28 / 47
第4章 芳しい花には裏がある
1.早くしないと
しおりを挟む
二日間の休みが明けて、今日からまた授業が始まる。
私とミーチャは身支度を整えて、いつものようにリアンさんとウィリアムさんと共に、食堂で朝食を済ませた。
「ねえレティシア。あれ、ちょっと……」
隣のミーチャが小声で囁き、ある方向を指差して言う。
その先には、一人で食事をしているサーナリアさんの姿があった。
普段なら、彼女の周りには取り巻き連中が居たはずだ。
「先週のアレが原因だろうな」
ウィリアムさんが言った『アレ』とは、やはり私と彼女の虐め問題の事だろう。
授業が無かったこの二日間、私は学校の敷地内で出会ったクラスメイトに、彼女との件は全くの誤解だったと説明していた。
その中にはサーナリアさんの取り巻きも何人か含まれていたのだが、彼女はすっかり孤立してしまっている。
ああなってしまったのは私にも原因があるから、どうにかしてあげないと……。
「誤解だったっていうのに、何でサーナリアがぼっちにならなきゃいけないんだろうなぁ。なあ、昼はあの子も誘ってみようぜ!」
「マジか。いやまあ、レティシアが良いなら俺も文句は言わねぇけど」
「誘いを受けてくれるかは分かりませんけれど、試してみる価値はあるかもしれませんわね」
教室に着いても、彼女は一人のままだった。
私は朝の会でアレク先生に発言の機会を貰い、サーナリアさんと一緒に私への嫌がらせの件について説明させてもらった。
既に互いの誤解はとけていて、関係は修復した。先日は騒がせてしまって済まなかった、と簡単に言うならこう伝えた事になる。
一応はそれで全員納得してくれたようだけれど、クラスの雰囲気はまるっきり元通りとまではいかないのだろう。
いずれ時間が経てば皆忘れてくれるかもしれない。かなり待たなければならないのは確実だけれど、これで先日の件が解決するならそれが一番良い。
そして、昼休みがやって来た。
「サーナリアさん」
私と一緒に、ミーチャ達も彼女の机を囲むように集まり、今朝リアンさんが言っていたようにサーナリアさんを昼食に誘う事にした。
こうなるとは予想していなかったらしいサーナリアさんは、突然やって来た私達の顔を見回して戸惑っている。
「な、なんですか? あの、わたしに何のご用で……」
「ごめんなさい、貴女を困らせたい訳ではありませんの。もし宜しかったら、私達とお昼をご一緒しませんか?」
「お昼、ですか……?」
「そうそう! レティシアに聞いたぜ~。キミってあのケント先輩の妹なんだろ? それならもうオレ達とは知り合いっていうか、友達みたいなモンじゃん? だから一緒に昼飯でもどうかなーってみんなで話しててさ」
「どうかな、サーナリアさん」
「無理にとは言わねぇさ」
私達の言葉を受けた彼女は、不安そうに私の顔を見上げた。
「良いんですか? わたしなんかがお邪魔して……」
「邪魔だと思っていたらそもそも誘いませんわ。ほら、食堂が混む前に決めて下さいな」
「い、行きます! あの、ええと……お誘いしていただいて、とても……嬉しいですっ」
椅子から勢い良く立ち上がったサーナリアさん。
すると、ミーチャは彼女の手を引いてこう言った。
「じゃあ決まりですね! はい、さっさか食堂へレッツゴー!」
「え、あ、はい!」
グイグイとサーナリアさんとの距離を縮めていくミーチャに、私は思わず笑いを零す。
リアンさんは安心したように二人を眺めた後、私とウィリアムさんに顔を向けた。
「また友達が増えたな! これからまた賑やかになりそうだぜ」
「まあ、女子が増えるなら良いか。んじゃ、俺達も行くとすっか」
「ええ、行きましょう」
こうやって少しずつ、学校での生活が充実していけば良い。
そんな事を思いながら、私は二人と一緒にサーナリアさん達の後を追うのだった。
******
今日の昼はオレ、レティシア、ウィリアムの順に並んで飯を済ませた。
向かいには少し緊張しているようなサーナリアと、それをリラックスさせるような感じでミーチャが話題を振って盛り上げていた。
新しい人も一緒に食卓を囲むと、いつもと違ったふいんき……じゃなくて、雰囲気で楽しめて良いよな。
サーナリアも最後にはちょっとだけ笑ってくれて、若干だけどみんなと仲良くなってくれたみたいで本当に良かった。
昼休みが終わると、一年と三年の合同授業の為に講堂に集まる事になった。
クラス別に並んで着席する。座る順番は自由だったから、オレはすぐにレティシアの隣をゲットした。
またしてももう片側はウィリアムが確保していたけど、レティシアが座った位置がはじっこの席じゃなくて良かった。じゃないと一人しか隣に座れなくなるからな。
レティシアの近くに居ると良い匂いがするから、何か落ち着く。オレの鼻が良いから余計にそう思うのかもしれない。
昼休みが終わる頃には、講堂に全ての一、三年生クラスの生徒が集合した。
この中のどこかにケント先輩とウォルグ先輩が居るんだろうけど、人が多くてよく分からなかった。
「なあなあ、これってオレ達何の為に集められてるんだ?」
隣のレティシアにそう訊ねると、すぐに彼女は答えてくれた。
「先週ケントさんが仰っていたパートナーの件ですわ。それに、朝の会でもアレク先生が連絡していたはずですけれど……」
「連絡事項ぐらいちゃんと聞いとけよ、リアン。そんなんでまともに進級出来んのかぁ?」
「うるさいなぁ! ウィルなんかにとやかく言われたくないっつの!」
「リアンさん、あまり大きな声を出さないで。アレク先生がじっとこちらに目を向けていますわよ」
彼女に言われて、ふと前の方に顔を向ける。
何人か前に並んだ先生達の中で、真っ直ぐにオレだけを見つめる視線──物凄い迫力でガン見してくるアレク先生を見て、オレはビビった。
身体が凍ったように、姿勢良く背筋を伸ばしてしまう。
「ご、ごめん。静かにするよ」
「それが一番ですわね」
ぎゅっと唇を結んで黙ると、ウィリアムに鼻で笑われた。この授業が終わったら覚えとけよ。
授業開始の鐘が鳴り、アレク先生の隣に居た男の先生が一歩前に出た。
爽やかな水色の髪のその人は、別の学年の授業をやっている先生なんだろうか。見覚えが無いなぁ。
「皆さんこんにちは。一年生の皆さんとは初めましての方が多いですね。俺は高学年の魔物科目を担当している、ヘンリー・ジョーンズと申します。今回皆さんにお集まり頂いたのは、来週から始まるチーム制魔物討伐授業にあたっての説明と、パートナー申請についてのお話が目的です」
レティシアが言ってた通りだ。
ヘンリー先生はアレク先生とは正反対で、優しそうな印象の人だなと感じる。
「ここに並んだ先生方は、俺と同じ魔物科目を教えるアレク先生を始め、魔法・武術・回復という主要四科目を担当なさっている先生方です。このセイガフでは、将来ギルドや騎士団に所属する人材を多く排出する特色があるのはご存知ですよね? ギルドでも騎士団でも、勿論それ以外の職に就いたとしても、魔物から被害を被るのは避けられない事でしょう。そんな時、様々な魔物に対処出来る者を育成すべく誕生したのがこの学校です」
うんうん、うちのオヤジも同じ事言ってたなぁ。
だからオレもここに入学したワケだし、知ってて当たり前だよな。
「設立当初から現在まで続いている、魔物討伐の授業。二年生からは選択科目にもなっている授業なのですが、選択授業の方では同学年で少数の班を組んで行動するのに対し、今回説明するチーム制討伐授業では上級生と下級生がタッグを組み、討伐する魔物に応じたチームを編成する決まりがあります。討伐難易度によって様々な二人組を集め、大規模なチームを編成して強大な魔物を討つ経験を得る事。そして、魔物に日常生活を脅かされている地域の人々の役に立つ事。この二つが、この授業で到達すべき最終目標となっています」
一年生は三年生と組んで、先輩が卒業したら今度はオレ達が新しい一年生とチームを組む。
先輩から学んだ事を後輩に伝えて、学校での四年間で得た経験を未来に活かす。
オレのオヤジもそうやってここを卒業して、ギルドに所属して魔物と戦ってたんだ。今でもオヤジは強いけど、きっと学生時代から頑張ってたからそうなったんだろうな。
オレも、そんな風になりたい。
「可能であれば五時限目のこの時間内に、パートナーを決めて下さい。相手は先輩・後輩の関係であれば、誰を選んでも構いません。ただし、チームの掛け持ちは出来ませんよ? 誰と組むか決めた生徒は、パートナー申請の用紙を俺から受け取って下さい。二人のサインを記入し、誰でも良いので先生に提出して下さい。今すぐに決められないという人は、今週末までに提出するようお願いしますね」
ヘンリー先生の話が終わると、みんな席を立ち上がってパートナー探しが始まった。
どうしよう。誰に組んでもらえば良いんだろう。
相談しようと思って隣を見ると、レティシアは姿を消していた。そういえばウォルグ先輩からパートナーの誘いがあったもんな。
じゃあウィルは……
「お、居た居た! おーいケントー! 俺とパートナー組んでくれー!」
大きく手を振りながら、人混みの中を抜けてきたケント先輩にウィルが叫んだ。
「僕をご指名かい? 理由を聞かせてもらっても良いかな」
何とかこっちにやって来た先輩は、ウィルに笑いかけながらそう言った。
「知ってる三年で一番魔法が強そうだったからだな」
「随分シンプルな理由だね。そういう君は、どこが強みなのかな?」
「魔力のコントロールはかなり良いぜ。燃費も良い方だ。自分で言うのも何だが、こんなんでも一応特待生として入学しててな。実力はあるんだぜ?」
「ええぇー!? お前が特待生って、そんなの初めて聞いたぞ!」
「あれ、言ってなかったっけか? まあ、うん。そういうこった」
「どういうこったよ!?」
ウィルが特待生って、オレはこいつに酷い目にあわされたってのに……!
