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マネニーゼ市場
風変わりな男
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ー ラトム・ギルド集会所…
「おい…」
「何よ!」
リーミアが不機嫌そうな表情でティオロを見た。
「何でギルド集会所に戻るんだよ」
ティオロは買い物が終わったら、宿屋に戻って…次の日まで遊ぶ惚けるつもりだった。
「どうせ貴方の事だから、宿屋に戻れば隙を狙って逃げ出すでしょう。だから…ここで私が貴方に色んな事を教えてやるのよ」
「はあ…何それ?」
集会所に集まっている強者達の一角に空いてるテーブルを見付けると、リーミアは椅子に座り向かい側にティオロを座らせる。
「どう言う事さ…」
面白く無さそうな表情でティオロはリーミアを見た。
「言葉通りの意味よ、貴方の昨日からの行動で大体何を考えているのか、読み取れているから…」
「へえ…そうなの」
負けずとティオロは強がって見せる。
「これまでの貴方の行動から推測すると…お金が懐に入った事で、私が宿に戻れば…貴方は私の目を盗んで逃げ出すでしょうね、そして街で遊び惚けて…。所持金が無くなったら再び私の元に戻って、お金を要求する…と言う行動が予測出来るわね」
「う…」
ほぼ正解の事で、ティオロは反論に戸惑った。
「こう見えても私は修道院で兵法や心理学を学んだ身よ、貴方の様に単純な行動くらい読み取れる事くらい簡単よ」
完全に立ち位置がリーミアの方が上に感じられたティオロは言い返す言葉が無かった。
その時二人の近くで「フフフ」と、笑う人が居た。
彼はリーミア達の側へと寄って来た。
「良いね、君達の仲は…話を聞いてると楽しそうだ」
現れた男性は黒色の三角帽を被り、黒のマントに身を包んだ背丈の大きく、長髪で顎には無精ひげを生やした風変わりな男性だった。
彼はティオロの隣に空いている椅子に腰を降ろす。
「ちょっとセフィーさん、変なこと言わないでくださいよ」
ティオロの言葉にリーミアが少し驚いた様子を見せていた。
「こちらの人と知り合いなの?」
「まあ…コイツとはちょっとした古い仲でね」
セフィーと言う名の男性がリーミアに答える。彼の言葉に対してティオロが引き下がる。
「俺はセフィーと言う者だ、よろしく」
彼はリーミアに向かって自己紹介をする。
「私は…」
リーミアが自己紹介しようとした時、彼が「おっと」と、手を伸ばして彼女の言葉を遮った。
「言わなくても結構、君の名前は知っているから…」
「そう…なの、随分情報が早いのね」
「フ…君は有名人だからね。まあ…少なくとも、このギルド集会所では近くの人が知っていると思うよ」
「そうなの?」
そう答えながらリーミアは周囲を見回した。
セフィーは集会所の店で働いている者に発泡酒を頼む。
「お嬢ちゃん、アンタ見かけに寄らず凄い腕前の様だね」
「それほどでも…」
リーミアが照れながら答える。
「フ…謙遜しなくても良い、君の事は昨日レンティ占術師から聞いたよ」
その言葉にリーミアは少し驚いた表情でセフィーを見た。
「何か目的があって、私に近付いて来たの?」
「いや…そんな事は無い、ただ…俺としてはちょっと助言しようと思ってね…」
「助言…?」
「まあ、そうだな…例えばこんな奴を頼るよりも、もっと期待出来る人を雇った方が身の為とか…」
セフィーはティオロを指して言う。
「彼には貸しがあるので、しばらく雇っているだけですが…」
「おやおや…そうなのか、まあ…別に無理に要求している訳では無いのだから、君が良ければそれも構わないさ」
セフィーが話してる間に発泡酒がテーブルに置かれ、彼はそれを一口飲んで、リーミアを見た。
「嬢ちゃんが持っている短剣、ちょっとを見せてくれるかな?」
「構わないけど…」
リーミアは、不信に思いながらも短剣をテーブルの上に置く。
セフィーは短剣を手にして、剣を鞘から引き抜こうとするが、剣は抜け無かった。
