22 / 81
第2章 乙女ゲームの世界で
9:王太子の親友たちの来訪2
しおりを挟む
風も陽も終日優しかったその日の夕刻間近。
王太子の親友たちはやって来た。
ただ12人もいた。
父上の策が決まった後、こちらは精一杯歓待しますとの返信を出しておった。
すると、それに対して、到着日を報せる手紙が来て、5人で訪れますということだったけど。
ずい分、増えた訳だ。
とはいえ、そのこと自体は、なじるべき事柄ではなかった。
――ただ相手が猟を楽しむためだけに来たのならば。
そして日が沈みきらぬうちに、客の申し出のままに、夕の宴が始まった。
ただ、こちらも条件を一つ付ける。
せっかく、この離れで宴をするなら、この燭台のロウソクだけでしましょうよと。
後は月明かりが補ってくれるわと。
これはお二人の提案によるものだった。
その際、ゴリねえは次の如く付け加えた。
「私たち2人は夜目が利きますので、エリザベト様はどうぞご安心ください」と。
無論、私は反対しなかった。
正直、全ておまかせであった。
それに加えて、お二人が私に注意したのは2点。
この席に留まること。
テーブルの下は触らないこと。
前者はよく分かるが、後者は?
でも聞いたら聞いたで恐そうなので、ただうなずいた。
相手は、ワインをたくさん持って来ておった。
自らもがぶ飲みしながら、私にも勧めてくる。
断る訳にも行かないが、無論、飲む気もない。
舌を湿らすのみで、ごまかす。
相手は徐々に下卑た動きに出た。
ただ私にではない。
チイねえに対してであった。
チイねえは、給仕としてこちらが用意した料理と飲み物を配るために、どうしても客の間近を通らなければならなかった。
最初は「ねえちゃん。男は知っているのか?」
やがて「どうだい。今夜、俺と」
そしてついには、なにかとチイねえの尻を触る。
胸の方は、チイねえがガッチリ腕でガードしておった。
ただこれは男であることがバレないようにとの、用心ゆえと私には想われた。
なにせ、結構、尻の方はさわられ放題であった。
さすが、父上に選ばれるだけの者。
まったく気にしていない
・・・・・・なんてことはなかったと、この後すぐに知るのだけど。
そりゃあ、さわられ放題なんてされたら、誰だって怒るわよね。
日が暮れ行くにつれ、
――私の近くに置かれた燭台の周りのみが、何とか灯りがあるという状況となり、
――そして部屋の中ほどはほぼ暗闇にしずみ、
――部屋の一番奥に至って、ようやく唯一残された窓から差し込む月光がほの暗くソファを照らし出しておった。
そのような状況にもかかわらず、灯りを増やせとの文句が一つも出なかった。
奥のソファに酔いつぶれておる者たちは除くとして。
席にまだ残っておる者たち
――酔っておるとはいえ、しっかり意識を保っておる者たち
――そして無論酒を好まぬ者たちもおろうから、まったく素面の者もおるはずであった
――その者たちにとっても、その方が望ましいのだろう。
私の心拍は徐々に上がって行った。
やがてこの者たちのうちの一人
――私の最も近くに座を占める二人のうちの一人
――私の席の左斜め前に座る男
――その男はそれまで、さんざっぱらチイねえの尻の方は触ったり撫でたりもんだりと、近くを通るたびに好き放題しておったのだが、
――私の方に手をだすことはなかった
――ついにその男が生白い右腕を伸ばして、私の左腕をつかんだ。
逆側、つまり右斜め前の男は男で、チイねえの尻をもみまくっておった。
これまでは怒りを見せたり、振り払ったりしないまでも、それから逃げる如く歩き過ぎるチイねえであったが、今回はしばし動かなかった。
「何をするんですか。放しなさい」
チイねえが近くにおることに勇気をもらい、きつく言った。
「放さねえよ」
と相手は応じる。
「王太子様に言いつけますよ」
こちらは、今、思いついた言葉ではない。
まさに敵の動きを知るため、準備しておった言葉。
「言えよ」
「本当に言いますよ。
どうなるか知りませんよ。
王太子様の婚約者に手を出せば、ただでは済みませんよ」
「どうも、ならねえんだよ。
何せ、その王太子様から頼まれてんだからよ。
まあ、こっちも役得だよ。
こんな美人の処女をいただけたうえに、金品までいただけるとあってはよ。
おまけに次の王位が確実の王太子様の覚えまで良くなると来るんだからな。」
そしてその者は一呼吸置いてこう続けた。
「我らの後ろには王太子様がおる。
つまり国軍がおるということだ。
ここに来る途中で、公爵の大部隊を見た。
何を考えておるのか知らぬが、下手に部隊を動かすと、どうなるか分かるか。
公爵家が滅ぶことになるぞ」
そう言い終えると、その者は自ら意識してか否か、その悪意そのままに引き歪んだ笑みを浮かべ、
――それをテーブルにただ一つある燭台が、照らしておった。
後書きです。
次話は少しばかり、残虐なシーンもありますので、苦手な方はご遠慮ください。
結果は次次話に書きますので、ストーリーを追う点で、不都合はありません。
王太子の親友たちはやって来た。
ただ12人もいた。
父上の策が決まった後、こちらは精一杯歓待しますとの返信を出しておった。
すると、それに対して、到着日を報せる手紙が来て、5人で訪れますということだったけど。
ずい分、増えた訳だ。
とはいえ、そのこと自体は、なじるべき事柄ではなかった。
――ただ相手が猟を楽しむためだけに来たのならば。
そして日が沈みきらぬうちに、客の申し出のままに、夕の宴が始まった。
ただ、こちらも条件を一つ付ける。
せっかく、この離れで宴をするなら、この燭台のロウソクだけでしましょうよと。
後は月明かりが補ってくれるわと。
これはお二人の提案によるものだった。
その際、ゴリねえは次の如く付け加えた。
「私たち2人は夜目が利きますので、エリザベト様はどうぞご安心ください」と。
無論、私は反対しなかった。
正直、全ておまかせであった。
それに加えて、お二人が私に注意したのは2点。
この席に留まること。
テーブルの下は触らないこと。
前者はよく分かるが、後者は?