世の中って、理不尽だなぁ……。
「……ふむ。それだけ優秀だというのなら、パートナーのお誘いを受けても良いかもしれないね」
「俺を評価した理由はそれだけか?」
特待生だと言われてもリアクションが薄いケント先輩。
もしかしたら先輩も特待生入学だったりするのかな? だからそんなに驚いてないのかも。
「……僕の戦闘スタイルを補う、良いパートナーになりそうだと思ったんだ。君は確か魔法銃の使い手なんだろう? 良い身体をしているから、体術も得意そうに見える。接近戦でも問題無く戦える人を選ぼうと思っていたから、もし僕の見立て通りなら理想的な相手かもしれないからね」
「アンタの言う通りだ。互いに理想のパートナーになれそうだな」
「ふふっ、そうだね。それじゃあ早速ヘンリー先生から用紙を受け取ってこようか。こんなにすぐ良い相手に声を掛けられるとは思わなかったよ」
オレの目の前でトントン拍子で話が進み、二人は行ってしまった。
どうしよう。知ってる三年生の二人は、それぞれオレの友達のパートナーになってしまった。
見付かるかなぁ、オレのパートナー……。
私とミーチャは身支度を整えて、いつものようにリアンさんとウィリアムさんと共に、食堂で朝食を済ませた。
「ねえレティシア。あれ、ちょっと……」
隣のミーチャが小声で囁き、ある方向を指差して言う。
その先には、一人で食事をしているサーナリアさんの姿があった。
普段なら、彼女の周りには取り巻き連中が居たはずだ。
「先週のアレが原因だろうな」
ウィリアムさんが言った『アレ』とは、やはり私と彼女の虐め問題の事だろう。
授業が無かったこの二日間、私は学校の敷地内で出会ったクラスメイトに、彼女との件は全くの誤解だったと説明していた。
その中にはサーナリアさんの取り巻きも何人か含まれていたのだが、彼女はすっかり孤立してしまっている。
ああなってしまったのは私にも原因があるから、どうにかしてあげないと……。
「誤解だったっていうのに、何でサーナリアがぼっちにならなきゃいけないんだろうなぁ。なあ、昼はあの子も誘ってみようぜ!」
「マジか。いやまあ、レティシアが良いなら俺も文句は言わねぇけど」
「誘いを受けてくれるかは分かりませんけれど、試してみる価値はあるかもしれませんわね」
教室に着いても、彼女は一人のままだった。
私は朝の会でアレク先生に発言の機会を貰い、サーナリアさんと一緒に私への嫌がらせの件について説明させてもらった。
既に互いの誤解はとけていて、関係は修復した。先日は騒がせてしまって済まなかった、と簡単に言うならこう伝えた事になる。
一応はそれで全員納得してくれたようだけれど、クラスの雰囲気はまるっきり元通りとまではいかないのだろう。
いずれ時間が経てば皆忘れてくれるかもしれない。かなり待たなければならないのは確実だけれど、これで先日の件が解決するならそれが一番良い。
そして、昼休みがやって来た。
「サーナリアさん」
私と一緒に、ミーチャ達も彼女の机を囲むように集まり、今朝リアンさんが言っていたようにサーナリアさんを昼食に誘う事にした。
こうなるとは予想していなかったらしいサーナリアさんは、突然やって来た私達の顔を見回して戸惑っている。
「な、なんですか? あの、わたしに何のご用で……」
「ごめんなさい、貴女を困らせたい訳ではありませんの。もし宜しかったら、私達とお昼をご一緒しませんか?」
「お昼、ですか……?」
「そうそう! レティシアに聞いたぜ~。キミってあのケント先輩の妹なんだろ? それならもうオレ達とは知り合いっていうか、友達みたいなモンじゃん? だから一緒に昼飯でもどうかなーってみんなで話しててさ」
「どうかな、サーナリアさん」
「無理にとは言わねぇさ」
私達の言葉を受けた彼女は、不安そうに私の顔を見上げた。
「良いんですか? わたしなんかがお邪魔して……」
「邪魔だと思っていたらそもそも誘いませんわ。ほら、食堂が混む前に決めて下さいな」
「い、行きます! あの、ええと……お誘いしていただいて、とても……嬉しいですっ」
椅子から勢い良く立ち上がったサーナリアさん。
すると、ミーチャは彼女の手を引いてこう言った。