「噂通りの名剣だ…。所有者にしか扱え無いとはな…」
そうながらセフィーは短剣をリーミアの方に戻す。
「良かったら、短剣を鞘から抜いたのを見せてくれるかな?」
リーミアは少し迷いながら「はい」と、返事をして短剣をゆっくりと鞘から抜いた。
短い鞘の中からは、まるで別物の様に長く伸びた長剣が出てきた。
「ほお…これがテリオンの剣ならではの能力か…」
セフィーは改めて剣を手にして眺める。
「剣の輝き、刃先も見事に研ぎ澄まされた一品物だ。これだけの物腰と輝きがありながら、重くなく…刃先が鋭い、切られた相手は痛みすら感じる事無く倒されるだろう…」
セフィーは剣をリーミアに戻すと、発泡酒を再び口にして改めてリーミアを見た。
「嬢ちゃんの、武器はかなりの物だ…多分、同じ武器を手にしてる物はいないだろう…。だが、それは野営地での魔物相手での事だな」
その言葉にリーミアはピクッと反応した。
「それはつまり…?」
「テリオンの剣は、様々な種類の魔法剣の原点とも言われている。剣は生き血を吸って魔力源に変え、所有者は剣を鞘から抜く度に体力を消耗させる…と言った絶大な威力の反面、リスクの伴う武器でもある。何よりも嬢ちゃんは体が細い。ドラゴンの様に硬い鱗を持った相手や…同じ魔法剣で体力のある相手等、長期戦等では…不利になる場面が出てくると思う」
その言葉にティオロは数日前にレンティ占術師の言葉を思い出す。
(あの娘が必要以上に聖魔剣を使わせるのは本人にとって大きな負担へとなるのは確実だと思うがな…)
リーミアはリスクを背負いながら危険を冒しているのかもしれない…、そう思いながらティオロはリーミアを見ると、彼女が少し震えている様にも思えた。
それを見たティオロはセフィーに向かって言う。
「ちょっとセフィー、少し言い過ぎじゃない?」
「別に俺は本当の事を言っただけだが…。大体、王位継承権を得ようとしてギルドに入ったのだろう?だったら安物の武器を購入するよりも、もっと自分に見合った道具を用意すべきじゃないかな?」
「安物?」
そう思ってティオロはリーミアの魔法の杖を見た。自分の武器防具と一緒に買った彼女の魔法の杖は、それだけでも金貨100枚した高価な杖だった。
「あれだけでも金貨100枚したんだぞ、決して安くは無いぞ!」
「だから…何だ?露店で売買されてる魔法剣は、安くても金貨1000枚は下らない。現在代理王を務める者は魔術師に協力を得て、独自の魔法剣を造り上げたらしい…その製造費には総額で金貨10万枚を費やしたと言われる…。いずれこの先、王位継承権で覇を争うになる時、テリオンの剣だけでは不利になると思う、せめて相応しい予備の武器を持った方が嬢ちゃんには良いと思うがね…。まあ、今のままで満足しているのなら、それも構わないさ…」
セフィーは発泡酒を飲み終えると席を立つ。
「まあ…俺が必要になったら何時でも声を掛けてくれ。今は別の事をしているが…こう見えても昔はギルドに参加して、野営地で狩りをしていた身だ。一応水晶の称号を持っている、少なくともコイツ何かよりは役に立つけどな」
セフィーは「コイツ」と言う時にティオロを指した。
ムスッとしながらティオロはセフィーを睨んだ。
リーミアは少し考え込んだ表情でセフィーが立ち去って行く後ろ姿を見ていた。
その傍ら、ティオロが「あー!」と、突然大声を出す。驚いたリーミアは振り返り、ティオロを見る。
「何よ、突然大声を出して?」
「アイツ酒代払わずに出て行きやがったー!」
ティオロは飲み代の伝票を手に持って言う。
それを見たリーミアはセフィーと言う風変わりな男性を信用して良いのか…少し迷った。
~宿屋…
リーミアとティオロは、ギルド集会所を出てマネニーゼ市場を歩き、宿屋へと戻って行く。
「あら、お帰りなさい~」
ルナは2人を見て声を掛ける。宿屋に入った2人はルナ達が、自分達の帰宅に合わせて夕食の支度をしている事に気付いた。
