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秋の章
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――俺は殺せる。お姫様も殺せる。そして恐らく、目の前にいるこいつも。
根拠はないが確信があった。
――でも、ユリシスは駄目だ。あいつに人殺しになる度胸なんてない。覚悟もない。
――生まれつきの王子様が、それ以外の役割を与えられたところで演じきれるわけもない。
「あいつに自分の手を汚すのは無理だ。それでいいんだ。当たり前だよ。誰もそんなこと、あいつに望んじゃいないんだから」
胸のつかえが取れたような思いで、レッドは空を見上げる。
「まあ、よくもったほうだと思うよ。あいつはあいつなりに頑張ったし、その経験はこれからの人生に活きると思う。けど、ここらが潮時だ」
固く決心した瞳でレッドは繰り返した。
「あいつを軍人にさせちゃいけない」
これはフィンではなく、自分に聞かせるための独白だった。
踵を返して歩き出す、その背中にフィンは投げかけた。
「駄目だよ、レッド」
振り向くと、フィンの瞳が鋭い光を放っている。
「本当に大事なら、手を離しちゃだめだよ」
「何だよ、いきなり」
軽い笑いですませようと、用意したはずの表情がぎこちなく強張ってゆく。
居たたまれなくなって、レッドは咳払いをした。
「もう行くぞ。実科に遅れちまう」
「あ、待って」
と言いながら、フィンはぱたぱたと足音を立てて走ってくる。
隣に立たれた瞬間、半ば本能的に、体がフィンとの間に距離を取ろうとしていることに気づいた。
――怖いんだ、俺はこいつが。
認めたくはなかったが、認めざるを得なかった。
「なあ、おチビさ」
レッドはかすれた声で笑う。
「何?」
「やっぱ、よく分かんないんだけど。何で大聖堂にいたんだよ」
何でだろうね、とフィンは鈴を振るような声で笑った。
根拠はないが確信があった。
――でも、ユリシスは駄目だ。あいつに人殺しになる度胸なんてない。覚悟もない。
――生まれつきの王子様が、それ以外の役割を与えられたところで演じきれるわけもない。
「あいつに自分の手を汚すのは無理だ。それでいいんだ。当たり前だよ。誰もそんなこと、あいつに望んじゃいないんだから」
胸のつかえが取れたような思いで、レッドは空を見上げる。
「まあ、よくもったほうだと思うよ。あいつはあいつなりに頑張ったし、その経験はこれからの人生に活きると思う。けど、ここらが潮時だ」
固く決心した瞳でレッドは繰り返した。
「あいつを軍人にさせちゃいけない」
これはフィンではなく、自分に聞かせるための独白だった。
踵を返して歩き出す、その背中にフィンは投げかけた。
「駄目だよ、レッド」
振り向くと、フィンの瞳が鋭い光を放っている。
「本当に大事なら、手を離しちゃだめだよ」
「何だよ、いきなり」
軽い笑いですませようと、用意したはずの表情がぎこちなく強張ってゆく。
居たたまれなくなって、レッドは咳払いをした。
「もう行くぞ。実科に遅れちまう」
「あ、待って」
と言いながら、フィンはぱたぱたと足音を立てて走ってくる。
隣に立たれた瞬間、半ば本能的に、体がフィンとの間に距離を取ろうとしていることに気づいた。
――怖いんだ、俺はこいつが。
認めたくはなかったが、認めざるを得なかった。
「なあ、おチビさ」
レッドはかすれた声で笑う。
「何?」
「やっぱ、よく分かんないんだけど。何で大聖堂にいたんだよ」
何でだろうね、とフィンは鈴を振るような声で笑った。
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