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王立魔法学園編Ⅰ

潰してやんよ!

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 ゴウ!

 私は身体が痺れて声も出せない状況なので目の前に現れた黄金の鎧を身に纏う彼の姿を見て驚くだけ。
 彼の放った魔法は魔物をぐるりと円を描くように封じ込めている。

 植物に炎は天敵だ。
 魔物の蔓は炎の壁から脱出するも人の手のようにバタバタとさせもがき苦しんでいた。
 その光景を見ていると段々とだが身体の痺れがとれ、身動きが取れるようになってくる。

「マリア、大丈夫か?」

 ゴウは私に駆け寄りしゃがみながら訊ねてくる。
 
「私は大丈夫だけど、ゴウの方こそ大丈夫なの?」

 お尻が。治ってないのならしゃがむのも結構辛そうだ。

「あぁ、問題ない」

 とは言っているがお尻部分の布は破けており白のブリーフが顔を出している。
 果たしてそのことに彼は気付いているのかどうか分からないけど教えない方がいいよね。

「あの魔物は?」
「分からない。俺様も初めて見る。だが俺様の炎の壁の前にはあんな魔物無力──」

 私が魔物について訊ねると、ゴウは立ち上がり首を左右に振って炎の壁を見つめながら腰に手を当て偉そうにポーズを決めようとした瞬間、魔物は蔓を再生させると同時に炎の壁を消し去った。

「も、もう一度だ!」

 ゴウは再び魔物を囲み込む炎の壁を展開する。
 二度目も初めはもがき苦しんでいたが、さらに蔓の量を増やし難なく炎の壁を消し去ってしまう。
 そのやり取りがさらに二度ほど続いた。

 ──すると、魔物は炎に絶対的なる耐性を手に入れてしまったのか物怖じせずに蔓を使ってゴウを巻取ってしまう。

「──うわぁぁぁぁ!?」
「ゴウ!」

 まだいつものように素早く動けない私はゴウが連れ去られるのを見守ることしか出来ない。
 今の私が行ったって二の舞になるだけだ。

 ……何か、何か案はないのだろうか。

「そうだ! ヒックさん!」

 私はブレスレットに向かって必死にヒックさんの名前を呼ぶ。
 何度も私を召喚? ワープ? してくれているのでヒックさんがこっちにやって来てくれることも可能なのではないだろうか。
 どちらにせよ今の私は誰に縋ることしか出来ない。

「何をしているんですの?」
「さぁ?」

 後ろから不思議そうなセシリーとミオの会話が聞こえるがお構い無しに私は必死に何度も何度もブレスレットに向かって話し掛ける。

 別に友達でもない。ただのクラスメイトであるゴウ。
 だけど目の前で彼の死ぬ姿なんて見たくはなかった。
 ううん、クラスメイトだからどうかなんて関係ない。
 人が死ぬ姿なんて見たくないんだ。

『マリアちゃん……』
「ヒックさん!」

 私の願いが届いたのかブレスレットはほんのりと青白い光を放ち、ヒックさんの微かな声が聞こえ始める。

『残念だけど、僕は助けに迎えない』
「どうして!?」

 ヒックさんは少し悔しそうな声音で呟いた。

 やっぱり私がヒックさんの元に向かうのは可能だけど、その逆は出来ないのだろうか。
 反射で訊ねてしまったがヒックさんを責めているようにも聞こえてしまう。
 それよりもゴウを助けてあげる手段が見つからない悲しさが勝る。

『そんなに悲観しなくても大丈夫。ブレスレットに魔力を込めたから今のマリアちゃんでもあの魔物を倒すことが出来ると思うよ。身体が軽くなったでしょ?』

 私の心中を察したのか優しい声音でブレスレットに力を込めてくれたことと私の身体が軽くなったことを訊ねられる。
 言われてみれば確かに身体が決闘をする前よりも軽い気がする。
 自己暗示ならぬ他者暗示かもしれないが、急がなければ今にもゴウはくそ花に飲み込まれようとしていた。

「──ハァ!!!」
 
 私はがむしゃらにくそ花に向かって突っ走る。
 幸いにもくそ花はゴウに夢中で痺れていた私が向かってくるだなんて夢にも思っていないでしょうね。

 目にも留まらぬ速さで飛び上がり、すぐさまくそ花にの目を木剣で一つ一つ潰していく。
 その際に人とは違う紫色の鮮血が吹き荒れるが今の私には血を見た恐怖よりもゴウを助けたいという気持ちが勝る。

 くそ花も馬鹿じゃない。
 ゴウを捕まえたまま私に向かってさっきと同じ痺れ粉を振りまく。
 私に躱す余裕は微塵もない。

「──くたばれぇぇぇーーー!!!」

 くそ花の目はあと一つ。
 私が痺れて動けなくなるか、くそ花の目が潰れて見えなくなるか。
 次第に痺れ始める身体に鞭を打ち木剣を振るう。

 ──そうして私は動けなくなり意識が遠のいていく。
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