彼等の姿を見たリーミアはティオロの腰にぶら下げた金貨の入った皮の袋を奪い取った。
「あ、何するのだよ!」
「うるさいわね、これは私のお金よ」
そう言われると、ティオロは反論出来なくなる。
「すみませんが…こちらのお金、預かってくれますか?」
「え…構わないけど?」
ルナは不思議そうな表情で、皮の袋を受け取る。
「預けるだけだからね、中身くすねたりしないでよ!」
ティオロは悔しそうな表情でルナ達に言う。
「取り敢えず荷物を置いて来なさい。夕食後は外出禁止、明日は早朝に宿を出発するから良いわね!」
「は~い…」
残念そうにティオロは返事をして2階へと向かう。
ー純白の城
城壁から城の建物の至る場所まで真っ白に染め上げられている事から『純白の城』と言う異名で知られるエルテンシア城、過去周辺諸国に大国が誕生しては幾度となく窮地に陥った事があったが、建国以来一度として滅ぼされる事無く300年もの間、その姿を保ち続けていた。
小王国でありながら難攻不落の城塞、エルテンシアを手中に納めたものこそ、真の大陸の支配者だと周辺諸国に言わしめる程になる。
しかし…その一方で、国内ではリムア姫が消滅してから、王不在の王国となり代理王継承争奪戦の幕が上がり、既に100年近く続いていた。毎年あらゆる強者が出ては消えての繰り返しが行われ、開催場所の闘技場では、民衆達を賑わせる為の催し物として発展していた。
代理王の継承権を得て、即位出来る権限を得られる者も神殿の大神官や神官達によって常に厳選されている。
国内のギルドに参加して魔物狩りするのは異国の者でも自由に参加出来るが、代理王の継承権を得られるのは国内の者でしか参加出来なかった。
更に厳しい条件もあり、誰でも参加出来ると言う安易なものでは無かった。
現在の代理王であるアスレイウも、その争奪戦を潜り抜けて来た1人だった。若干20代半ばで代理の王位を得られた彼は、毎年行われる継承権の争奪戦を3年もの間死守して来た。
王位継承の争奪戦には、国内から並外れた知恵と剛腕に優れた強者達が集い、一筋縄では勝てない者ばかりであった。
彼は、それを見事なまでに打ちのめして、その地位を確保し続けている。代理王継承を始めた時、最初に決めた条文の一節には…『その地位を5年以上確保し、不心無き者であれば、代理では無く誠の王と認める』と記載されていた。
100年近くもの間、あらゆる者が代理王の座に就いたが…3年以上も続いた例が無く、周囲からは『誠の王』誕生かも知れない…と噂が囁かれていた。
エルテンシア城大広間、中央に玉座まで続く長い絨毯、20段程ある階段の最上部に、玉座が置かれ、その玉座まで上がる中央に位置した場所に代理王の椅子が置かれて居た。
何人たりとも、真の玉座に座らせない様に、神官達によって玉座には見えない結界が張れていた。
代理王としての勤めとしてアスレイウは必ず毎日に一度中央の玉座に腰を降ろして、士官や高官達とッ国内の情勢に付いて話し合いをする。
純白城を意識してなのか…彼は常に広間には白い衣服を身に着けて皆の前に現れる。まだ20代半ばであり、若くて輪郭の整った顔立ちだった。彼は常に魔法剣を腰に携えていた。
その日も、話し合いが終わり自分の部屋へと戻ろうとした時だった。近衛兵がアスレイウを呼び止める。
「どうしたのだ?」
「すみません…実は知人と申す者が貴方に、これを渡して欲しいと言って参りまして…」
近衛兵が紐で括られた羊皮紙を差し出す。
「知人…?」
アスレイウは、直ぐにある人物の顔が脳裏に浮かび、急いで羊皮紙を受け取り紐を解いて書かれた文面を読む。
「フ…アイツめ、全くお節介が好きな奴だな…」
普段無表情な、彼が珍しく微笑む顔を見た、側近である女史が物珍しそうに彼を見る。
「何か良い事が書かれていたのですか?」
「どうやら…ギルド登録者の中に本命と思われる者が現れたらしい。最低限の称号を得れれば、いずれは私と相まみえる事となるかも知れない。面白い世の中になって来たものだ」
「はい…?」