でも聞いたら聞いたで恐そうなので、ただうなずいた。
相手は、ワインをたくさん持って来ておった。
自らもがぶ飲みしながら、私にも勧めてくる。
断る訳にも行かないが、無論、飲む気もない。
舌を湿らすのみで、ごまかす。
相手は徐々に下卑た動きに出た。
ただ私にではない。
チイねえに対してであった。
チイねえは、給仕としてこちらが用意した料理と飲み物を配るために、どうしても客の間近を通らなければならなかった。
最初は「ねえちゃん。男は知っているのか?」
やがて「どうだい。今夜、俺と」
そしてついには、なにかとチイねえの尻を触る。
胸の方は、チイねえがガッチリ腕でガードしておった。
ただこれは男であることがバレないようにとの、用心ゆえと私には想われた。
なにせ、結構、尻の方はさわられ放題であった。
さすが、父上に選ばれるだけの者。
まったく気にしていない
・・・・・・なんてことはなかったと、この後すぐに知るのだけど。
そりゃあ、さわられ放題なんてされたら、誰だって怒るわよね。
日が暮れ行くにつれ、
――私の近くに置かれた燭台の周りのみが、何とか灯りがあるという状況となり、
――そして部屋の中ほどはほぼ暗闇にしずみ、
――部屋の一番奥に至って、ようやく唯一残された窓から差し込む月光がほの暗くソファを照らし出しておった。
そのような状況にもかかわらず、灯りを増やせとの文句が一つも出なかった。
奥のソファに酔いつぶれておる者たちは除くとして。
席にまだ残っておる者たち
――酔っておるとはいえ、しっかり意識を保っておる者たち
――そして無論酒を好まぬ者たちもおろうから、まったく素面の者もおるはずであった
――その者たちにとっても、その方が望ましいのだろう。
私の心拍は徐々に上がって行った。
やがてこの者たちのうちの一人
――私の最も近くに座を占める二人のうちの一人
――私の席の左斜め前に座る男
――その男はそれまで、さんざっぱらチイねえの尻の方は触ったり撫でたりもんだりと、近くを通るたびに好き放題しておったのだが、
――私の方に手をだすことはなかった
――ついにその男が生白い右腕を伸ばして、私の左腕をつかんだ。
逆側、つまり右斜め前の男は男で、チイねえの尻をもみまくっておった。
これまでは怒りを見せたり、振り払ったりしないまでも、それから逃げる如く歩き過ぎるチイねえであったが、今回はしばし動かなかった。
「何をするんですか。放しなさい」
チイねえが近くにおることに勇気をもらい、きつく言った。
「放さねえよ」
と相手は応じる。
「王太子様に言いつけますよ」
こちらは、今、思いついた言葉ではない。
まさに敵の動きを知るため、準備しておった言葉。
「言えよ」
「本当に言いますよ。
どうなるか知りませんよ。
王太子様の婚約者に手を出せば、ただでは済みませんよ」
「どうも、ならねえんだよ。
何せ、その王太子様から頼まれてんだからよ。
まあ、こっちも役得だよ。
こんな美人の処女をいただけたうえに、金品までいただけるとあってはよ。
おまけに次の王位が確実の王太子様の覚えまで良くなると来るんだからな。」
そしてその者は一呼吸置いてこう続けた。
「我らの後ろには王太子様がおる。
つまり国軍がおるということだ。
ここに来る途中で、公爵の大部隊を見た。
何を考えておるのか知らぬが、下手に部隊を動かすと、どうなるか分かるか。
公爵家が滅ぶことになるぞ」
そう言い終えると、その者は自ら意識してか否か、その悪意そのままに引き歪んだ笑みを浮かべ、
――それをテーブルにただ一つある燭台が、照らしておった。
後書きです。
次話は少しばかり、残虐なシーンもありますので、苦手な方はご遠慮ください。
結果は次次話に書きますので、ストーリーを追う点で、不都合はありません。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は高らかに笑う。
アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。
エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。
たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。
男爵令嬢に教えてもらった。
この世界は乙女ゲームの世界みたい。
なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。(話し方など)
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
これは一周目です。二周目はありません。
基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。
もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。
そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる