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接ぎ穂を失って戸惑う聖の横で、すさまじい冷気を帯びた声が言った。
「やはり月代彼方の末裔か」
聖は飛び上がりそうになるほど驚いた。
このどす黒く禍々しい気配。のどかな春の野原が一瞬で焦土に化すほどの、不穏で冷厳とした威圧。殺気にも似た、突き刺さるような視線。
それが今、まっすぐに遥に向けて注がれている。これがヴァンの放つ気だというのか。
呼吸の乱れさえ読み取られ、目が合っただけで息の根を止められそうだ。
聖は肩先に重くのしかかる瘴気にあてられてうつむいた。
冷や汗が背中を滑り落ちる。怖い、と心が悲鳴を上げていた。
そのとき、聖は信じられないものを見た。
月代遥はヴァンの視線を正確に受け止め、それどころかふっと微笑んだではないか。
(この人、まさか)
遥は口元を緩やかに笑ませ、目だけは笑わずに鋭く引き絞ったままこう言った。
「はじめまして。吸血鬼さん」
声には親しむような色さえ浮かんでいる。滲み出る余裕は間違いなく本物だった。
「月代さん、視えるんですか?」
聖はすがるように問いかける。遥はそれにも笑顔で頷いた。
「もちろん。はっきりと視えているよ。黒い服に身を包んだ、背の高い綺麗な顔の吸血鬼がね」
「吸血鬼のこと、由宇から聞いたんですか?」
「いいや。話せば長くなるけどね、僕は彼のことをちょっと知っているんだ。昔から」
聖は驚愕に絶句した。
遥がヴァンを知っている?
(じゃあやっぱり、ヴァンは俺の生み出した幻覚じゃなかったんだ)
ヴァンは射殺すような凶悪な目つきで遥を睨みつける。それに反して、その口元は獰猛な笑みの形を作っている。
まるで、肉食獣が最良の獲物に出会えたことを狂喜しているかのように。
「二百年ぶりの再会か。嬉しいぞ。忌々しき月代の血を、この手で根絶やしにできるんだからな」
空気がしびれ震撼するほどの恐怖を煽るヴァンの挑発に、しかし遥は新緑のように爽やかな表情でこう言った。
「再会を喜んでいる時間はないよ。君は今から、暗く冷たい地の底で再び這いつくばることになるのだから。
地上の全てにさよならを告げるがいい。……お別れの時間だ」
遥の冷たく透きとおった声は、深閑とした居間に響いた。
まるで裁きのように。
「やはり月代彼方の末裔か」
聖は飛び上がりそうになるほど驚いた。
このどす黒く禍々しい気配。のどかな春の野原が一瞬で焦土に化すほどの、不穏で冷厳とした威圧。殺気にも似た、突き刺さるような視線。
それが今、まっすぐに遥に向けて注がれている。これがヴァンの放つ気だというのか。
呼吸の乱れさえ読み取られ、目が合っただけで息の根を止められそうだ。
聖は肩先に重くのしかかる瘴気にあてられてうつむいた。
冷や汗が背中を滑り落ちる。怖い、と心が悲鳴を上げていた。
そのとき、聖は信じられないものを見た。
月代遥はヴァンの視線を正確に受け止め、それどころかふっと微笑んだではないか。
(この人、まさか)
遥は口元を緩やかに笑ませ、目だけは笑わずに鋭く引き絞ったままこう言った。
「はじめまして。吸血鬼さん」
声には親しむような色さえ浮かんでいる。滲み出る余裕は間違いなく本物だった。
「月代さん、視えるんですか?」
聖はすがるように問いかける。遥はそれにも笑顔で頷いた。
「もちろん。はっきりと視えているよ。黒い服に身を包んだ、背の高い綺麗な顔の吸血鬼がね」
「吸血鬼のこと、由宇から聞いたんですか?」
「いいや。話せば長くなるけどね、僕は彼のことをちょっと知っているんだ。昔から」
聖は驚愕に絶句した。
遥がヴァンを知っている?
(じゃあやっぱり、ヴァンは俺の生み出した幻覚じゃなかったんだ)
ヴァンは射殺すような凶悪な目つきで遥を睨みつける。それに反して、その口元は獰猛な笑みの形を作っている。
まるで、肉食獣が最良の獲物に出会えたことを狂喜しているかのように。
「二百年ぶりの再会か。嬉しいぞ。忌々しき月代の血を、この手で根絶やしにできるんだからな」
空気がしびれ震撼するほどの恐怖を煽るヴァンの挑発に、しかし遥は新緑のように爽やかな表情でこう言った。
「再会を喜んでいる時間はないよ。君は今から、暗く冷たい地の底で再び這いつくばることになるのだから。
地上の全てにさよならを告げるがいい。……お別れの時間だ」
遥の冷たく透きとおった声は、深閑とした居間に響いた。
まるで裁きのように。
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