女史が首を傾げながら返事をした。アスレイウは女史の事など気にせずに、そのまま自室へと向かって行く。
「おい…」
「何よ!」
リーミアが不機嫌そうな表情でティオロを見た。
「何でギルド集会所に戻るんだよ」
ティオロは買い物が終わったら、宿屋に戻って…次の日まで遊ぶ惚けるつもりだった。
「どうせ貴方の事だから、宿屋に戻れば隙を狙って逃げ出すでしょう。だから…ここで私が貴方に色んな事を教えてやるのよ」
「はあ…何それ?」
集会所に集まっている強者達の一角に空いてるテーブルを見付けると、リーミアは椅子に座り向かい側にティオロを座らせる。
「どう言う事さ…」
面白く無さそうな表情でティオロはリーミアを見た。
「言葉通りの意味よ、貴方の昨日からの行動で大体何を考えているのか、読み取れているから…」
「へえ…そうなの」
負けずとティオロは強がって見せる。
「これまでの貴方の行動から推測すると…お金が懐に入った事で、私が宿に戻れば…貴方は私の目を盗んで逃げ出すでしょうね、そして街で遊び惚けて…。所持金が無くなったら再び私の元に戻って、お金を要求する…と言う行動が予測出来るわね」
「う…」
ほぼ正解の事で、ティオロは反論に戸惑った。
「こう見えても私は修道院で兵法や心理学を学んだ身よ、貴方の様に単純な行動くらい読み取れる事くらい簡単よ」
完全に立ち位置がリーミアの方が上に感じられたティオロは言い返す言葉が無かった。
その時二人の近くで「フフフ」と、笑う人が居た。
彼はリーミア達の側へと寄って来た。
「良いね、君達の仲は…話を聞いてると楽しそうだ」
現れた男性は黒色の三角帽を被り、黒のマントに身を包んだ背丈の大きく、長髪で顎には無精ひげを生やした風変わりな男性だった。
彼はティオロの隣に空いている椅子に腰を降ろす。
「ちょっとセフィーさん、変なこと言わないでくださいよ」
ティオロの言葉にリーミアが少し驚いた様子を見せていた。
「こちらの人と知り合いなの?」
「まあ…コイツとはちょっとした古い仲でね」
セフィーと言う名の男性がリーミアに答える。彼の言葉に対してティオロが引き下がる。
「俺はセフィーと言う者だ、よろしく」
彼はリーミアに向かって自己紹介をする。
「私は…」
リーミアが自己紹介しようとした時、彼が「おっと」と、手を伸ばして彼女の言葉を遮った。
「言わなくても結構、君の名前は知っているから…」
「そう…なの、随分情報が早いのね」
「フ…君は有名人だからね。まあ…少なくとも、このギルド集会所では近くの人が知っていると思うよ」
「そうなの?」
そう答えながらリーミアは周囲を見回した。
セフィーは集会所の店で働いている者に発泡酒を頼む。
「お嬢ちゃん、アンタ見かけに寄らず凄い腕前の様だね」
「それほどでも…」
リーミアが照れながら答える。
「フ…謙遜しなくても良い、君の事は昨日レンティ占術師から聞いたよ」
その言葉にリーミアは少し驚いた表情でセフィーを見た。
「何か目的があって、私に近付いて来たの?」
「いや…そんな事は無い、ただ…俺としてはちょっと助言しようと思ってね…」
「助言…?」
「まあ、そうだな…例えばこんな奴を頼るよりも、もっと期待出来る人を雇った方が身の為とか…」
セフィーはティオロを指して言う。
「彼には貸しがあるので、しばらく雇っているだけですが…」
「おやおや…そうなのか、まあ…別に無理に要求している訳では無いのだから、君が良ければそれも構わないさ」
セフィーが話してる間に発泡酒がテーブルに置かれ、彼はそれを一口飲んで、リーミアを見た。
「嬢ちゃんが持っている短剣、ちょっとを見せてくれるかな?」
「構わないけど…」
リーミアは、不信に思いながらも短剣をテーブルの上に置く。
セフィーは短剣を手にして、剣を鞘から引き抜こうとするが、剣は抜け無かった。
「噂通りの名剣だ…。所有者にしか扱え無いとはな…」
そうながらセフィーは短剣をリーミアの方に戻す。
「良かったら、短剣を鞘から抜いたのを見せてくれるかな?」
