護国の鳥

凪子

文字の大きさ
上 下
132 / 174
冬の章

130

しおりを挟む
大聖堂の扉を開けるやいなや、斬りかかってきた人影を、ルベリエは後ろに飛んで避けた。

腕の中で大人しくしていたユージェニーが、驚いて目を開ける。

「お前か」

ユージェニーを地面にそっとおろし、ルベリエは眼前のルートに向かって言った。

何が何だか分からず困惑しながらも、とにかく何か言わねばとするユージェニーを、まるで背中に目がついているかのように首を振って押し留める。

「相方はどこだ」

「あのガキのことを言ってるのなら、ここにはいない」

押し殺された低い声が答えた。

「朝起きたらどこにもいなかった」

「捜していたのか」

尋ねられたがルートは答えず、ルベリエと背後にかばわれたユージェニーを穴が開くほど凝視している。

「この人は私を助けてくれたの」

ユージェニーはつかえながら、ようやく口に出した。

「保険医の先生が手引きして、仲間を呼んでクーデターを起こしたのよ。黒装束の人間がいっぱい押し寄せてきて、もう少しで殺されるところだった」

焦りばかりが先に立ち、ユージェニーは息切れを覚えてしゃがみ込んだ。

心臓の鼓動がうるさく、冷や汗が背中にどっと噴き出してくる。

ルベリエが駆け寄り、背中に手を置いた。

「大丈夫か」

地面に手をつき、握りしめる爪に土がこびりつく。

見上げるユージェニーの瞳が震えている。彼女の息が整うまで、辛抱強くルベリエは待っている。

その様子を見て、ようやくルートは剣をおろした。

陽は中天に差しかかっているというのに、分厚い雲に覆われているせいか、辺りは薄暗く、凍りつくように寒い。

「何が起こってる」

ルベリエは答える代わりに指笛を吹き、伝書鳩を呼び出して、くくりつけられている文書を開いた。

目を落とすうちに、怜悧な横顔に苦いものが浮かぶ。

「ここはインバースに占拠された」

「インバースって」

ルートはかすれた声で、

「十年前にあんたらが壊滅させたんじゃないのか」

「生き残りがいる」

ルベリエは懐から銃を取り出すと、一つをルートに手渡した。

「奴らの目的は、インフィニティ・レムニスケートを手に入れることだ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【画像あり】転生双子の異世界生活~株式会社SETA異世界派遣部・異世界ナーゴ編~

BIRD
ファンタジー
【転生者モチ編あらすじ】 異世界を再現したテーマパーク・プルミエタウンで働いていた兼業漫画家の俺。 原稿を仕上げた後、床で寝落ちた相方をベッドに引きずり上げて一緒に眠っていたら、本物の異世界に転移してしまった。 初めての異世界転移で容姿が変わり、日本での名前と姿は記憶から消えている。 転移先は前世で暮らした世界で、俺と相方の前世は双子だった。 前世の記憶は無いのに、時折感じる不安と哀しみ。 相方は眠っているだけなのに、何故か毎晩生存確認してしまう。 その原因は、相方の前世にあるような? 「ニンゲン」によって一度滅びた世界。 二足歩行の猫たちが文明を築いている時代。 それを見守る千年の寿命をもつ「世界樹の民」。 双子の勇者の転生者たちの物語です。 現世は親友、前世は双子の兄弟、2人の関係の変化と、異世界生活を書きました。 画像は作者が遊んでいるネトゲで作成したキャラや、石垣島の風景を使ったりしています。 AI生成した画像も合成に使うことがあります。 編集ソフトは全てフォトショップ使用です。 得られるスコア収益は「島猫たちのエピソード」と同じく、保護猫たちのために使わせて頂きます。 2024.4.19 モチ編スタート 5.14 モチ編完結。 5.15 イオ編スタート。 5.31 イオ編完結。 8.1 ファンタジー大賞エントリーに伴い、加筆開始 8.21 前世編開始 9.14 前世編完結 9.15 イオ視点のエピソード開始 9.20 イオ視点のエピソード完結 9.21 翔が書いた物語開始

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

冷酷魔法騎士と見習い学士

枝浬菰
ファンタジー
一人の少年がドラゴンを従え国では最少年でトップクラスになった。 ドラゴンは決して人には馴れないと伝えられていて、住処は「絶海」と呼ばれる無の世界にあった。 だが、周りからの視線は冷たく貴族は彼のことを認めなかった。 それからも国を救うが称賛の声は上がらずいまや冷酷魔法騎士と呼ばれるようになってしまった。 そんなある日、女神のお遊びで冷酷魔法騎士は少女の姿になってしまった。 そんな姿を皆はどう感じるのか…。 そして暗黒世界との闘いの終末は訪れるのか…。 ※こちらの内容はpixiv、フォレストページにて展開している小説になります。 画像の二次加工、保存はご遠慮ください。

Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫
ファンタジー
 大陸統一。誰もが無理だと、諦めていたことである。  その偉業を、たった1代で成し遂げた1人の男がいた。  幾多の悲しみを背負い、夥しい屍を踏み越えた最も偉大な男。  大統帝アレクサンダリア1世。  そんな彼の最後はあっけないものだった。 『余の治世はこれにて幕を閉じる……これより、新時代の幕開けだ』 『クラウディアよ……余は立派にやれたかだろうか』 『これで全てが終わる……長かった』  だが、彼は新たな肉体を得て、再びこの世へ舞い戻ることとなる。  嫌われ者の少年、豚公子と罵られる少年レオンハルトへと転生する。  舞台は1000年後。時期は人生最大の敗北喫した直後。 『ざまあ見ろ!』 『この豚が!』 『学園の恥! いや、皇国の恥!』  大陸を統べた男は再び、乱れた世界に牙を剝く。  これはかつて大陸を手中に収めた男が紡ぐ、新たな神話である。 ※個人的には7話辺りから面白くなるかと思います。 ※題名が回収されるのは3章後半になります。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...