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第22話 聞いてないんだけど7(第1部 完)
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そのあと、帝は何もせずに去った。結局、私は帝の問いに答えることはできなかった。ただ、どうやら、帝はそれが図星を突いておるゆえと、そう考えたようだった。一睡もできぬまま、迎えに来た内侍に導かれて戻るときには、既に夜が白み始めておった。
あの夜から既に十日ばかり経っておった。そして、あの夜のことが散々な噂となっておるらしいことは、周りの様子から、何となく分かる。ただ、誰も直接、それについて尋ねて来ないけど。
そんな今日の夕前、亀山様がようやく姿を見せてくれた。迷迷をその腕に抱いて。亀山様が私に渡そうとすると、迷迷はするりと抜けだし、いつものねぐらに向かう。そこは、倉の影になっていて、他の人の視界には触れない。それもあって、私たちが良く立ち話をする場所でもあった。
「なかなか来てくれませんでしたね」
「そうですね。ただ、あちらにおる方が、いろいろと動きは分かりますから」
「やはり、あの夜のことは知れ渡っておるのでしょうか。官家(帝)が口外されたのですか?」
「恐らく噂の源は複数です。部屋の側らに控えておった内侍たちでしょう。何が起きたのか、正確に把握するのは難しい状況です。それほどに噂が混乱しております。まあ、広まるうちに、様々な尾ひれがつくというのは、良くあることではありますが」
私はそこで、その夜に起きたことを改めて説明する。
「なるほどね。これで謎が一つ解けましたよ。噂の一方は娘娘の命によるものとし、他方は娘娘を頼りにと、そうなっていましたから」
「でも、どうして誰も聞きに来ないの?」
亀山様は少し考える風であり、やがて口を開かれた。
「もし、前者が事実であった場合、下手な勘繰りを入れたことがバレると、娘娘に睨まれることになってしまいます。それを恐れてのことでしょう」
そうして、亀山様は、私に一歩近付く。
「しかし、大胆なことをなされたものです」
息が触れるほどに亀山様の顔が近い。
「可愛らしい雉のつがいになるのは、私には無理のようです」
「私は勇敢な鳳凰の方が好きです」
その声が心に届く頃には、柔らかな唇が私のそれに重ねられておった。
(第1部完)
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。これにて、第1部完結です。第2部の再開については、来週半ば頃を予定しております。引き続きお楽しみいただけるような小説をお届けできればと、そう願っております。
あの夜から既に十日ばかり経っておった。そして、あの夜のことが散々な噂となっておるらしいことは、周りの様子から、何となく分かる。ただ、誰も直接、それについて尋ねて来ないけど。
そんな今日の夕前、亀山様がようやく姿を見せてくれた。迷迷をその腕に抱いて。亀山様が私に渡そうとすると、迷迷はするりと抜けだし、いつものねぐらに向かう。そこは、倉の影になっていて、他の人の視界には触れない。それもあって、私たちが良く立ち話をする場所でもあった。
「なかなか来てくれませんでしたね」
「そうですね。ただ、あちらにおる方が、いろいろと動きは分かりますから」
「やはり、あの夜のことは知れ渡っておるのでしょうか。官家(帝)が口外されたのですか?」
「恐らく噂の源は複数です。部屋の側らに控えておった内侍たちでしょう。何が起きたのか、正確に把握するのは難しい状況です。それほどに噂が混乱しております。まあ、広まるうちに、様々な尾ひれがつくというのは、良くあることではありますが」
私はそこで、その夜に起きたことを改めて説明する。
「なるほどね。これで謎が一つ解けましたよ。噂の一方は娘娘の命によるものとし、他方は娘娘を頼りにと、そうなっていましたから」
「でも、どうして誰も聞きに来ないの?」
亀山様は少し考える風であり、やがて口を開かれた。
「もし、前者が事実であった場合、下手な勘繰りを入れたことがバレると、娘娘に睨まれることになってしまいます。それを恐れてのことでしょう」
そうして、亀山様は、私に一歩近付く。
「しかし、大胆なことをなされたものです」
息が触れるほどに亀山様の顔が近い。
「可愛らしい雉のつがいになるのは、私には無理のようです」
「私は勇敢な鳳凰の方が好きです」
その声が心に届く頃には、柔らかな唇が私のそれに重ねられておった。
(第1部完)
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。これにて、第1部完結です。第2部の再開については、来週半ば頃を予定しております。引き続きお楽しみいただけるような小説をお届けできればと、そう願っております。
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