リーミアは少し迷いながら「はい」と、返事をして短剣をゆっくりと鞘から抜いた。
短い鞘の中からは、まるで別物の様に長く伸びた長剣が出てきた。
「ほお…これがテリオンの剣ならではの能力か…」
セフィーは改めて剣を手にして眺める。
「剣の輝き、刃先も見事に研ぎ澄まされた一品物だ。これだけの物腰と輝きがありながら、重くなく…刃先が鋭い、切られた相手は痛みすら感じる事無く倒されるだろう…」
セフィーは剣をリーミアに戻すと、発泡酒を再び口にして改めてリーミアを見た。
「嬢ちゃんの、武器はかなりの物だ…多分、同じ武器を手にしてる物はいないだろう…。だが、それは野営地での魔物相手での事だな」
その言葉にリーミアはピクッと反応した。
「それはつまり…?」
「テリオンの剣は、様々な種類の魔法剣の原点とも言われている。剣は生き血を吸って魔力源に変え、所有者は剣を鞘から抜く度に体力を消耗させる…と言った絶大な威力の反面、リスクの伴う武器でもある。何よりも嬢ちゃんは体が細い。ドラゴンの様に硬い鱗を持った相手や…同じ魔法剣で体力のある相手等、長期戦等では…不利になる場面が出てくると思う」
その言葉にティオロは数日前にレンティ占術師の言葉を思い出す。
(あの娘が必要以上に聖魔剣を使わせるのは本人にとって大きな負担へとなるのは確実だと思うがな…)
リーミアはリスクを背負いながら危険を冒しているのかもしれない…、そう思いながらティオロはリーミアを見ると、彼女が少し震えている様にも思えた。
それを見たティオロはセフィーに向かって言う。
「ちょっとセフィー、少し言い過ぎじゃない?」
「別に俺は本当の事を言っただけだが…。大体、王位継承権を得ようとしてギルドに入ったのだろう?だったら安物の武器を購入するよりも、もっと自分に見合った道具を用意すべきじゃないかな?」
「安物?」
そう思ってティオロはリーミアの魔法の杖を見た。自分の武器防具と一緒に買った彼女の魔法の杖は、それだけでも金貨100枚した高価な杖だった。
「あれだけでも金貨100枚したんだぞ、決して安くは無いぞ!」
「だから…何だ?露店で売買されてる魔法剣は、安くても金貨1000枚は下らない。現在代理王を務める者は魔術師に協力を得て、独自の魔法剣を造り上げたらしい…その製造費には総額で金貨10万枚を費やしたと言われる…。いずれこの先、王位継承権で覇を争うになる時、テリオンの剣だけでは不利になると思う、せめて相応しい予備の武器を持った方が嬢ちゃんには良いと思うがね…。まあ、今のままで満足しているのなら、それも構わないさ…」
セフィーは発泡酒を飲み終えると席を立つ。
「まあ…俺が必要になったら何時でも声を掛けてくれ。今は別の事をしているが…こう見えても昔はギルドに参加して、野営地で狩りをしていた身だ。一応水晶の称号を持っている、少なくともコイツ何かよりは役に立つけどな」
セフィーは「コイツ」と言う時にティオロを指した。
ムスッとしながらティオロはセフィーを睨んだ。
リーミアは少し考え込んだ表情でセフィーが立ち去って行く後ろ姿を見ていた。
その傍ら、ティオロが「あー!」と、突然大声を出す。驚いたリーミアは振り返り、ティオロを見る。
「何よ、突然大声を出して?」
「アイツ酒代払わずに出て行きやがったー!」
ティオロは飲み代の伝票を手に持って言う。
それを見たリーミアはセフィーと言う風変わりな男性を信用して良いのか…少し迷った。
~宿屋…
リーミアとティオロは、ギルド集会所を出てマネニーゼ市場を歩き、宿屋へと戻って行く。
「あら、お帰りなさい~」
ルナは2人を見て声を掛ける。宿屋に入った2人はルナ達が、自分達の帰宅に合わせて夕食の支度をしている事に気付いた。
彼等の姿を見たリーミアはティオロの腰にぶら下げた金貨の入った皮の袋を奪い取った。
「あ、何するのだよ!」
「うるさいわね、これは私のお金よ」
そう言われると、ティオロは反論出来なくなる。
「すみませんが…こちらのお金、預かってくれますか?」
