし者が扱えると言う訳でも無いのだ」
「どう言う事ですか?」

リーミアがレンティに問いだす。

「セルティスの剣が造られた後、最初に手にしたのがテリオンだったのだ。彼はセルティスの剣が少し扱い辛い事が気になり、もう少し扱い易い物が良いと考え独自の魔法剣を造った。それが世間に伝わる聖魔剣となったのだ。テリオンの剣は認めた者と契約さえすれば扱えるのに対して、セルティスの剣は契約しても、相手が敵対心や殺意が無い場合は、所有者の意志に反応しない場面もあるのだ。しかし…戦での本領発揮は絶大だと。最初の所有者であるテリオンは言っていたらしい。ちなみに…生前リムア姫は11番目の魔法を習得する鍛錬をしていた為、セルティスの剣を使う事が出来なったのだよ」
「そうだったの?」

アーレスがリーミアを見て聞く。

「私が王女様だったかは、わかりませんが…。少なくとも、占い師が話してくれた内容は正しいかと思います」
「で…今後の課題としては、嬢ちゃんはどうするんだ?転生者の能力を封印されて魔法剣も無い状態ではギルドの階級上げも困難になると思うけど…。それ以上に魔剣士も彼女の命を狙って来る筈だ」
「転生者の能力など、借り物の力に過ぎない。神殿に行き光の魔法を習得しなさい。そうすれば、少なくとも以前よりは強くなる筈」
「そうすると、最初に神殿で光の洗礼の儀を行うと良いですね」

アーレスがレンティに向かって言う。

「そうじゃの、それが先決かもしれない」
「光の洗礼て何ですか?」

ティオロが2人に向かって尋ねる。

「光の洗礼とは、光の紋様を授かる為の儀式の事だよ。エルテンシア国では代々『秘めた力』と言う名で呼ばれている。王位継承者や大神官になる者が正統な光の洗礼で、その紋様を授かる事が出来るんだ」
「まあ…リムア姫が消滅した後、100年もの間…毎日、自分がリムア姫の転生者だと信じて魔法剣を持った少女が神殿に行き光の洗礼を受けているよ。じゃが…100年もの間、誰一人として光の紋様を授かった者は居ないがな…」
「そんなに確率が低いの?」

「歴代の代理王だって正式な儀式の場で光の紋様を授かった者は居ないよ。それだけ確率が低いんだ。正に選ばれた者のみが、その称号を受けられるのだよ」
「どうだ…リーミアちゃんは、受けて見る覚悟はあるかね?」

レンティの言葉にリーミアは少し戸惑っていた。

「僕は辞退すべきだとおもうよ」
「ほお…それは何故なんだ?」

セフィーがティロに向かって言う。

「だって、もし…光の紋様が授からなかったらどうすんだよ。このまま魔剣士から逃げ回る人生を送るんだよ」
「確かにな…100年間誰も受けられなかった光の紋様を…嬢ちゃんが受けられない可能性も否定出来ないが、しかし…本物の姫様の生まれ変りだったら、気にする事は無いと思うけどな」
「まあ、ティオロとやらの意見も考えられるが、一番はリーミアちゃんの気持ちだ。辞退するか、受けるか…どっちなんだ?」

しばらく目を閉じて沈黙していたリーミアは、皆の前で目を開いて…

「光の洗礼を受けます」
と、皆の前で言った。

「ほお、よく言った」

リーミアはティオロを見た。

「まあ、光の紋様が受けられなかったら、私は王位継承権その物を辞めて一般人としての人生を選ぶわ。その時は色々と教えてね」
「僕が君の世話をするの?」
「そうでしょ」
「それだったら、むしろ光の紋様を授かって欲しいね」
「何よ、その言い方は?まるで私が迷惑な言い方ね!」

2人の会話に周囲は和やかな雰囲気に包まれた。

「君達、あまり長居する暇は無いよ。夕方になると神殿に入れなくなるから、急いで出発するぞ」

セフィーが和やかな雰囲気の中、彼等に向かって言う。一同は出発準備を整えると神殿へと向かう。

城から少し離れた位置にあるエルテンシア神殿。その神殿は小高い山の頂きにあった。歴代の王となる者は、必ず神殿に行き光の洗礼を受ける義務があった。歴代の全ての王と大神官となる者が、神殿にある聖堂で正式な儀式でを行い、石碑から光の洗礼を受けて、額に紋様を刻まれる。その紋様は光の神が認めた者のみで、それに相応しい者と認められなければ、紋様が刻まれる事は無かった。その為、歴代のエルテンシア国の王と、大神官のみが、正式な光の洗礼を受けた状態で即位していた。

