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【延長戦】
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「歩君、君は誤解している。バニシングナイトを発案したのは君のお父さんだ。初回の参加者となったのも、周が自ら望んだことだ。彼はゲームを心から楽しんでいた。
BBWを畳もうとしていたとか、私との不仲説や陰謀説が流れているのは知っている。だが、それはみんなでたらめだ。私と周は学生時代からの親友だ。それは彼が死ぬまで、いや、死んでからも決して変わらない」
信じてくれ、と吉田は切羽詰まった瞳で叫んだ。
「信じられるわけないだろ?じゃあ何で、母さんは自殺したんだよ」
こめかみの血管がのたうった。
この期に及んで、こいつは嘘に嘘を塗り重ねるのか。
「分からない。だが、これだけは言える。君がこんなことをするのを、お父さんは決して望んじゃいない。
『汝は人狼なりや?』は、君のお父さんが生み出した高度で知的な推理ゲームだ。推理が人の心を歪めたり、人間関係を壊すだなんてあり得ない。君はSacred Raverの連中に騙されているんだ」
「歩」
戸上さんが鋭い口調で言い刺した。
「タイムリミットだ。お前が撃たないのなら俺がやる」
先ほどから、少しずつ戸上さんの息が荒くなっている。傷口からかなり出血しているのだろう。
早く真知子さんに診てもらわないと、命に関わるかもしれない。
俺は頷き、射撃に正確を期すために一歩、吉田のほうへ歩み寄った。
そのときだった。
「うわああああっ!」
大声を上げた吉田が懐から拳銃を取り出し、こちら目がけて発砲した。
パン、パンと乾いた二発の銃声が響き渡る。
「大丈夫か」
一瞬で全てが終わり、戸上さんは俺の隣で冷静に問う。
「はい。弾は当たりませんでした」
俺は淡々と言い、撃った自分の手と、死体になった吉田を見下ろした。
「自分が情けないです。この期に及んで、こんな奴に言いくるめられそうになるなんて」
額にぽつりと空いた穴から血が流れ、目の横を通って鼻から口へ赤い線を描いている。
虚ろな眼差し、半開きになった物言わぬ唇。
もし吉田の言うことが本当なら、親友の息子である俺を殺そうとはしないはずだ。
そんなことは表彰式の時点で明らかだったのに、目の前でああも真に迫った演技で訴えかけられると、つい心が揺らいでしまう。
誰かを信じようとする、俺の悪い癖だ。そのせいで何度も痛い目に遭ってきたのに。
「いいんだよ、それがお前のいいところなんだから」
俺の心を読んだかのように戸上さんは言った。
慰めるように頭をたたかれ、俺はうつむき、心の中で呟く。
――ああ、俺は弱い。
弱いから誰かを信じたい。
心の底から、信じたくてたまらないんだ。
BBWを畳もうとしていたとか、私との不仲説や陰謀説が流れているのは知っている。だが、それはみんなでたらめだ。私と周は学生時代からの親友だ。それは彼が死ぬまで、いや、死んでからも決して変わらない」
信じてくれ、と吉田は切羽詰まった瞳で叫んだ。
「信じられるわけないだろ?じゃあ何で、母さんは自殺したんだよ」
こめかみの血管がのたうった。
この期に及んで、こいつは嘘に嘘を塗り重ねるのか。
「分からない。だが、これだけは言える。君がこんなことをするのを、お父さんは決して望んじゃいない。
『汝は人狼なりや?』は、君のお父さんが生み出した高度で知的な推理ゲームだ。推理が人の心を歪めたり、人間関係を壊すだなんてあり得ない。君はSacred Raverの連中に騙されているんだ」
「歩」
戸上さんが鋭い口調で言い刺した。
「タイムリミットだ。お前が撃たないのなら俺がやる」
先ほどから、少しずつ戸上さんの息が荒くなっている。傷口からかなり出血しているのだろう。
早く真知子さんに診てもらわないと、命に関わるかもしれない。
俺は頷き、射撃に正確を期すために一歩、吉田のほうへ歩み寄った。
そのときだった。
「うわああああっ!」
大声を上げた吉田が懐から拳銃を取り出し、こちら目がけて発砲した。
パン、パンと乾いた二発の銃声が響き渡る。
「大丈夫か」
一瞬で全てが終わり、戸上さんは俺の隣で冷静に問う。
「はい。弾は当たりませんでした」
俺は淡々と言い、撃った自分の手と、死体になった吉田を見下ろした。
「自分が情けないです。この期に及んで、こんな奴に言いくるめられそうになるなんて」
額にぽつりと空いた穴から血が流れ、目の横を通って鼻から口へ赤い線を描いている。
虚ろな眼差し、半開きになった物言わぬ唇。
もし吉田の言うことが本当なら、親友の息子である俺を殺そうとはしないはずだ。
そんなことは表彰式の時点で明らかだったのに、目の前でああも真に迫った演技で訴えかけられると、つい心が揺らいでしまう。
誰かを信じようとする、俺の悪い癖だ。そのせいで何度も痛い目に遭ってきたのに。
「いいんだよ、それがお前のいいところなんだから」
俺の心を読んだかのように戸上さんは言った。
慰めるように頭をたたかれ、俺はうつむき、心の中で呟く。
――ああ、俺は弱い。
弱いから誰かを信じたい。
心の底から、信じたくてたまらないんだ。
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