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春の宵
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京介がわずらわしそうに手を振ったので、仕方なく桜はホールに戻った。
相変わらず、少年は黙々と勉強を続けている。
その横顔は理知的で、額と顎の線が清々しかった。
少年が着ているのは、川を挟んだ向こう側にある、有名な進学校の制服だった。
学校事情に大して詳しくない桜でも知っているくらい偏差値が高く、人気の学校だ。
――いじめられているようには見えないな。
身なりも綺麗だし、少年はすらりと背が高く、隙も卑屈さもない。
何より、一人で平然と喫茶店に出入りできる時点で、いじめのターゲットにはなりにくいだろう。
いじめというのは孤独を恐れる心につけ込み、特定の人間を仲間外れにすることで始まる。
だが、彼は孤独を恐れてはいなかった。
ふと目が合ったので、桜は軽く微笑みかけた。
が、少年は完全に無視してノートにさらさらと文字を書きつける。
むっとしたが、直後に客が入り始めたので、桜はその対応に追われることになった。
カフェ『リエゾン』は開店してからちょうど一年になる。白と緑を基調とした、イギリス風の内装の喫茶店だ。
店に入るとガラス張りのカウンター席が五つあって、そこから川を見下ろすことができる。
四人座れるテーブル席と、二人掛けの席が一つずつあって、それで全部だ。
こじんまりとした店内だが、窓が大きく明るいせいか、息苦しさは感じない。
流れる水は心を癒す効果があるのか、川を見下ろすことができるカウンター席は人気だった。
川沿いには桜並木があり、薄桃色の花弁が水面を流れていく。
古いアーチ型の石橋の上を人が行き交い、会社や学校や商店街に向かっていく。
壁際にはアンティークのオルゴール時計があって、一時間ごとに曲が流れる。
アヴェ・マリア、きらきら星、乙女の祈り、アメイジング・グレイス。
ちょうど19時にそのオルゴールの音がこぼれて、ふと顔を上げた。
閉店の時間、最後の客が精算を済ませているところだった。
相変わらず、少年は黙々と勉強を続けている。
その横顔は理知的で、額と顎の線が清々しかった。
少年が着ているのは、川を挟んだ向こう側にある、有名な進学校の制服だった。
学校事情に大して詳しくない桜でも知っているくらい偏差値が高く、人気の学校だ。
――いじめられているようには見えないな。
身なりも綺麗だし、少年はすらりと背が高く、隙も卑屈さもない。
何より、一人で平然と喫茶店に出入りできる時点で、いじめのターゲットにはなりにくいだろう。
いじめというのは孤独を恐れる心につけ込み、特定の人間を仲間外れにすることで始まる。
だが、彼は孤独を恐れてはいなかった。
ふと目が合ったので、桜は軽く微笑みかけた。
が、少年は完全に無視してノートにさらさらと文字を書きつける。
むっとしたが、直後に客が入り始めたので、桜はその対応に追われることになった。
カフェ『リエゾン』は開店してからちょうど一年になる。白と緑を基調とした、イギリス風の内装の喫茶店だ。
店に入るとガラス張りのカウンター席が五つあって、そこから川を見下ろすことができる。
四人座れるテーブル席と、二人掛けの席が一つずつあって、それで全部だ。
こじんまりとした店内だが、窓が大きく明るいせいか、息苦しさは感じない。
流れる水は心を癒す効果があるのか、川を見下ろすことができるカウンター席は人気だった。
川沿いには桜並木があり、薄桃色の花弁が水面を流れていく。
古いアーチ型の石橋の上を人が行き交い、会社や学校や商店街に向かっていく。
壁際にはアンティークのオルゴール時計があって、一時間ごとに曲が流れる。
アヴェ・マリア、きらきら星、乙女の祈り、アメイジング・グレイス。
ちょうど19時にそのオルゴールの音がこぼれて、ふと顔を上げた。
閉店の時間、最後の客が精算を済ませているところだった。
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