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【#28 お見合い話を持ちかけられました】
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招かれた書斎は、相変わらず本のいい匂いがした。
テーブルには、既にお茶の用意ができている。
「よく来てくれたね。かけなさい、ティアメイ」
私はふかふかのソファーに座り、すぐそばにアキトが控えて立った。
書斎はお父様のお気に入りの場所で、考えごとをしたり、一人になりたいときにもよく使っているみたい。
公爵領の政治を執り行うための執務室というのもあるのだけれど、お父様はもっぱらこっちに入り浸っている。
小ぢんまりとしていて落ちつくし、壁には絵画が飾られていたり、温室が隣接していたりして、日当たりもいいし過ごしやすいのだ。いわば隠れ家みたいな感じかな。
「ごきげんよう、お父様。どうなさったの?」
一応、礼儀として、普通のお嬢様っぽく挨拶してみる。
お父様の表情はごく普通で、機嫌は悪くないみたい。
「実はな、ティアメイ。お前に見合いの話が来ている」
「なあんだ、そんなこと」
私は拍子抜けした。
この世界じゃ結婚適齢期は十八歳から二十四歳ぐらいだ。特に貴族の女性は幼いころに婚約者を決められ、十八歳の成人と同時に結婚ということも珍しくない。
問題になるのは身分で、基本的に同じか隣り合う身分の人としか結婚はできないことになっている。
例えば侯爵家の人の場合、結婚できるのは同じ侯爵家か、一つ身分が下の伯爵家か、一つ身分が上の公爵家の人だけだ。
私も十六歳、そろそろ縁談の一つや二つ、来たっておかしくないころだ。
もちろん、結婚する気は全然ないけどね。
「それで? どなたとのお見合いなんですの?」
いい香りの紅茶に口をつけて、私は尋ねる。
「ウェンゼル公爵家のご子息、オスカー殿だ」
ブーッ!!
私は飲んでいた紅茶を霧状に噴き出して、むせ返った。
「お嬢様! 大丈夫ですか」
アキトが慌てて私の背をさすり、メイドに指示してテーブルを拭かせる。
お父様は間一髪で私が生み出した紅茶の霧から逃れ、「はははっ」と笑い声を上げた。
「相変わらず面白いなあ、我が娘よ」
「面白いなあ、じゃないわよ! 何で私がよりにもよってあんな」
「お嬢様」
アキトに咳払いで合図をされ、はっと口をつぐむ。
そうだった。オスカーに拉致られた話は、お父様には秘密にしておかないと。
「ティアメイはオスカー殿と面識があったかな?」
「え、ええ。以前、お茶会でお見かけした程度だけれど」
お父様の目が光っている。アキトの横顔は強張っている。ここは何とか切り抜けないと。
気合を入れようと、膝の上で右手をぎゅっと握りしめる。
テーブルには、既にお茶の用意ができている。
「よく来てくれたね。かけなさい、ティアメイ」
私はふかふかのソファーに座り、すぐそばにアキトが控えて立った。
書斎はお父様のお気に入りの場所で、考えごとをしたり、一人になりたいときにもよく使っているみたい。
公爵領の政治を執り行うための執務室というのもあるのだけれど、お父様はもっぱらこっちに入り浸っている。
小ぢんまりとしていて落ちつくし、壁には絵画が飾られていたり、温室が隣接していたりして、日当たりもいいし過ごしやすいのだ。いわば隠れ家みたいな感じかな。
「ごきげんよう、お父様。どうなさったの?」
一応、礼儀として、普通のお嬢様っぽく挨拶してみる。
お父様の表情はごく普通で、機嫌は悪くないみたい。
「実はな、ティアメイ。お前に見合いの話が来ている」
「なあんだ、そんなこと」
私は拍子抜けした。
この世界じゃ結婚適齢期は十八歳から二十四歳ぐらいだ。特に貴族の女性は幼いころに婚約者を決められ、十八歳の成人と同時に結婚ということも珍しくない。
問題になるのは身分で、基本的に同じか隣り合う身分の人としか結婚はできないことになっている。
例えば侯爵家の人の場合、結婚できるのは同じ侯爵家か、一つ身分が下の伯爵家か、一つ身分が上の公爵家の人だけだ。
私も十六歳、そろそろ縁談の一つや二つ、来たっておかしくないころだ。
もちろん、結婚する気は全然ないけどね。
「それで? どなたとのお見合いなんですの?」
いい香りの紅茶に口をつけて、私は尋ねる。
「ウェンゼル公爵家のご子息、オスカー殿だ」
ブーッ!!
私は飲んでいた紅茶を霧状に噴き出して、むせ返った。
「お嬢様! 大丈夫ですか」
アキトが慌てて私の背をさすり、メイドに指示してテーブルを拭かせる。
お父様は間一髪で私が生み出した紅茶の霧から逃れ、「はははっ」と笑い声を上げた。
「相変わらず面白いなあ、我が娘よ」
「面白いなあ、じゃないわよ! 何で私がよりにもよってあんな」
「お嬢様」
アキトに咳払いで合図をされ、はっと口をつぐむ。
そうだった。オスカーに拉致られた話は、お父様には秘密にしておかないと。
「ティアメイはオスカー殿と面識があったかな?」
「え、ええ。以前、お茶会でお見かけした程度だけれど」
お父様の目が光っている。アキトの横顔は強張っている。ここは何とか切り抜けないと。
気合を入れようと、膝の上で右手をぎゅっと握りしめる。
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