「え…構わないけど?」
ルナは不思議そうな表情で、皮の袋を受け取る。
「預けるだけだからね、中身くすねたりしないでよ!」
ティオロは悔しそうな表情でルナ達に言う。
「取り敢えず荷物を置いて来なさい。夕食後は外出禁止、明日は早朝に宿を出発するから良いわね!」
「は~い…」
残念そうにティオロは返事をして2階へと向かう。
ー純白の城
城壁から城の建物の至る場所まで真っ白に染め上げられている事から『純白の城』と言う異名で知られるエルテンシア城、過去周辺諸国に大国が誕生しては幾度となく窮地に陥った事があったが、建国以来一度として滅ぼされる事無く300年もの間、その姿を保ち続けていた。
小王国でありながら難攻不落の城塞、エルテンシアを手中に納めたものこそ、真の大陸の支配者だと周辺諸国に言わしめる程になる。
しかし…その一方で、国内ではリムア姫が消滅してから、王不在の王国となり代理王継承争奪戦の幕が上がり、既に100年近く続いていた。毎年あらゆる強者が出ては消えての繰り返しが行われ、開催場所の闘技場では、民衆達を賑わせる為の催し物として発展していた。
代理王の継承権を得て、即位出来る権限を得られる者も神殿の大神官や神官達によって常に厳選されている。
国内のギルドに参加して魔物狩りするのは異国の者でも自由に参加出来るが、代理王の継承権を得られるのは国内の者でしか参加出来なかった。
更に厳しい条件もあり、誰でも参加出来ると言う安易なものでは無かった。
現在の代理王であるアスレイウも、その争奪戦を潜り抜けて来た1人だった。若干20代半ばで代理の王位を得られた彼は、毎年行われる継承権の争奪戦を3年もの間死守して来た。
王位継承の争奪戦には、国内から並外れた知恵と剛腕に優れた強者達が集い、一筋縄では勝てない者ばかりであった。
彼は、それを見事なまでに打ちのめして、その地位を確保し続けている。代理王継承を始めた時、最初に決めた条文の一節には…『その地位を5年以上確保し、不心無き者であれば、代理では無く誠の王と認める』と記載されていた。
100年近くもの間、あらゆる者が代理王の座に就いたが…3年以上も続いた例が無く、周囲からは『誠の王』誕生かも知れない…と噂が囁かれていた。
エルテンシア城大広間、中央に玉座まで続く長い絨毯、20段程ある階段の最上部に、玉座が置かれ、その玉座まで上がる中央に位置した場所に代理王の椅子が置かれて居た。
何人たりとも、真の玉座に座らせない様に、神官達によって玉座には見えない結界が張れていた。
代理王としての勤めとしてアスレイウは必ず毎日に一度中央の玉座に腰を降ろして、士官や高官達とッ国内の情勢に付いて話し合いをする。
純白城を意識してなのか…彼は常に広間には白い衣服を身に着けて皆の前に現れる。まだ20代半ばであり、若くて輪郭の整った顔立ちだった。彼は常に魔法剣を腰に携えていた。
その日も、話し合いが終わり自分の部屋へと戻ろうとした時だった。近衛兵がアスレイウを呼び止める。
「どうしたのだ?」
「すみません…実は知人と申す者が貴方に、これを渡して欲しいと言って参りまして…」
近衛兵が紐で括られた羊皮紙を差し出す。
「知人…?」
アスレイウは、直ぐにある人物の顔が脳裏に浮かび、急いで羊皮紙を受け取り紐を解いて書かれた文面を読む。
「フ…アイツめ、全くお節介が好きな奴だな…」
普段無表情な、彼が珍しく微笑む顔を見た、側近である女史が物珍しそうに彼を見る。
「何か良い事が書かれていたのですか?」
「どうやら…ギルド登録者の中に本命と思われる者が現れたらしい。最低限の称号を得れれば、いずれは私と相まみえる事となるかも知れない。面白い世の中になって来たものだ」
「はい…?」
女史が首を傾げながら返事をした。アスレイウは女史の事など気にせずに、そのまま自室へと向かって行く。
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