「じゃあ決まりですね! はい、さっさか食堂へレッツゴー!」
「え、あ、はい!」
グイグイとサーナリアさんとの距離を縮めていくミーチャに、私は思わず笑いを零す。
リアンさんは安心したように二人を眺めた後、私とウィリアムさんに顔を向けた。
「また友達が増えたな! これからまた賑やかになりそうだぜ」
「まあ、女子が増えるなら良いか。んじゃ、俺達も行くとすっか」
「ええ、行きましょう」
こうやって少しずつ、学校での生活が充実していけば良い。
そんな事を思いながら、私は二人と一緒にサーナリアさん達の後を追うのだった。
******
今日の昼はオレ、レティシア、ウィリアムの順に並んで飯を済ませた。
向かいには少し緊張しているようなサーナリアと、それをリラックスさせるような感じでミーチャが話題を振って盛り上げていた。
新しい人も一緒に食卓を囲むと、いつもと違ったふいんき……じゃなくて、雰囲気で楽しめて良いよな。
サーナリアも最後にはちょっとだけ笑ってくれて、若干だけどみんなと仲良くなってくれたみたいで本当に良かった。
昼休みが終わると、一年と三年の合同授業の為に講堂に集まる事になった。
クラス別に並んで着席する。座る順番は自由だったから、オレはすぐにレティシアの隣をゲットした。
またしてももう片側はウィリアムが確保していたけど、レティシアが座った位置がはじっこの席じゃなくて良かった。じゃないと一人しか隣に座れなくなるからな。
レティシアの近くに居ると良い匂いがするから、何か落ち着く。オレの鼻が良いから余計にそう思うのかもしれない。
昼休みが終わる頃には、講堂に全ての一、三年生クラスの生徒が集合した。
この中のどこかにケント先輩とウォルグ先輩が居るんだろうけど、人が多くてよく分からなかった。
「なあなあ、これってオレ達何の為に集められてるんだ?」
隣のレティシアにそう訊ねると、すぐに彼女は答えてくれた。
「先週ケントさんが仰っていたパートナーの件ですわ。それに、朝の会でもアレク先生が連絡していたはずですけれど……」
「連絡事項ぐらいちゃんと聞いとけよ、リアン。そんなんでまともに進級出来んのかぁ?」
「うるさいなぁ! ウィルなんかにとやかく言われたくないっつの!」
「リアンさん、あまり大きな声を出さないで。アレク先生がじっとこちらに目を向けていますわよ」
彼女に言われて、ふと前の方に顔を向ける。
何人か前に並んだ先生達の中で、真っ直ぐにオレだけを見つめる視線──物凄い迫力でガン見してくるアレク先生を見て、オレはビビった。
身体が凍ったように、姿勢良く背筋を伸ばしてしまう。
「ご、ごめん。静かにするよ」
「それが一番ですわね」
ぎゅっと唇を結んで黙ると、ウィリアムに鼻で笑われた。この授業が終わったら覚えとけよ。
授業開始の鐘が鳴り、アレク先生の隣に居た男の先生が一歩前に出た。
爽やかな水色の髪のその人は、別の学年の授業をやっている先生なんだろうか。見覚えが無いなぁ。
「皆さんこんにちは。一年生の皆さんとは初めましての方が多いですね。俺は高学年の魔物科目を担当している、ヘンリー・ジョーンズと申します。今回皆さんにお集まり頂いたのは、来週から始まるチーム制魔物討伐授業にあたっての説明と、パートナー申請についてのお話が目的です」
レティシアが言ってた通りだ。
ヘンリー先生はアレク先生とは正反対で、優しそうな印象の人だなと感じる。
「ここに並んだ先生方は、俺と同じ魔物科目を教えるアレク先生を始め、魔法・武術・回復という主要四科目を担当なさっている先生方です。このセイガフでは、将来ギルドや騎士団に所属する人材を多く排出する特色があるのはご存知ですよね? ギルドでも騎士団でも、勿論それ以外の職に就いたとしても、魔物から被害を被るのは避けられない事でしょう。そんな時、様々な魔物に対処出来る者を育成すべく誕生したのがこの学校です」
うんうん、うちのオヤジも同じ事言ってたなぁ。
だからオレもここに入学したワケだし、知ってて当たり前だよな。
