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夏の章
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「君は、我慢することに慣れてしまっているんだね」
痛ましげな目でラグランジュは言った。
泥のような倦怠感に襲われ、ルートは何も口にすることができなかった。
処方された薬を飲み、目を閉じてうつらうつらしていると、
「随分と頑張っていたからね。きっと疲れが出たんだよ。何も心配せずに、ゆっくり休みなさい」
言い置いて、ラグランジュは食事や水の用意をしに行った。
天井がやけに高く感じ、ぐるぐると目が回って意識がおぼつかない。
背中がぞくぞくして、頭が割れるように痛くなってきた。
関節の痛みとだるさに耐えていると、
「ルート?」
耳元で聞き慣れた声がして、冷たい手のひらが頬に触れた。
目を開けると、いつの間にか起き出してきたフィンが、間近でこちらを覗き込んでいた。
「ルート、どうしたの?大丈夫?」
迷子のような眼差しですがりついてくる。
「それは、こっちの、台詞だろ」
咳き込んで言葉が途切れると、フィンは泣き出しそうな顔になった。
「ごめんね、ルート。俺のせいでルートも、俺みたくなっちゃったの?」
フィンはいやいやをするように首を振り、
「これからはルートの分、勝手に食べないようにするから。人の分、勝手に食べたから、罰が当たったんでしょう?ごめんなさい、怒ってる?」
ルートは小さく吹き出した。
「怒ってない」
自分でも驚くほど優しい声が出た。
「でも、何で?ルートは何も悪くないのに、悪いのは俺だけなのに。罰は俺だけでいいよ。ルートが寝込むなんて、おかしいよ。ねえ、ねえ」
布団の上から体を揺するので気分が悪くなってきて、ルートは「やめろ」と制した。
「関係ないから。俺のはただの風邪。寝てれば治る」
「本当?」
「ああ」
「本当に本当?」
「本当だって」
フィンはようやく安心したように笑顔を取り戻した。
「よかった」
その顔は、フィンが無事だと報せたときのユージェニーの表情とよく似ていた。
――俺には欠けているものを、こいつはちゃんと持ってるんだな。
誰かを大切に思う心を、フィンはきちんとその身に育んでいる。
親がおらず、苛酷な環境で育ち、記憶すら三年分しか持ち合わせていないのに。
痛ましげな目でラグランジュは言った。
泥のような倦怠感に襲われ、ルートは何も口にすることができなかった。
処方された薬を飲み、目を閉じてうつらうつらしていると、
「随分と頑張っていたからね。きっと疲れが出たんだよ。何も心配せずに、ゆっくり休みなさい」
言い置いて、ラグランジュは食事や水の用意をしに行った。
天井がやけに高く感じ、ぐるぐると目が回って意識がおぼつかない。
背中がぞくぞくして、頭が割れるように痛くなってきた。
関節の痛みとだるさに耐えていると、
「ルート?」
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目を開けると、いつの間にか起き出してきたフィンが、間近でこちらを覗き込んでいた。
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迷子のような眼差しですがりついてくる。
「それは、こっちの、台詞だろ」
咳き込んで言葉が途切れると、フィンは泣き出しそうな顔になった。
「ごめんね、ルート。俺のせいでルートも、俺みたくなっちゃったの?」
フィンはいやいやをするように首を振り、
「これからはルートの分、勝手に食べないようにするから。人の分、勝手に食べたから、罰が当たったんでしょう?ごめんなさい、怒ってる?」
ルートは小さく吹き出した。
「怒ってない」
自分でも驚くほど優しい声が出た。
「でも、何で?ルートは何も悪くないのに、悪いのは俺だけなのに。罰は俺だけでいいよ。ルートが寝込むなんて、おかしいよ。ねえ、ねえ」
布団の上から体を揺するので気分が悪くなってきて、ルートは「やめろ」と制した。
「関係ないから。俺のはただの風邪。寝てれば治る」
「本当?」
「ああ」
「本当に本当?」
「本当だって」
フィンはようやく安心したように笑顔を取り戻した。
「よかった」
その顔は、フィンが無事だと報せたときのユージェニーの表情とよく似ていた。
――俺には欠けているものを、こいつはちゃんと持ってるんだな。
誰かを大切に思う心を、フィンはきちんとその身に育んでいる。
親がおらず、苛酷な環境で育ち、記憶すら三年分しか持ち合わせていないのに。
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