一般の者でも光の洗礼を受ける事は誰にでも可能だった。しかし…一般の者で光の洗礼を行って、額に紋様を刻み込まれる例は無かった。神殿にいる神官達も、額に光の紋様を刻みこんで居るが、それは光の魔法を最初に7つ覚えた状態で、大神官から光の紋様を授けて貰うと言うやり方だった。
神官達の間では大神官に紋様を刻み込むやり方を「後天的」と呼んでいた。

その「後天的」でのやり方では、12の光の魔法のうち、上位5つを覚えられない仕組みとなっていた。
神殿は小高い山の頂にあった。その場所に辿り着くには数千段ある階段を登る必要があった。階段を登って行く途中、神殿から帰る人の姿もあった。

まだ若くリーミアと同年代位の少女が、腰に剣を携えて1人歩いて帰る姿もあった。彼女の友人と思われる少女達が追い掛けて来た「アイナどうだった?」と、尋ねると…「ダメだった」と、少女が答える。「えー!なんで?」彼女達は山を降りながら会話をしていた。

「もしかして…彼女達も光の洗礼を受けに来たのですかね?」

傍らで見ていたティオロが言う。

「その様だな、まあ…神殿に来る少女は、大半がそう言う目的であろう」

レンティはティオロに向かって言う。
一同が長い階段を登り終えると大きな神殿が目の前に現れる。神殿入口の門には若い男性と女性の神官が立っていた。彼等は神聖な白色の衣服に身を包み、純白のマントを掛けている。

「ようこそエルテンシア神殿へ…。本日はどの御用件で来ましたか?」
「大神官に会いに来ました」

リーミアが先頭に立って言う。

「かしこまりました。どうぞこちらへ」

神官が手招きして、一同を連れて中へと案内させる。神殿に入ると巨大な廊下が続いていた。廊下には石灰で造られた柱が続いていた。柱をよく見ると細かな繊細な模様が掘り込まれている。
その柱に寄って支えられている頭上高くの天井は不思議な色彩に彩られている。長い廊下の先に礼拝堂が現れ、その中央に大神官が座る椅子が見えて来た。しかし…大神官は椅子には腰掛けて居なかった。

「失礼…少しお待ちください」

神官が軽く一礼して、別室へと向かう。その場に残された一同は無言のまましばらく待たされた。
少しして、別室から高齢だが威厳の有りそうな男性の姿が現れた。白髪で長い白ヒゲを生やし、純白の衣に身を包んだ老齢の男性が杖を付きながら、ゆっくりと歩き、椅子に腰を降ろした。

「大神官アルメトロス様です。皆様平伏を」

神官の言葉に言われる通りに、一同は深く頭を下げて、その場に片膝を付いて頭を下げる。この様な場面を初めて体験するティオロとリーミアは他の大人達が片膝を付いて頭を下げているのを見て、同じ様な格好をした。
何とか夕暮れ前までに神殿に辿り着いた一行は、アルメトロスに挨拶をして、彼等を見たアルメトロスはリーミアを見て話をする。

「ようこそ、お待ちしておりましたリーミア様。貴女の噂は我々の耳にするところです。お会い出来て光栄です」
「はじめまして、ご挨拶感謝致します」

リーミアはアルメトロスに向かって深くお辞儀をする。

「して…本日は、どの様なご用件で、こちらにいらしましたか?同行者も大勢おられますな」

リーミアの後ろにはティオロ、セフィー、アーレス、レンティが並んでいた。

「光の洗礼を受けさせて頂きたいと思います」
「なるほど…分かりました。では、その様に準備致しましょう。少しお待ちください」

アルメトロスが席を立ち、奥の間へと向かってからしばらくして、女神官が現れてリーミアに「どうぞ、こちらへ」と、手を差し伸べる。

彼女は女神官に連れ添われて別室へと案内された。
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