「設立当初から現在まで続いている、魔物討伐の授業。二年生からは選択科目にもなっている授業なのですが、選択授業の方では同学年で少数の班を組んで行動するのに対し、今回説明するチーム制討伐授業では上級生と下級生がタッグを組み、討伐する魔物に応じたチームを編成する決まりがあります。討伐難易度によって様々な二人組を集め、大規模なチームを編成して強大な魔物を討つ経験を得る事。そして、魔物に日常生活を脅かされている地域の人々の役に立つ事。この二つが、この授業で到達すべき最終目標となっています」
一年生は三年生と組んで、先輩が卒業したら今度はオレ達が新しい一年生とチームを組む。
先輩から学んだ事を後輩に伝えて、学校での四年間で得た経験を未来に活かす。
オレのオヤジもそうやってここを卒業して、ギルドに所属して魔物と戦ってたんだ。今でもオヤジは強いけど、きっと学生時代から頑張ってたからそうなったんだろうな。
オレも、そんな風になりたい。
「可能であれば五時限目のこの時間内に、パートナーを決めて下さい。相手は先輩・後輩の関係であれば、誰を選んでも構いません。ただし、チームの掛け持ちは出来ませんよ? 誰と組むか決めた生徒は、パートナー申請の用紙を俺から受け取って下さい。二人のサインを記入し、誰でも良いので先生に提出して下さい。今すぐに決められないという人は、今週末までに提出するようお願いしますね」
ヘンリー先生の話が終わると、みんな席を立ち上がってパートナー探しが始まった。
どうしよう。誰に組んでもらえば良いんだろう。
相談しようと思って隣を見ると、レティシアは姿を消していた。そういえばウォルグ先輩からパートナーの誘いがあったもんな。
じゃあウィルは……
「お、居た居た! おーいケントー! 俺とパートナー組んでくれー!」
大きく手を振りながら、人混みの中を抜けてきたケント先輩にウィルが叫んだ。
「僕をご指名かい? 理由を聞かせてもらっても良いかな」
何とかこっちにやって来た先輩は、ウィルに笑いかけながらそう言った。
「知ってる三年で一番魔法が強そうだったからだな」
「随分シンプルな理由だね。そういう君は、どこが強みなのかな?」
「魔力のコントロールはかなり良いぜ。燃費も良い方だ。自分で言うのも何だが、こんなんでも一応特待生として入学しててな。実力はあるんだぜ?」
「ええぇー!? お前が特待生って、そんなの初めて聞いたぞ!」
「あれ、言ってなかったっけか? まあ、うん。そういうこった」
「どういうこったよ!?」
ウィルが特待生って、オレはこいつに酷い目にあわされたってのに……!
世の中って、理不尽だなぁ……。
「……ふむ。それだけ優秀だというのなら、パートナーのお誘いを受けても良いかもしれないね」
「俺を評価した理由はそれだけか?」
特待生だと言われてもリアクションが薄いケント先輩。
もしかしたら先輩も特待生入学だったりするのかな? だからそんなに驚いてないのかも。
「……僕の戦闘スタイルを補う、良いパートナーになりそうだと思ったんだ。君は確か魔法銃の使い手なんだろう? 良い身体をしているから、体術も得意そうに見える。接近戦でも問題無く戦える人を選ぼうと思っていたから、もし僕の見立て通りなら理想的な相手かもしれないからね」
「アンタの言う通りだ。互いに理想のパートナーになれそうだな」
「ふふっ、そうだね。それじゃあ早速ヘンリー先生から用紙を受け取ってこようか。こんなにすぐ良い相手に声を掛けられるとは思わなかったよ」
オレの目の前でトントン拍子で話が進み、二人は行ってしまった。
どうしよう。知ってる三年生の二人は、それぞれオレの友達のパートナーになってしまった。
見付かるかなぁ、オレのパートナー……。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
比べないでください
わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」
「ビクトリアならそんなことは言わない」
前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。
もう、うんざりです。
そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる