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夏の黎明
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――その二週間後に透子は死んだ。
家に戻った翌日に大きな発作を起こし、そのまま意識が戻らなかったらしい。
透子の体調を悪化させ、寿命を縮めた犯人として、京介は葬式に参列することすら許されなかったが、特に気に留めなかった。
遺影の前で手を合わせる必要などない、透子はいつもそばにいた。
その後、家にやってきた涼子に「人殺し」と激しく罵られ、顔を殴られたのも、今となっては懐かしい思い出だ。
涼子とはそれ以来腐れ縁で、付き合ったり別れたりを繰り返したが、彼女が結婚してニューヨークに渡って以来、音信は途絶えた。
出立の日、涼子からメールが送られてきた。
透子の遺書の一部だった。
【京介は私を地獄から救ってくれました。彼がいなければ、私は一度も胸を張って人生を生きたと言えなかったと思います。
お父さん、お母さん、お姉ちゃん、ごめんね。
私は彼を選びます。
もし私が死んで、それを京介のせいにして彼を責めたら、私はあなたたちを絶対に許さない。
あなたたちが私を愛してくれたように――ううん、それ以上に、私は京介を愛しています。
今までありがとう。透子】
あの駆け落ちの日、透子は家族に宛てた書き置きを残していったのだ。
恐らくもう二度と、まともに会話することはできないだろうと。
深夜、家を抜け出し、三年ぶりに再会したときの彼女の表情が蘇る。
清々しく、何かを覚悟したような眼差しも。
『あんなに愛されておいて、大事にされておいて、最後の最後であの子は私たち家族じゃなく、あんたを選んだのよ。
――許せなかった。どうにかして復讐してやりたかった。
私が負ったように、心に一生残る傷を、あんたにも負わせてやりたかった。
そのために、私はあんたと付き合った。
でも、そんなこと、あんたにはお見通しだったみたいね。
そういうところも含めて、私はあんたが大嫌いよ』
涼子のメールは、そう結ばれていた。
彼女らしいやり方だと京介は思った。
怒りや恨みは不思議なほどなかった。
家に戻った翌日に大きな発作を起こし、そのまま意識が戻らなかったらしい。
透子の体調を悪化させ、寿命を縮めた犯人として、京介は葬式に参列することすら許されなかったが、特に気に留めなかった。
遺影の前で手を合わせる必要などない、透子はいつもそばにいた。
その後、家にやってきた涼子に「人殺し」と激しく罵られ、顔を殴られたのも、今となっては懐かしい思い出だ。
涼子とはそれ以来腐れ縁で、付き合ったり別れたりを繰り返したが、彼女が結婚してニューヨークに渡って以来、音信は途絶えた。
出立の日、涼子からメールが送られてきた。
透子の遺書の一部だった。
【京介は私を地獄から救ってくれました。彼がいなければ、私は一度も胸を張って人生を生きたと言えなかったと思います。
お父さん、お母さん、お姉ちゃん、ごめんね。
私は彼を選びます。
もし私が死んで、それを京介のせいにして彼を責めたら、私はあなたたちを絶対に許さない。
あなたたちが私を愛してくれたように――ううん、それ以上に、私は京介を愛しています。
今までありがとう。透子】
あの駆け落ちの日、透子は家族に宛てた書き置きを残していったのだ。
恐らくもう二度と、まともに会話することはできないだろうと。
深夜、家を抜け出し、三年ぶりに再会したときの彼女の表情が蘇る。
清々しく、何かを覚悟したような眼差しも。
『あんなに愛されておいて、大事にされておいて、最後の最後であの子は私たち家族じゃなく、あんたを選んだのよ。
――許せなかった。どうにかして復讐してやりたかった。
私が負ったように、心に一生残る傷を、あんたにも負わせてやりたかった。
そのために、私はあんたと付き合った。
でも、そんなこと、あんたにはお見通しだったみたいね。
そういうところも含めて、私はあんたが大嫌いよ』
涼子のメールは、そう結ばれていた。
彼女らしいやり方だと京介は思った。
怒りや恨みは不思議なほどなかった。
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