THE LAST WOLF

凪子

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【6日目】

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ゲームマスターの声が淡々と言い、座席を覆うカプセルが視界を遮断し終えたとき、俺は心の底から安堵のため息をついていた。

「よかった……」

これで戸上明典が村人だったら、村人二、人狼二で人狼の勝利だ。

夜のターンを迎えた時点で、ゲーム終了の合図になる。

しかし、夜のターンが普通に始まったということは、まだこのゲームは続いているということ。

つまり、この時点でもう一人、人狼が生きている。

戸上明典は二人目の人狼だったのだ。

「マジかよ……」

どんな演技力だよ。

人狼どころか、中盤まで俺だけじゃない、ほとんどの人間が彼を占い師だと信じて疑わなかったぞ。

疑ってたのは桜庭のんくらいだ。

完璧に占い師になりおおせた、その冷静さと大胆さ。

臨機応変に発言を変え、ゲームを有利な方向へ導いた、頭の回転の速さと度胸。

どれをとっても、とても敵いそうにない。

俺一人だったら、絶対に騙されたまま負けていただろう。

残るは四人。恐らく今晩、桜庭のんは殺される。

さすがに騎士が生存しているとわかっていて、騎士以外の人間を襲いに行くということはないだろう。

二分の一の確率でその相手を桜庭のんが守っているのだから、あまりにリスクが高すぎる。

騎士は潜むもの。陰ながら村を守り、そして一たび表に出れば、その日の夜に殺される。

殺されることで一ターン稼ぎ、最後に身を挺して他の村人を人狼から守るのだ。

桜庭のんがくれた大切な勝機だ、必ず掴まなければならない。

『あなたは村人です。夜のターンを終了します』

形勢は既に逆転している。人狼有利から、村人有利に状況は変化している。

明日の朝、生き残っているのは俺、片岡啓作、麻生雪妃の三人。

俺は一応、騎士に守られたということで桜庭のんが申告してくれたから、ほぼ白確だ。

つまり片岡啓作か、麻生雪妃のいずれかを人狼だと選ぶ側になる。

この投票による処刑が、名実ともに最後の処刑だ。

村人を処刑すれば人狼一、村人一で人狼の勝利。人狼を処刑すれば、全ての人狼が処刑されて村人の勝利。

明日が来ることが分かっている、これほど嬉しいことはない。昨日とは大違いだ。

目を覚ませば殴り合いが始まるだろう。勝敗と命を賭けた、最後の壮絶な戦いが。

結論はほぼ出ている。でも最後にもう一度、何の先入観もない心で二人の言葉を聞いてみよう。

そうして出た答えが、このゲームの終着点だ。

――ラストウルフ。

『汝は人狼なりや?』の用語で、最後の人狼を意味する。

ゲームスタート時点で三名いる人狼、その最後の生き残りだ。

人狼が何名生き残っているかというのは、このゲームにおいて最も重要な情報の一つだ。

今回、占い師や霊媒師の不在により、こんな終盤になるまで人狼の数を確定させることができなかった。

でも、今はもう分かっている。人狼はあと一人。これさえ吊れば勝ちだ。

ラストウルフよ、震えて眠れ。結末はすぐそこまで近づいている。

《そして村には再び平和が訪れ、村人たちはいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。》

























【6日目・終】
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